特集

2017.03.05|

韓国訪問記2006


訪問期間 2006年11月22日~25日


■11月23日(木)

 前日夜遅く、ソウル・金浦空港に到着。羽田からのシャトル便は大変便利。ただ、連休前とあってか羽田はとても混雑していて、随分並んだ。飛行機の中で少し寝たせいか、夜更けまでまんじりともせず。
 朝、大島駐韓大使から現地の最新情報をヒアリングしたあと、韓国インターネットメディアの「OhMyNews」を視察。「OhMyNews」は市民記者が世界中から記事を送り、それをインターネットに掲載するという仕組みで、韓国政治にも大きな影響を与えている。「すべての市民が記者になれる」というコンセプトの下、新しいメディアの形を追求しているが、市民記者の数は何と4万人にも及ぶという。社長の呉連鎬(オ・ヨンホ)さんとは旧知の間柄で、いまは日本版の立ち上げに忙殺され、1年の半分ほどは日本にいる。この日もそうだった。


 次の予定との間に時間があったため、ソウル版日本橋ともいわれる「清渓川(チョンゲチョン)」を見に行く。元々あった川を塞ぐ形で道路が走っていたが、李明博(イ・ミョンバク)前ソウル市長がこれを撤去して川を復元した。ソウル市民の憩いの場として、そして外国人客の観光スポットとして話題を集めている。この日は少し寒かったが、夏に来ればとても気持ちいいだろう。



 韓国人日本研究者の皆さんと昼食をともにしたあと、千正培(チョン・ジョンベ)議員と会談するため議員会館の事務所を訪問。千さんは与党ウリ党創設者の1人で、私も長い付き合い。
 千さんはいまのウリ党の支持率の低迷を憂慮しながら、その要因として民生の不安定さと国民の喪失感を指摘。経済が順調に成長しているなか、非正規雇用の増加や住宅の高騰などが豊かさの実感を奪い、不満を増大させているという。非正規雇用の増加や所得格差の拡大は、今回の訪韓でしばしば聞かれた。グローバル化が大きく進むなか、日本と韓国が抱える根深い問題は共通している。



 夜はソウル大学校の教授陣との夕食会。今回の訪韓は、ソウル大学校日本研究所主催の公開講演会で講演するために招かれたことがきっかけ。夏に淡路島で開かれた日韓フォーラムで知り合った朴喆熙(パク・チョルヒ)教授に中心となってアレンジしていただいた。朴さんは新進気鋭の日本政治研究者で、大変な行動家でもある。今後の活躍が楽しみな人だ。



■11月24日(金)

 旧知の日韓フォーラムメンバーの皆さんと朝食を取ったあと、鄭東泳(チョン・ドンヨン)前ウリ党議長と会談。鄭さんとは十年来の友人で、年齢も同じ。ウリ党議長をはじめ、北朝鮮問題を所管する統一部の長官など政府・与党の要職を歴任してきた。大統領候補の一人でもある。
 鄭さんとは、北朝鮮問題を中心に意見交換。金正日(キム・ジョンイル)総書記と直接会ったことがある彼は、その印象として、国際情勢をよく理解している人物と指摘したうえで、外交努力による核放棄、そして05年9月の6カ国協議の合意に立ち戻るべきと主張。
 私もその主張には同意したうえで、「金総書記は核を持つことが得だと考えているが、これを諦めさせるためには経済制裁を強めるしかない」と指摘、日韓の緊密な連携が極めて重要であることを2人で再確認した。名残を惜しみながら再会を約束し、是非三重県に来てもらいたいと伝えて鄭さんと別れる。



 その後、李明博(イ・ミョンバク)前ソウル市長と会談。李氏は来年の大統領選挙に向けて準備中だが、目下の支持率は1番高く、大統領最有力候補の1人。さすがに広い事務所と大勢のスタッフを抱えていた。
 李氏とも北朝鮮問題や日韓連携の重要性について意見交換したあと、特に日韓FTA(自由貿易協定)を取り上げて議論。私が早期締結の必要性を主張したのに対し、李氏も欧州の例を挙げながら、日韓そして米国も含め、経済の開放が重要だと強調。その前提として日韓間にある歴史問題の克服が必要という点も含め、意見の一致を見た。
 最後に私から、「日本がアジアの一員であることは大変幸運なことであり、平和で豊かなアジアを実現するなかで、日本自身の平和とアジアを実現すべき。日韓、日中、ASEANが連携し、東アジア共同体を目指す」と持論を述べ、この点でも李氏と共通認識を確認。 李氏とは初めて会ったが、物静かな語り口の中で、自分の意見をはっきりと主張する姿が印象的だった。


 会談を終え、元東京特派員の韓国メディア論説委員の皆さんと昼食をともにしたあと、いよいよメインイベントであるソウル大学校の講演会へ。大学校はソウル市の郊外に位置し、欧米のキャンパスのように広大。敷地に入ってからも車やバスで移動しなければならないほど。 講演会は大学校の日本研究所(国際大学院が運営)が主催し、聴講者は学生と研究者を中心に60人ほど。中には日本からの大学生もいた。
 講演では、「東アジアの未来 ~新時代の日韓パートナーシップへ~」とのタイトルで、まず日本政治の基本構造を簡単に説明したあと、日韓の3つのパートナーシップを提唱した。 第1は「繁栄のパートナーシップ」で、東アジア共同体構想を目指しながら、まずは日韓が速やかにFTAを締結すべきことを主張。第2は「平和のパートナーシップ」で、北朝鮮問題に対する日韓連携の重要性、そして、将来的な北東アジア非核地帯構想について述べる。第3は「信頼のパートナーシップ」。繁栄と平和の前提として、歴史問題の克服を含む日韓両国の信頼構築が不可欠であると指摘。
 最後に、昨今の日韓両国内に見られる偏狭なナショナリズムの広がりに懸念を示したうえで、日本でも大ヒットした韓流ドラマ「チャングムの誓い」を引き合いに出しながら、「日韓の価値観には大きな共通点があり、両国の意思疎通と信頼構築は十分可能」と述べ、私の講演を終える。 講演後は、10人を超える聴講者の皆さんから、憲法・安全保障、政権交代の可能性、ナショナリズム、女性の政治参加、民主党の政策など実に多岐に渡る、そしてときに難しい質問を数多くいただき、活発な意見交換を行うことができた。 今回の韓国訪問を終えた印象は、与党ウリ党が大統領の人気低下もあり本当に苦しんでいることを実感したこと。しかし、大統領選挙に向けて今後ダイナミックな政界再編の動きがありそうな予感がしました。



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