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日本学術会議の会員任命―理由なき拒否はありえない

 日本学術会議が新会員として推薦した6人の学者が、菅総理によって理由もなく任命拒否されました。内閣委員会において審議がなされましたが、疑問は深まるばかりです。 
 
なぜ今回、実績もある著名な6人の学者を任命しなかったのか、少なくともその理由が明確に説明される必要があります。菅総理は、「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から、今回の任命について判断した。」と説明しています。総合的、俯瞰的の意味を問われて、内閣委員会で副大臣は、「業績にとらわれない広い視野に立って活動を進めて頂く必要があると言うこと」と答弁。しかし、業績以外の「広い視野」とは何なのか不明で、何の説明にも成っていません。
 「総合的、俯瞰的な活動確保」というのは、日本学術会議の新会員選出を各団体の推薦によって行っていたやり方を、いまの現会員が推薦する形に改めるにあたって議論されたことです。日本学術会議が科学者コミュニティーの総体を代表し、個別学協会の利害から自立した組織とならなければならないとの考え方です。従って6人の学者を任命拒否した以上、これらの人々が個別の学協会の利害にとらわれているということを説明する必要があります。そういった事実はなく、また具体的な指摘もありません。見当違いも甚だしく、「総合的、俯瞰的」という訳のわからない理由を持ち出すことの不当性は明らかです。

そもそも日本学術会議法は、戦前の反省に立ち、科学が政治と独立した立場をとることを重視し、第3条で科学に関する重要事項の審議・実現などを独立して行うことを定めています。今回の審議で政府は、職務の独立性を定めた第3条と別の条文(第7条)で総理大臣の任命権限を認めており、この2つは直接関係ないと答弁しました。(10月7日、塩川委員に対する大塚政府参考人答弁)。これは、任命がフリーハンドで行えることを認めるもので、全く誤った解釈です。独立性を損なわないような任命が必要だからこそ、中曽根総理の「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」という答弁に代表されるような、総理(政府)の裁量の余地を認めない任命が行われることが国会答弁等で繰り返し確認され、政府もそのように運用してきたことを全く無視するものです。政府が自由に人事権を行使することになれば、日本学術会議の独立性が損なわれることは明らかです。今回のように任命拒否の理由と根拠が明示されないとなるとなおさらです。

一方で日本学術会議に10億円の予算が使われているとか、特別公務員で待遇が良いとか、会員の選ばれ方に問題があるなどの批判が巻き起こりました。菅総理も国の機関であり、行政改革の視点で予算や機構などを検討することを明言しました。日本学術会議が行っている政府に対する政策提言や国際的な活動、委員の選任方法に不十分なところがあるのであれば、その独立性を損なわない前提で政府内で議論し、必要に応じて国会審議を経て、法改正を行えばよいのであって、今回の任命拒否とは関係のないことです。自民党で日本学術会議のあり方の検討を急遽始めるようですが、これも論点をすり替えようとするものだと思います。
 
任命拒否の理由を明らかにしないまま、いままでの任命に関する国会での説明や実際の運用を突然変更する。菅総理が人事権をテコに日本学術会議の独立性を損なおうとしていることは明確だと思います。
 国家公務員に対する官邸の人事権を乱用することで、政権の行う政策に批判的な意見を封じ込め、結果として霞が関全体を萎縮させ、志気を低下させたのが菅官房長官です。より独立性が重要な学者の世界でも、同様の手法によって異論封じを目指していると思えてなりません。これは日本の民主主義の根幹がゆらいでいると言えるのではないでしょうか。徹底的な議論が必要です。



コメント
  1. 徳さん より:

    私は現在84歳企業内技術者上がりの者ですが、次のような行動がなされるよう、貴党を中心に活動してくださるようお願い申し上げます。
    ① 99名の新任学術会議会員の一斉受任辞退すること。
    ② 日本のノーベル賞受賞者全員が「政府の暴挙に対する反対声明を出すこと」。
    ③ 現学術会議会長はこの暴挙に対し抗議の辞任をすること。

  2. むろけん より:

    政府の意に沿わない意見を封殺し、自らの保身のためには検事総長の人事にさえ介入してきた安倍政権の体質が、菅政権に引き継がれてしまったと考えざるを得ません。立憲民主主義を愚弄し、国民の利益を損なう行為でしょう。そのことを広く国民に伝えることで、政権交代への下地を作って頂きたいと願っております。

  3. より:

    初めてコメントさせて頂きます。
    日本学術会議を拒否された理由を公にして下さいと皆さん言っていますが
    普通の社会人が企業面接に落ちた理由を聞いても教えてくれないのに
    なぜ日本学術会議の拒否は公にしろって騒がれてるのでしょうか?
    今まで政治と言う物に一切の興味がなく無知な私ですが、もし時間があればご教示お願い申し上げます。

  4. まもちゃん より:

    今回の任命拒否が歴史に資するとすれば、現政権の本質が(はからずも)露呈したことか。携帯電話料金や不妊治療、デジタル庁設置など耳障りのいい政策だけでは分からない、民主主義の根幹に関わる現政権の「牙」が明らかになったことは大きい。今後、国会で追及されても「ご指摘は当たらない」と拒否の根拠が明らかにされることは恐らくないであろう。しかし心ある人は必ず理解している筈だ。ただ、その意思をどう表現すれば良いのか妙案はないが「心ある人」を一人でも増やす努力をして行きたい。以上

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