GoToトラベルー運用の根本的な見直しが必要
菅総理は14日の会見で、GoToトラベルの12月28日から1月11日までの一時停止をようやく発表しました。最大限の警戒が必要な「勝負の三週間」として国民に慎重な行動を強く求めながら、税金を投入して人の移動を促すという全くちぐはぐな状況がとりあえず止まりました。しかし、ここでしっかり総括しておかないと、また同じことが繰り返されることになりかねません。
GoToトラベルは、感染がある程度収まった状況で開始されるはずでした。しかし、政府は最初から前のめりでした。感染第二波が6月下旬から始まっていたにもかかわらず、7月22日にGoToトラベルが開始されたのです。第二派が全国に拡散するのと同じタイミングで多くの旅行者が移動しました。完全な判断の誤りです。今回も医師や専門家の、人の移動を抑制すべきとの強い発言がある中、GoToトラベル一時停止まで数週間かかりました。この間、アクセルとブレーキを同時に踏み続けたのです。まさに、司令塔不在です。同じ誤りが繰り返されないために、1月にどういう状況であれば、GoToトラベルを再開するのか、客観的な基準を定めておくべきです。
GoToトラベルで感染リスクが高まったわけではなく、「あくまで病床ひっ迫の中で予防的にとった措置だ」といまだに政府は説明しています。コロナ対策分科会提言が、感染拡大につながったというエビデンスはないとしていることを根拠としています。明確なエビデンスがないとしても、感染拡大と無関係というエビデンスもありません。人の移動が増えれば感染リスクが高まることは多くの専門家が指摘するところで、専門家の提言を都合よくつまみ食いしているにすぎません。専門家の意見をきちんと取り入れる姿勢を、菅政権は明確にすべきです。
確かに観光関連の事業者やそこで働く人々は、観光客数の激減で大変な状況にあります。GoToトラベルは一気に旅行者を増やし、効果があったことは事実です。しかし、人の移動が急激に高まり、感染者が激増したことで、今回の全面的一時停止措置をとらざるを得ませんでした。もう少し慎重な運用を早い機会にしていれば感染急増を避けることができた可能性が大きいのです。そうであれば、大都市部を除いてGoToトラベルは続けられる可能性は高かったと思います。急ぎすぎたことが、傷口を拡げたのです。そして、今回の政府の迷走によって、多くのキャンセルが発生し、混乱がありました。影響を受けた事業者の皆さんに対する経済的支援はきちんとなされなければなりません。
問われているのは、旅行そのものをやめることではありません。多額の税金を投入し旅行を奨励することまでを、いま行うべきなのかという判断です。1.6兆円の予算が計上され、既に3080億円が使われ、5260万人が利用しています(11月15日時点)。高い割引率に刺激されて、本来行かない旅行に出かけた人も多かったのではないかと思います。ここまで高い割引率が必要なのか疑問です。また、旅行は時間とお金にある程度余裕のある人でないとできません。失業や減給で生活に苦しむ人、そしてコロナ対応で時間に追われる人はGoToトラベルを利用したくてもできません。
感染ひっ迫が再度高まる場合に備えて、いまのうちに制度設計を見直すべきだと思います。その際、キャンセル等の手続きを容易に行えるようにすることも考えるべきです。開始時期も1月12日と決めつけるのではなく、ある程度感染が収まった後とするとともに、終了時期は6月ではなく、スタートが遅れる分、もう少し先まで延長する必要があると思います。
経済と感染拡大防止の両立、困難な課題であることは事実です。しかし、判断を間違えると今回のように感染拡大を招き、かえって経済の後退につながることになります。専門家の意見を尊重しつつ、最後は政治がきちんと判断することが必要です。二度と誤りを繰り返してはなりません。
