トピックス

1997.02.05|国会会議録

140回 衆議院・予算委員会

岡田委員 新進党の岡田克也でございます。

ちょっと時間が少なくなりましたので、最初に御通知していたのとやや順番を変えて御質問することになるかもしれませんが、御了解いただきたいと思います。

さて、まず総理にお尋ねをいたします。

報道によりますと、総理は昨年の七月の二十九日、靖国神社に参拝をされた。その参拝の様式は二礼二拍手一礼の神道方式でなされた、こういうふうに報道されておりますが、これは事実でございましょうか。

橋本内閣総理大臣 そのとおりです。

岡田委員 これも報道で恐縮ですが、七月三十日の朝日新聞、総理の発言がいろいろと引用されております。例えば、「公私かどうかという質問自体ばかげている。何をもって公人と言うのか。」それから、「総理大臣に私人があるのか。私人があるというならそう扱っていただきたいが、それは許されないでしょう。だから公私を分ける質問には首をひねる。心の中の問題を分けようとすることに無理があるんじゃないか。」こういうふうに発言したというふうに新聞は報道しておりますが、この点についてはいかがでしょうか。

橋本内閣総理大臣 確かに、私はそのとおりの言い方かどうかそこまで確認を申し上げる自信はありませんが、例えば、玉ぐし料を持っていったかとか、いろんな質問がありました。そして、玉ぐし料を持っていかないんなら私人ですかというそういう質問もありました。今まで、往々にして公私の別というのを玉ぐし料をどこから支払ったかということで分けた議論がありましたことを多分議員も御記憶だと思います。そして、ですから、玉ぐし料を実は私は持ってまいりませんでしたけれども、むしろそういう議論自体がおかしいよと、そういうことで公私の別というのもおかしいよという話は確かに私はしたように思います。

岡田委員 今の御説明は、玉ぐし料を持っていったことで公私を分けるのはおかしいというそういう趣旨だということですが……(橋本内閣総理大臣「いや、というような議論もありましたと申しました。正確には覚えておりませんが」と呼ぶ)はい。新聞の報道によりますと、総理のお答えは、公私を分けることにそもそも無理があるんだ、こういうふうに受け取れるわけですが、そのお考えは今もそういうお考えでしょうか。

橋本内閣総理大臣 どういうことを言わせようとしておられるのかわかりませんが、実態でお答えをいたしましょう。

大変私にとっては苦痛でありますけれども、私自身が本屋に行こうと思いましても、今、決められた車以外の車で行くことを私は許されておりません。自分の子供の家に行くときにも決められた車、警護つきで、以外の行動を許されておりません。外からごらんになれば、それは公に見えるでありましょう。私自身は、個人としての行動を思いましても、それが外見には許されておりません。

岡田委員 車の問題とか玉ぐし料の問題を私は言っているわけではございません。私が公私について申し上げておりますのは、これは政府みずからが出された政府の統一見解、中曽根内閣のときに、いろいろな議論があった結果、統一見解が出されております。

まず、当時の藤波官房長官談話、昭和六十年八月十四日、これをもとにして八月十五日に中曽根総理は公式参拝をされた。そしてその後、同じ昭和六十年の八月二十日に衆議院内閣委員会に、政府の統一見解として従来の解釈を変えるということが出されております。

この中曽根内閣時代の統一見解についてもいろいろ議論があるところは、総理も御存じのとおりだと思います。中曽根総理御自身がみずからの最近の著書の中で、「天地有情」という本を書かれておりますが、その中で、法制局の中にもいろいろな議論があったけれども、自分がまとめてこういう見解にしたんだ、そういうふうに述べておられます。

そこで、この政府の出されている統一見解、その解釈が問題になるわけでありますが、私がこれを素直に読むところ、この中曽根内閣の統一見解は、私的な参拝と公式参拝をはっきり分けておられる。そして、公式参拝については一定のルールに基づいてやらなければ憲法上問題があるという、そういう趣旨だと私は理解しておりますが、法制局長官、いかがでしょうか。

大森(政)政府委員 誤解を避けるために、やや詳細な説明をさせていただきたいと思います。

ただいまお尋ねの中で御指摘がありましたように、昭和六十年の八月の十五日に、当時の中曽根総理が靖国神社にいわゆる公式参拝をしたわけでございますが、その前日の八月十四日に当時の藤波官房長官が、そしてその直後の衆参の内閣委員会におきまして、また色々説明がございました。

そのいろいろな席、機会に述べられた政府の見解を要点だけまとめて御紹介いたしますと、内閣総理大臣その他の国務大臣が国務大臣としての資格で靖国神社に公式参拝することについての見解でございます。

そして、内閣総理大臣その他の国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することが憲法二十条第三項で禁止しておりますいわゆる宗教的活動に当たらないための要件といたしまして、まず、専ら戦没者の追悼を目的とすること、そして、そういう追悼を目的とする参拝であることをあらかじめ公にするとともに、次に方式といたしまして、神道儀式によることなく追悼行為としてふさわしい方式によって追悼の意を表すること、こういう要件に合致する限りにおいて、憲法二十条三項が禁止する宗教的活動には当たらない。

そして、右のような参拝を除き、内閣総理大臣その他の国務大臣が国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは、憲法二十条三項に違反するのではないかとの疑いをなお否定できないという従来の政府の考えに変わりはない。

したがって、こういう限度で政府の見解を一部変更したということでございます。

岡田委員 国務大臣が国務大臣の資格として行う、そのことを別の言い方で公式参拝というふうに呼んでいると理解しておりますが、間違いでしょうか。

大森(政)政府委員 お尋ねの事柄は、そういうことでございます。

繰り返しますと、国務大臣としての資格においてなす参拝を公式参拝といい、それ以外の、国務大臣としての立場ではない、資格ではないという参拝は私的参拝というふうに区別をした上で論じているわけでございます。

岡田委員 今の御説明で明らかなように、昭和六十年の官房長官談話あるいは政府の統一見解は、公式参拝と私的参拝をはっきり分けて、そして公式参拝のときには、例えば一礼方式であればそれはいい、こういう考え方を示しているわけであります。

そこで、先ほど私が引用しました総理の報道される答弁でありますが、公私かどうかという質問自体がばかげているとか、あるいは何をもって公人というのか、そもそもそういうものは分けられないんだというふうに言われたとすれば、この中曽根内閣の時代の公式参拝と私的参拝の考え方そのものを否定したことになるんじゃないか、あるいはあいまいにしたことになるんじゃないか、そういう懸念がありますので、私は総理に質問しているわけであります。総理、いかがでしょうか。

橋本内閣総理大臣 私は、この靖国神社の問題というのを論議の対象とすること自体を本当に好みません。私にとっては、まさに自分の心の中のことであります。

そして、私の親戚を含め、私は敗戦が小学校の二年のときでありますから、近所の方々を含めて、随分多くの方々を出征の際に送りました。そして、相当数の方が帰ってきませんでした。そしてその当時、皆、あそこへ帰ってくるからな、本気かうそかわかりません、強がりかもしれません、しかし、みんなそう言って出ていかれたのです。私にすれば、そうした方々に会い続けてきました。

ただ、総理という立場にあって、例えば春、秋の大祭あるいは八月十五日の終戦の日という日は避けた方がよかろうと思いましたから、私は、自分の誕生日に、まさに私自身の心の問題として参りました。そうした思いで、みずからの心の中の問題として参りましたわけですから、今述べられたようなルールからいきますなら、私的資格の参拝ということになるでありましょう。

ただ、先日は御党の他の議員の方からは、なぜ八月十五日に行かなかったという大変厳しい追及を受けました。その方にも私は、みずからの心の問題というものを踏まえて行動するということをお答えを申し上げた次第です。

岡田委員 総理のお気持ちも、私よくわかります。私の周りにも、遺族の皆さんおられます。しかし、私があえてここでこの問題を取り上げましたのは、総理が総理だからです。日本国の内閣総理大臣だからであります。総理としての、憲法をきちんと守っていくという立場が総理にあるわけであります。総理のお気持ち、遺族会の会長も長く続けてこられました、遺族の皆さんを思う気持ちもわかります。しかし、それを越えて、従来、内閣がきちんと決めてきたことを守っていくというのが私は総理としての基本的なあるべき姿じゃないか、そういうふうに思いますが、いかがでしょうか。

橋本内閣総理大臣 議員の御意見は御意見として確かに承りました。その上でもう一度繰り返させていただきます。

これは、私にとりましては心の中のことであります。そして、その上で私自身の行動、今議員は憲法を例にとられましたが、先日、他の議員の方に私がお答えをいたしましたときには、この国にプラスにならない、プラスを生じないということであれば、自分の心のままに振る舞うことはしないということを申し上げております。法のもとにおいての行動というもの、御注意をいただきましたことを大切にいたします。

岡田委員 今の総理の御答弁は、この中曽根内閣時代の政府の見解を変えるということですか。

橋本内閣総理大臣 変えると申しておりません。

岡田委員 従来の内閣の……(橋本内閣総理大臣「心の中をどう変えるかまではだれにも指図されません。行動は従います」と呼ぶ)私は、心の中の問題を言っているわけではありません。総理としての行動について申し上げでいるわけであります。

今、総理が、これは私的なものである、こういうお話がありましたから、私は、総理は公式参拝をしたのではない、こういうふうに確認をさせていただき、そして従来のこの中曽根内閣時代の政府の統一見解は全く変わっていない、こういうふうに理解しますが、よろしいでしょうか。

橋本内閣総理大臣 改めてもう一度申させていただきます。

私にとって心の中の問題であるということは変わりません。その上で、まさに先日私は、今まで議論をよく呼んでおりました春、秋の例大祭や八月十五日の終戦の日を選ばずに、みずからの誕生日という別の日を選びました。そうした意味において、その官房長官見解というものに当てはめてみるなら、私的な参拝ということになるでありましょう。そして、中曽根内閣当時の見解を変える意思はございません。変える意思はございません。

岡田委員 今の総理の答弁で結構だと思いますが、私は、やはりいろいろな記者の質問が相次いで、総理もいろいろそのときにお考えあったのだろうと思いますが、やはり総理大臣としては内閣が決めたことはきちんと守っていく、もしこの中曽根内閣が決めた統一見解がだめだというのなら、それをまずきちんと内閣で変えて新しい統一見解を出して、それに基づいて行動していくのが私は総理大臣のとるべき態度だ、こういうふうに思っております。

さて次に、ちょっと順番を変えますが、日米安保の問題を簡単にお聞きしたいと思います。

総理、ちょっとこれは仮定の問題で恐縮でございますが、もし極東に有事が発生した、そのときにアメリカのクリントン大統領が在日米軍基地から直接出撃行動をとりたい、いわゆる事前協議の申し出があったときに、総理はその場でイエス、ノーの即答ができるのでしょうか。あるいは、どういう手続が必要になるのでしょうか。お答えをいただきたいと思います。

池田国務大臣 仮定の御質問でございますから、余り詳細にわたってお答えするのは適切でもないし、またちょっといろいろな前提がなくては正確にはお答えできませんけれども、一般論としてお答え申し上げますと、従来から政府が繰り返し答弁しているところでございますが、いわゆる極東有事に際して日本の基地から戦闘作戦行動を米軍がとる、そういうことについては事前協議の対象になっております。

そういった事前協議がございましたときに、どういう手続、手順でというのが御質問の趣旨だと存じますが、そのような場合には原則として閣議に諮って決定することになっておりますが、事態いかんによりましては緊急で、緊急閣議も招集するだけのいとまがないというケースもあり得ると思います。そのような場合においては総理と外務大臣、あるいは場合によっては防衛庁長官というようなごく限られた者の間で相談をして対応する、こういうことも排除されない、こういうことが従来からの政府の一貫した考え方でございます。なお、事前協議は政府の責任において行われる、これが大前提になっておるわけでございます。

岡田委員 今の御説明の中で、緊急を要する場合には総理と外相あるいは防衛庁長官でお決めになるということですが、その根拠はどこに書いてあるのでしょうか。

池田国務大臣 この事前協議は、基本的には日米安保条約、そうしてそれを締結しましたときの両国間の交換公文、これが根拠になっておるわけでございますが、そういったものを踏まえまして、これは政府の責任において対応すべきものである、こういう解釈が成り立っておるわけでございます。

そしてまた、政府の責任で行うというのは、原則としては、これは閣議に諮って物事を決めていくというのがこの問題に限らず原則でございます。しかし、事柄の性格上、そういった緊急の閣議も招集できないというケースの場合には、総理を中心として少数の人間で対応するということもあり得る、これはほかの問題でもあり得るのだと思います。そして、これまでいろいろな機会に歴代政府が、今私が申し上げましたような御答弁を申し上げてきたところでございます。

岡田委員 恐らく、内閣は条約についての権限がありますから、閣議でお決めになるというのは正しいお答えだろうと思います。

しかし、個々の大臣、例えば総理大臣とかあるいは外務大臣、総理大臣がそれを決める、イエス、ノーを決める、その権限の根拠はどこにあるのでしょうか。外務省の設置法にあるのですか、それともその他にどこか法律があるのでしょうか。

池田国務大臣 まず、内閣の責任において行う、政府の責任において行うということは、この条約に基づくいろいろな行為、事前協議に対してどう対応するかという行為でございますね、これは内閣の権限、すなわち我が国の行政権に属することである、こういうことに立っておるのだと思います。

そうして、そういった中で、当然のことでございますが、内閣の方針というのは閣議によって決定するのが原則でございますけれども、しかし、場合によりまして、事柄によってその主管の大臣がその事柄を決定していくということはあり得るわけでございます。そして、このケースにつきましては、総理大臣そして外務大臣、あるいは場合によって防衛庁長官という限られた者の相談で対応することもあり得る、こういうことでございます。

そうして、外務大臣あるいは防衛庁長官の役割なり権限がどういうものかということは、それぞれの設置法等において根拠があることだと存じます。

岡田委員 法律の根拠が必ずしも明確に御説明いただいていないように思うのですが。

一つ例を挙げますが、例えば自衛隊法に防衛出動の規定がありますね。

防衛出動は、総理に基本的に防衛出動の命令の権限があるわけですが、これは自衛隊法の中でそれを認めているわけですね。総理は「内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する。」と第七条に書いてあります。そしてその上で、外部からの武力行使があったとすれば内閣総理大臣は防衛出動の命令をすることができる、第七十六条であります。

そういう根拠があって初めて総理は自衛隊の出動を命ずることができるわけでありますが、今回の、今私が質問しております在日米軍基地からの直接出撃行動、これは、場合によっては、自衛隊の出動とほぼ同等の国家にとっては重大事であります。そのことについて、今のようなあやふやな答弁では私は理解できません。

もう少し明確に答弁していただきたいと思います。

林(暘)政府委員 ただいま外務大臣から御答弁申し上げましたとおり、具体的に国内法上の根拠ということになりますれば、外務省設置法にあります条約の実施ということになろうかと思います。本件につきましては、安保条約及び第六条に基づきます交換公文でああいう枠組みが規定されておるわけでございまして、それに基づいて行う決定というのは、具体的には外務省設置法の条約の実施ということになろうと思います。

外務省の権限の範囲で行われることでございますけれども、重要な問題については閣議で決定を行うということはたびたびあるわけでございまして、そういう意味で、時間の余裕がある場合には閣議決定を行うということでやる方針になっております。

岡田委員 今の外務省の御説明では、内閣で決定することが望ましいが、場合によっては外務大臣お一人で決められる、こういうことですか、法律的には。

池田国務大臣 ただいまの答弁の趣旨は、要するに、条約並びにその条約六条に基づく交換公文によって事前協議というものが定められておる、そういう行為でございます。一方、外務省設置法におきまして、条約に基づいて必要な行動をする、これは外務省の責任である、役割である、こういうことが定められておるわけでございます。したがいまして、条約を執行していくために必要な事柄については、外務省限りで、外務大臣限りで実行できることも多々ございます。これは、安保条約に限らず、ほかの条約につきましてもあるわけでございます。

しかし、この事前協議、とりわけ、今おっしゃいましたような我が国の基地を使っての戦闘作戦行動に米軍が出る、そういった場合の事前協議につきましては、事柄の性質上、一般論として、それは大切なことであるから、したがって、原則として閣議に諮って決められるものであろう、このようにお答え申した次第でございます。厳格な国内法あるいは条約上の解釈からいって、常に内閣の閣議の決定が必要かどうかといった話はまた別でございます。

岡田委員 今の問題で私はまたわからなくなったわけでありますが、最初に、外務大臣は内閣総理大臣、場合によっては防衛庁長官とも相談してと言われましたが、外務大臣の権限は外務省設置法に書いてある、条約の実施だ。そうすると、内閣総理大臣はどういう権限に基づいて外務大臣とともにお決めになるのでしょうか。あるいは、場合によっては防衛庁長官と言われましたが、場合によってはというのは、それは法律上どういうことなんでしょうか。

池田国務大臣 法律的な正確さを期するためにはあるいは法制局長官から、また条約上のあれにつきましては条約局長から御答弁申し上げるのが適当かと存じますけれども、私が理解しているところでは、こういった国の条約の実行にかかわる

問題につきましては、外務省の責任の範囲にあるわけでございます。

しかし、そういった条約に基づく外務省の権限としてなし得る行為であっても一重要な問題については当然関係閣僚とも協議することはあり得ましょうし、また、その内閣全体としての意思を決定するということで閣議に諮るということも、それは往々にしてあるわけでございます。そうして、内閣総理大臣は国政全体を総括されるわけでございますから、このような作戦戦闘行動についてそういう日本の基地を使われるといったケースについては、閣議に諮ることが多かろう、それが原則であろう。

しかし、緊急を要する場合においては、先ほど申しましたような意味において、内閣総理大臣、そして場合によっては防衛庁長官、そして条約を実行する責任を有します外務大臣という小人数で相談して対応することもあり得る、こういうことを申し上げたわけでございます。

岡田委員 法律の問題と、それから事実上御相談ずるという問題が非常にまざり合っておりまして、私よく理解できないわけですが、総理大臣もこの自衛隊法のように権限が法律で決められておればいいと思いますよ。

しかし、それがないのであれば、内閣全体で閣議で決めるというならわかります、内閣の権限の中に条約というのは入っていますから。しかし、総理大臣が個人で外務大臣と御相談、個人というのはプライベートじゃないですよ。個人じゃないです、個人という意味は、内閣総理大臣が外務大臣と相談し協議して決めるとかそういうことは事実行為であって、今の外務大臣の御説明を聞くと、あくまでも外務大臣に法律上の権限はあって、あとは事実行為として内閣総理大臣やあるいは防衛庁長官に御相談をするんだ、こういうふうに理解しないと法律的には理解できないわけでありますが、法制局長官いかがでしょうか。

大森(政)政府委員 ただいまの議論を拝聴しておりまして、権限の問題と権限行使の運用の問題と、やや混同している面がありはしないだろうかという感じがいたしました。

先ほど外務大臣及び条約局長から答弁がございましたように、安保条約に基づく、交換公文が根拠なわけですが、要するに、事前協議というのは条約の実施の一形態である。したがいまして、権限としましては、条約の実施事務をつかさどる外務省の所掌事務であろう。したがいまして、その代表者として外務大臣がその権限を持っておられる。

ただ、事前協議事項というのは我が国にとって非常に重要な事項である。したがいまして、最高行政機関である内閣の意思統一をしておくのが通常の場合はふさわしい。したがって、閣議にかけて決定をし、了解を得た上で事前協議を行うということが運用としては相当だというのが一般的な姿であろうと思います。ただ、あくまで外務大臣の権限としておろされていることでございますから、緊急を要する場合には、外務大臣の権限として事前協議は行える。

その場合に、閣議にかけるいとまはないけれども、やはり内閣総理大臣は内閣の首長でございます。しかも、内閣法六条による指揮監督ということになりますと、あらかじめ閣議にかけて決定した方針に基づかなければならないということにはなっておりますけれども、先般の最高裁判所の判決においても認めておりますように、やはり内閣の首長である内閣総理大臣には各種の指示をする権限はあると解せられる。

したがいまして、そのような内閣の首長であり行政各部に対して指示をなし得る内閣総理大臣と相談をする、その上で事前協議に臨むという方がより望ましいであろうということから、先ほど述べられたような見解がなされたというふうに理解すべきものであろうと思います。

   〔委員長退席、中川(秀)委員長代理着席〕

岡田委員 今の法制局長官の御説明は、私なりに要約いたしますと、法律上の権限は外務大臣だということですね。しかし、何といいますか、総理なり外務大臣なり、できれば閣議を開くことが望ましい。これは法律上の問題ではなくて、むしろ政策上そういうことが常識だし、私も常識だと思いますが、そういうことですね。法律的には外務大臣がこの権限を持っている、そういうふうに理解してよろしいですね、確認です。

大森(政)政府委員 誤解を避けるためにもう一度申し上げますと、単なる好ましいという以上に、可能な限りはやはり閣議にかけ、あるいは緊急を要する場合にも最小限度総理及び関係大臣と相談をし、意見が一致した上で事に臨むのが法律上、憲法上の要請としても望ましい、単なる事実上の要請じゃないというふうにお聞き取りいただきたいと思います。

岡田委員 なかなか言葉の問題は難しいんですが、法律的には外務大臣の権限だということははっきりしたと思います。

そこで、私は、それが本当にいいのかという問題提起をしたいと思います。

先ほどの防衛出動の場合には内閣総理大臣であります。あるいはPKOの法律、これも内閣総理大臣が基本的に責任者になっています。なぜ、この直接出撃行動、つまり日本の基地から戦闘機が飛び立って攻撃をする、そういう行為について、内閣総理大臣じゃなくて外務大臣なのか、これがまず第一の疑問であります。

それから第二は、例えば先ほどの防衛出動の場合には、安全保障会議設置法上、内閣総理大臣は防衛出動の可否について安全保障会議に諮らなければいけないという明文の規定があります。そういう手続も今回の場合はない。そういう状況で果たしていいのかどうか、民主主義国家としてちゃんと手続を尽くしているのかどうか、そういう疑問があるわけでございますが、外務大臣、いかがでしょうか。

池田国務大臣 まず前提として、防衛出動との比較をされましたけれども、防衛出動というのは、我が国の自衛隊が我が国の有事の際に出動するという、そういうケースでございます。

そして、今議論になっております我が国にございます基地の使用に係る事前協議というのは、我が国が危険にさらされた、我が国自体が戦闘状態に陥れられたという格好ではなくて、我が国周辺、いわゆる極東地域でそういった事態がございましたときに、我が国の基地を、施設・区域を使いまして米軍が戦闘作戦行動に出動する、そういうケースでございますので、これはいずれも我が国自身の安全に非常に大きな関係りある事柄ではございますけれども、その関係の程度は違います。防衛出動の場合は、文字どおり我が国自身がそういう状態に置かれた場合、この事前協議の対象となるものは極東地域の問題、まずそれが一つございます。

それから、安全保障会議の関係の御質問がございましたが、この点につきましても、事態によっては安全保障会議に諮るということはある、こういうことはこれまでも国会答弁がございます。

しかしながら、先ほども申しましたように、原則としては閣議で決定、閣議で諮っていくという手順が踏まれるべきものでございますけれども、緊急やむを得ない場合にはそういった手順もとり得ないということもあり得ますので、そういった際には安全保障会議にかけられないというふうに御理解いただきたいと思います。

それから、今防衛出動との関係においてどうしてとおっしゃった意味というのは、なぜ法定しないのか、こういう御趣旨かと思いますけれども、そこのところは、先ほども御答弁申し上げましたように、やはり条約に定められた役割というものを果たしていく、あるいはその権限に基づいていろいろな行政行為をやっていく、こういういわば内閣の責任においてやる行動でございまして、それが設置法上できちんと明記されておるということでございますから、この対応で不適切であるということは当たらないんじゃないのか。ましてや民主主義との関係でということは、ちょっと必ずしもこの際のケースには当たらないんじゃないかと思います。

岡田委員 もう一つ申し上げます。

この民主主義ということの具体的な例としてお話ししたいと思いますが、それは国会との関係であります。防衛出動の場合にはできれば事前に、緊急を要する場合には直後に国会の承認を求めなければいけない、こういうことになっています。あるいは防衛出動までいかなくても、私も委員会での審議に参加をさせていただきましたが、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律、これは自衛隊を出すといっても別に武力行使させるわけじゃありませんから、日本の基地を使わせる話に比べたら全く次元の違う話だと思いますが、それも国会に対する報告ということになっているわけであります。

じゃ、なぜこの事前協議の場合には国会の承認なり報告ということが必要とされないのか、それが私は手続として非常に大きな欠陥があるんじゃないか、こういうふうに思うわけですが、この点はいかがでしょうか。

池田国務大臣 先ほど来御答弁を申し上げておりますように、この事前協議に関する事項は、条約上あるいは交換公文、さらには法律の枠組みの中で、これは政府の専管に属する事項である、このように考えております。したがいまして、国会の承認を必要とするというものではないと考えておるわけでございますが、しかしながら、現実、これは事実問題といたしまして、そういった事前協議がございましたときの状況いかんではございますが、政府が何らかの形で国会にお話し申し上げるということは、これはあるんだということは従来から申し上げております。

それで、なぜそういったことを法定しないかということでございますが、これはやはり具体的なケースによりますので、一般論として申し上げるのは非常に難しいわけでございますけれども、これまでの政府答弁として、一般論として申し上げたところでは、例えば事前協議の事実が公表されることによって米国の軍事機密が直接間接に明らかになる、また、そういうことを通じて我が国自身の安全保障にも重大な影響を及ぼす場合があるというような、そういうこともあり得る。

こんなこともございまして、国会にお話しするということにつきましても、具体的なケースいかんによりまして、どういう形態になるのか、あるいは時期的にどうなるのか、事前になるのかあるいは事後になるのか、あるいはケースによっては国会にお話しすること自体も避けなくちゃいけないということもあり得るんだ、こういうふうに従来から政府は考えてきているところでございます。

岡田委員 今のお答えは随分奇妙なお答えだと思うんですね。事前には確かにいろいろな問題がある場合があるかもしれません。しかし、事後でもいいわけです、直後でもいいわけです。もし今外務大臣のおっしゃったその考え方を引用していくと、防衛出動の際にもそういう手続は場合によっては省いていい、こういう考え方になってくると思うんですね。しかし、法律はそれを許していませんが。同じようなケースは防衛出動だってあると思うんですよ。事前に国民が広く知ることによってかえって危険が高まることがあるかもしれない、しかし、それを超えてやらなければいけない、それが民主主義の手続だということになっているんじゃないのですか。同じことは、この安保条約に基づく事前協議にも言えるんじゃないのでしょうか。

私は、恐らく今まで事前協議というのは例がない、あるいは事前協議をされても困るという部分も日本としてあったのかもしれません。しかし、日本国家として、日本の基地を使われるかどうかということは国の安全に関する極めて大事なことであります。そのことについて国会が全くノータッチだ、法律上は何もない、そういう事態が果たして許されるのか、そういう問題意識で私は聞いているわけであります。総理、いかがでしょうか。

池田国務大臣 自衛隊法に係る問題につきましては私の主管でございませんので、御答弁は私から申し上げるのはいかがかと存じますけれども、しかしそれはやはり、我が国の自衛隊が国の安全を守るために出動する、そういった場合にいかなる手順を踏むべきかということをいろいろ考え、この自衛隊法をつくる過程において国会でいろいろ御審議の上で現在のような仕組みが法定されておるんだ、このように理解する次第でございます。

そして、さてこちらの、極東有事の際の、米軍による我が国にございます区域・施設の使用についての事前協議のケースにつきましては、これはその安保条約を締結いたしました際の、あるいはそれを改定いたしました際のいろいろな両国間の交渉、それを通じてこの条約がまとめ上げられた。そして、そのもとで交換公文も結ばれましてこういう枠組みができた。その際に、それを国会にお諮り申し上げまして、国会の御意思も酌みながら現在のような枠組みができておるというふうに理解するわけでございます。

そして、そういうことでございますので、事前協議がございましたときにそれにどう対応するかは、政府の専管事項でございます。したがいまして、条約上あるいは法律上、国会の御承認を得なくちゃならぬということではございませんけれども、先ほども御答弁申し上げましたように、個々具体のケースいかんではございますけれども、国会にお話し申し上げることが可能な場合、ケースにおいては、これはお話し申し上げていくべきものだ、このように考えております。

ただ、ケースによっては、それを国会にお話し申し上げることができないケースもあり得るということは御理解いただきたいというふうに、従来から政府は一貫して申し上げている次第でございます。

岡田委員 最後に言われたことは、私は納得いたしません。

いずれにいたしましても、これは揚げ足を取るために言っているわけでは決してございません。日米安保条約ができたときにはその事情もあったと思います。しかし、それから随分時間もたって、日本の状況も変わってまいりました。民主主義も成熟化してきたと思います。もうそろそろそういったことを考えていいんじゃないかという、そういう思いで私は申し上げているわけであります。政策論として申し上げております。ぜひ、そういうことについて政府の方もお考えをいただければありがたい。私どもの方もそういう気持ちで、思いでこれからもこの問題を取り上げていきたい、こういうふうに思っております。

さて、余り時間もなくなってしまいましたが、話題を医療保険制度改革に移したいと思います。

総理は、先般の衆議院の本会議におきまして、たしか共産党の不破議員の質問に対するお答え.だったと思いますが、医療用食品の加算問題であります、医療用食品加算については、療養上必要な食事の提供について一定の水準を確保するという当初の目的がほぼ達成されている状況の中で廃止を行ったところである、こういうふうに述べられましたが、その認識は今でもお変わりではないんでしょうか。

橋本内閣総理大臣 医療用食品加算につきまして、入院の食事の際の加工食品の的確な栄養管理を目的とし昭和五十三年に設けられた制度でありますが、加工食品の表示が進むことなどに伴い制度の必要性が低下したことなどから、平成八年五月に廃止されたものと聞いております。

岡田委員 それじゃ厚生省にお答えいただきたいんですが、この医療用食品の加算制度で、もう既に廃止されておりますが、支払われた医療費の合計額、一体どのぐらいになるか、一部推計を交えて結構ですからお答えいただきたいと思います。

高木(俊)政府委員 医療食加算制度、これは平成八年五月に廃止されておりますけれども、これが昭和五十三年度から平成六年度までの間で実績が出ておるものが千二百二十五億八千万円でございます。なお、平成七年度に関してはまだ実績がまとまっておりませんけれども、推計いたしますとおおむね二百七十五億円程度になろうかと思います。これを合わせますと、約千五百億円程度でございます。

岡田委員 推計できるだけで千五百億円ということであります。大変な額だと思います。

この医療用食品加算制度をめぐって、最初私が新聞で読みましたときに、まず感じたことは、大変な怒りでありました。一体何ということをやっているんだ。

中身は皆さん御案内のとおりだと思いますが、財団法人日本医療食協会と日清医療食品株式会社が行ってきたわけでありますけれども、唯一の医療用食品の検査機関となった日本医療食協会がその立場を悪用して、日清医療食品のみが医療用食品を独占できる、現実は九〇%ぐらい、こういうことでありますが、独占できる状態をつくり出して、その結果、第一に、日清医療食品は莫大な利益を上げたわけであります。第二に、日本医療食協会は、仕入れ値の五%、年間八億円を検査料として取った。第三に、協会の理事長、厚生省OB、元厚生省の児童家庭局長渥美理事長は、五千万円の年収を得た。そして第四に、その結果、医療用食品の価格は市価の五割増しとなった。

私は、この記事を見たときに、私も納税者でありますから、一体こんなことに税金や社会保険料が使われていいのか、大変な怒りを感じたわけであります。

総理は先ほど、この制度は当初の目的がほぼ達成されたからやめたんだ、こういうふうにお答えされましたが、実は、この制度をやめたのはこういう事件があって、そしてやめざるを得なかったという面があると思うのです。この日本医療食協会と日清医療食品株式会社が行ってきたことについて、総理はどういうふうにお感じでしょうか。

谷(修)政府委員 ただいまお話のございました日本医療食協会が行っておりました医療食制度につきましては、先ほどお話がございましたように、加算制度につきましては昨年の五月に制度を廃止をいたしております。

なお、その前に、昨年四月に、公正取引委員会から独禁法違反による勧告を受けたというようなことがございました。また、これを受けまして、日本医療食協会につきましては、昨年四月の勧告後、理事長の退任というようなことについて私どもは指導をいたしましたが、同協会では昨年五月末に理事長が退任をしております。

なお、この協会につきましては、昨年の十月の理事会におきまして、本年の三月に解散をするということで、それまでの間、食品並びに水質検査の事業を行う団体として現在存続をいたしておりますが、今年三月をもって解散をするという決定をいたしております。

岡田委員 退任をしたり解散をしたりというのは当然だと思いますが、それで済む問題かということだと思うのですね。

例えば、この日本医療食協会は昭和五十二年の五月に理事会の決定で、これは公取の調査ですよ、公取調査によれば、理事会の決定で医療用食品の一次販売業者を日清医療食品一社にするということを決めております。あるいは、医療用食品を製造しようとする事業者には必ずこの日清医療食品とあらかじめ協議するということを義務づけております。そういう構造の中で、日清医療食品が九〇%独占するという事態が生じた。

このことについて厚生省は承知していたのでしょうか、それとも知らなかったのでしょうか。

谷(修)政府委員 公正取引委員会の方から独禁法の違反の疑いがあるということで指摘後調査を始めたというようなことから、また、国会での御質疑の際にもそういうお話が、日清医療食品一社に独占をさせているんじゃないかというようなことがございましたので、私ども再三にわたり医療食協会の方にそういうことについての事実関係については問い合わせをいたしました。

しかしながら、医療食協会の方からはそういう事実はないという報告を受けていたわけでございますが、平成七年の暮れ、十二月になりまして、そういう指摘を受けた、そういう事実があったということを公正取引委員会の方に報告をしたという報告を医療食協会の方から受けた。それ以前までは、私どもはそのことについては承知をしておりませんでした。

岡田委員 御本人に聞いても、それは自分は潔白だと答えると思うのですね。でも、調べれば九〇%のシェアかどうかというのはわかるはずですね、少し調べれば。本当にそれをやってこなかったのか、私は信じがたい。

この協会には、厚生省のOBがたくさんおられましたね。先ほどの渥美理事長は元児童家庭局長だ。それから、専務理事が二人おりますが、二人とも厚生省OBであります。元官房審議官と元東北地方医務局長。理事も三人おられる。これだけのOBがいて事実を知らないということは、極めて不自然だ。もしそうだとすると、このOBの皆さんはぐるになってこの独禁法違反行為をやっていたと言われても仕方がないのじゃないでしょうか。この点について、厚生大臣、いかがでしょうか。

小泉国務大臣 お話を聞いていて、ひどい話だと思います。

岡田委員 こういうことがなぜ起こったのか、私は、厚生省にもよく反省をしていただきたい、こういうふうに思います。同時に、やはりこういうことが二度と起こらないようにするということは大変大事なことであります。

その関連で、公正取引委員会は平成八年四月九日、厚生省に対して、これは異例のことだと思いますが、厚生省所管の公益法人などについて今後同様の行為が生じないよう指導することを要請しております。具体的にどの公益法人についてどのような措置をとられたのか、お答えいただきたいと思います。

谷(修)政府委員 公正取引委員会から、厚生省所管の公益法人等において同様の行為が生じないよう指導することという要請がございまして、医療関連サービスに関する業務等を行う公益法人に対して、要請後直ちに事業の適正化について指導いたしました。また、その他いわゆる試験とか基準・認証を行っている所管の公益法人についても、同趣旨の指導を行っております。

具体的に法人数としては、七十五法人について具体的に今申し上げた趣旨で通知をし、指導いたしたところでございます。

岡田委員 その指導ということの中身なんですが、先ほどの話にあるように、それぞれの公益法人にあなたのところは大丈夫ですねと聞いただけでは、これはだめなんですね。やはりその周辺からきちっと押さえていかないと、同じことがまた起こる。そういう意味での徹底調査というものを果たしてやられたのでしょうか。やっていないとすれば、厚生大臣、やるおつもりはありますか。

谷(修)政府委員 今申しましたように、公取からの趣旨を受けまして、具体的に私どもの通知をもって、先ほど申しました七十五法人に指導をいたしたところでございます。

岡田委員 私は、通知で物事が改善されるとは、残念ながら具体的な例を見ているだけにそうは思えません。公正取引委員会がこういう要請をするということは極めて異例のことであり、私は、役所としては、厚生省としては非常に不名言なことだと思います。その名誉を挽回するためにも、ぜひもう一度厚生省の名誉にかけて徹底的な調査をしていただくように、厚生大臣、お願いしますが、いかがでしょうか。

小泉国務大臣 適切な指導をしたいと思います。

岡田委員 それから、この関連でもう一つ申し上げたいと思うのですが、先ほどの日清医療食品、この制度の恩恵といいますか、九〇%の独占状態というものを生かして、平成二年には売上高が二百九十四億円、税引き利益が三・六億円、それが四年後の平成六年には売上高が六百六億円、税引き利益が十六億円、つまり、わずか五年間の間に売上高が二・一倍、利益が四・四倍ということになりました。まさしくこれは、この医療用食品の加算制度によって独占的利益を得たためにこれだけの利益が得られた、そういうふうに考えられるわけであります。

そこで、実はこの会社は医療食の給食分野においても大手であります。私どもが入手した一九九四年の時点においてすら、千を超える病院に対して給食業者として医療食を入れております。あるいは、全国の老人ホームにもこの会社は入れている。結局、この会社、日清医療食品は、医療用食品を独占していた。だから、その利点を生かして、みずから調理してそれを給食として出すということが商売としてやりやすかった。それを生かしながら、今日のこの状態を築いたわけであります。

私は、これだけの独禁法違反をした企業が、医療用食品はなくなったとはいえ、その隣接分野である給食の分野で大手として事業活動をしている、そのことはやはり納得いかないものがある。ぜひ厚生省におかれては、この会社がこれ以上にさらに事業活動を急速に伸ばさないように、むしろその過程で多くの企業が、この給食分野で商売のチャンスを逸しているわけでありますから、この分野での競争が適正に行われるために、ひとつ厚生大臣、何らかの措置をとっていただけませんでしょうか。

小泉国務大臣 独占はいかぬということで、競争政策を導入することによって各社が奮起してこの状態を改善していくことが望ましいと思います。

岡田委員 望ましいのは事実でありますが、ぜひこの点について御配慮いただいて、具体的な措置をとっていただきたい、こういうふうに申し上げておきたいと思います。

時間が非常に限られておりますので、きのうちょっといろいろ議論になったことについて、少し確認をしたいと思います。

一つは、診療報酬制度の中の中医協の話であります。

これはたしか新井委員だったと思いますが、昨日、中医協の議論を公開すべし、こういう議論を展開されました。それに対して小泉大臣は、自由市場経済の中で医療は統制経済だ、国民に適切な情報を提供するというのは必要だと思う、私は、どのような適切な情報を国民に与えるべきか、積極的に取り組んでいきたいと思う、こういうふうに言われました。

私も聞いているときには、小泉大臣、非常に歯切れよくおっしゃるものですから、かなり前向きなことを言われたなと思うのですが、改めて読んでみると、かなり抽象論であります。

そこで、もう一度この点について確認したいと思うのですが、中医協の議事録の全面公開について、厚生大臣として御努力いただけるでしょうか。

小泉国務大臣 国民に適切な情報を提供するという観点、情報開示の観点から前向きに取り組んでいきたいと思います。

岡田委員 中医協に関してもう一点申し上げたいと思いますが、それは中医協のメンバー構成の話であります。

これはかなり長い歴史のある話であるということは私も承知をしております。昭和三十六年の保険医総辞退以来の一連の経緯によって、現在のような構成になっている。つまり、三十八年以前は、保険者が六人、被保険者、事業者で六人、診療側が六人、そして公益代表六人、合計二十四名の構成でありました。それが三十八年の改定以降は、保険者、被保険者、事業者全体ひっくるめて八人、そして診療側が八人、公益代表が四人ということになっております。

私は、この中医協というのは、別に診療側とそして保険者、被保険者がみずからの利害を調整する場だとは思っておりません。もちろん診療報酬の点数を決める場でありますけれども、その中には税金が入っています。大量の税金が投入されている。だから、当事者間で決めていい問題じゃないはずであります。そういう意味で、議論の公開とあわせて、この構成メンバーのあり方についても再検討していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

小泉国務大臣 委員の構成については、支払い側、診療側、公益の三者構成で、現在二十名で組織することとなっています。そして、公益委員については両院の同意が必要となっておりますので、現在この構成を変えようとは厚生省は思っておりません。

しかしながら、審議内容の公開については、協議会とも相談しながら、国民に適切な情報を提供すべく努力していきたい、そう思っております。

岡田委員 私が申し上げたのは、個々の人間を入れかえるという意味ではなくて、八人、八人、四人というのを、従来六人、六人、六人、六人だったわけですけれども、そこまでいかないとしても、もう少し公益を代表する者を入れること。あるいは、保険者と被保険者というのは別であります、本来。だから、これも分けて、人数もふやしていくこと、そういったことを考えていただきたいということでありますが、いかがでしょうか。

小泉国務大臣 いろいろ御意見がありますから、今のところ厚生省としては、この構成でそれぞれの御意見が聞けると思っておりますから、両院の同意を得る、各方面の意見を聞くということで、変える考えはありませんが、審議内容等もっと情報を提供しようということでありますので、その面については努力をしていきたい。

ただ、今御指摘の御意見ありますから、今後、変えた方がいい、いや今のままでいいという、いろいろな意見を聞きながらしばらく検討してみたいと思っております。

岡田委員 それから、薬価の問題であります。これも、昨日志位議員の方からいろいろ提案がありました。

私も、国民医療費の三割を占める薬剤費であります、これについてきちんと手を入れないと、なかなか国民が、これから負担増と言っても理解してくれないだろう、そういうふうに思います。

昨日大臣は、薬価の透明性の確保について、今後透明化をいかに図っていくか検討させていただきたい、こういう言い方をされたわけでありますが、厚生省の説明では、かなりこの新薬の価格設定の問題というのはルール化されている、ちゃんとルールがあるんだ、こういうことでありますから、そういうことであれば、これをすべて公開して、だれでもそれが見れるようにする、そのことが私は非常に大事なことだと思いますが、そこまで徹底してやるおつもりはありませんか。

小泉国務大臣 今までの決め方、それぞれあると思いますが、この決め方の透明化については努力していかなければいかぬなと思っております。

岡田委員 決め方の透明化ということの意味がいま一つよくわからないんですが、ルールはありますね。だから、そのルールに従って決定した結果、この薬は幾らになりますということがかなり機械的に出るのであれば、そのことも含めて、どういうルールでこう計算した結果この価格になっているということをきちんと出すことはできるはずであります。もしできないなら、それは公表されているルール以外に何らかの別の要因が加わって薬価が決まっていると言わざるを得ないわけでありますから、この点について、ルールそのものだけじゃなくて、そのルールに基づいて決めた結果、そのプロセスも含めてきちんと公開をする、そのことについてお約束いただけないでしょうか。

小泉国務大臣 その透明化について努力していきたいと思います。

岡田委員 ほかにもいろいろ申し上げたいことがございますが、時間が限られておりますので、また次回にしたいと思います。

私は、実は社会保障制度審議会の委員をさせていただいております。この一月三十一日に答申が出ました。かなりの激論でございました。その中でこういうくだりがあります。今回の医療保険制度の改革の話でありますが、それに対して社会保障制度審議会は、「抜本的な改革の考え方を明確にするとともに、その具体的な改革スケジュールを、政府の方針として早急に示すことが不可欠である。」こういうふうに述べております。私もそういうふうに思います。

今回の負担増を伴うその改革の前に、私は、政府としてこういう考え方でこういうスケジュールで改革をしていく、そのことをきちんと説明すべきではないか、こういうふうに思っておりますが、厚生大臣、あるいは総理、いかがでしょうか。

小泉国務大臣 医療保険改革について、医療保険審議会、また老人保健審議会、いろいろ御議論をいただきました心また、与党の医療保険制度改革協議会でも、「改革の方向について一年以内に結論を出すこと」としておりますので、その中で当然今後の具体的な制度改革の方向並びにスケジュール等がいろいろ議論されて明らかになってくるのじゃないか。その議論を我々は期待しております。

同時に厚生省としても、今回の医療保険法案が提出されましたら、国会で十分御議論いただきまして抜本的な構造改革に何とか道をつけたい、そう思っておりますので、御理解、御協力いただければありがたいと思います。

岡田委員 私が申し上げたいのは、今回の法案は負担増の法案であるというふうに思っております。国民の皆さんに負担増をお願いするのに私もやぶさかではありませんが、そのためには政府として、将来のあるべき医療制度というのはこういうものだ、そのための第一歩として今回の負担増があるんだということをきちんと示さなければ、それは説得できないと思います。

例えば老人医療制度についてどうするのか、こんなことも随分政府の審議会でも議論してきたことであります。それをまた新しい審議会をつくって一からやり直すという。今大臣は一年間でとおっしゃいましたが、本当に一年間でできるのか。逆に言いますと、今までいろいろ議論してきたことを踏まえれば、私は半年でできると思います。政治の決断であります。半年でそういった結論を出して、国民が、ああ、これから老人医療を初めとする医療保険制度はこうなっていくんだなということを理解した上で、その上で負担増をお願いしていくというのが、私は物事の順番じゃないかと思います。

したがって、今この法案についてどうこうするよりは、そういった具体的な方向をまず出した上で負担増について考えていく、こういう道筋じゃないかと思いますが、総理、いかがでしょうか。

小泉国務大臣 私は、この医療保険がまとまる過程の議論を通じて感じているのですが、どのような構造改革が出たとしても、これから提出しようとしている負担増は避けて通れないと思います。どんな改革が、案が出てきても、この程度の負担は避けて通れない。

そういう中で、私は、これから高齢社会を迎える、少子社会を迎える、税はできるだけ抑えていこう、なおかつ若い人にツケを残さないで、赤字国債も抑えていこうという中で、現状のままだったらとてもこの財政はもたない。今回、財政対策だという御批判がありますが、もう金がない、これが構造改革への最大の推進力になると私は思っています。

今回、ようやくまとめました。これをまとめるときにも大変だった。これから構造改革が出て、みんな言います。どなたも意見が違うはずです。片っ方では右しろ、片っ方では左しろ。片っ方は過重、片っ方は軽過ぎる。必ず異論が出る。どんな案をまとめても、必ず反対が出るものしか私はまとまらないと思うのです。だからこそ、今回いろいろな反対論が出てきます。この案を出したことによって構造改革が確実に進んでいくのじゃないか、私はそれを期待しております。

岡田委員 もう時間ですからやめますが、私は今の厚生大臣の認識と同じであります。だからこそ、改正をする前に、負担増をする前にきちんと将来の方向を書かなきゃだめだと言っているのです。

今回の改正をしちゃったら、三年間息つきますよ。また三年間議論して、まとまらないじゃないですか。そうじゃなくて、今回、もう本当に大変だ、そういう状況の中で、限られた時間の中でしっかり議論する、そして最後は政治の決断をする、その上での負担増じゃないか。小泉大臣の問題意識は私心共有しておりますが、結論は全く違う。そのことだけ申し上げて、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。




TOP