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米国の外交・安保政策 ― 日米相互協力が大切

 バイデン大統領の外交・安全保障政策の方向性が、次第に明らかになってきました。日本の外交、安全保障に大きな影響を及ぼすだけに、バイデン政権の考え方を正確に理解するとともに、日本の考え方を伝え、よりよい同盟関係を築いていかなければなりません。
3月3日に発表された「国会安全保障戦略の暫定的な指針」は、数カ月後に策定が予定される「国家安全保障戦略」の骨格を示すもので、しっかりと分析する必要があります。

暫定指針の中で私が注目するのは、以下の点です。
第一に、民主主義の将来についての大きな危機感です。民主主義の後退や権威主義国家との競争が新たな脅威を作り出していると指摘。世界は転換点にあり、我々は世界の向かう方向について根本的な議論を行っているとも述べています。トランプ大統領には全くなかった視点です。

第二に、NATO、日本等との同盟は、米国の最大の戦略的資産と位置づけ、この点もトランプ大統領とは全く異なる認識を示しました。同時に、同盟国との公平な責任分担や同盟の再確認、投資、近代化を指摘しています。

第三に、中国について、安定し開かれた国際的システムに深刻な挑戦をする能力を持つ唯一の国であると指摘。米国の利益となるときに共に働くことも排除しないとしつつ、中国の行動が米国の利益・価値観の脅威となるときは、中国の挑戦に対処するとしています。

第四に、核政策については、核兵器の役割を低減させるための措置をとる、新たな通商交渉について米国の労働者と地域社会に投資した後でなければ着手しないなど、バイデン氏の大統領就任前の主張が改めて確認されていることも注目されます。

私の率直な印象は、以下の通りです。
まず、中国について強い危機感を持ちながら、敵視政策でもなく、従来の関与政策でもない、第三の道を模索。しかし具体的にどうすべきか、まだ決めかねているとの印象です。そして経済、安全保障いずれの面でも対中対策のパートナーの役割を日本に期待している。だからこそ、先日2+2が開催され、また菅総理が最初の直接会談の相手に選ばれたのだと思います。果たして日本は対中政策の基本について、アメリカに有用な提言ができる準備が整っているのでしょうか。日本自身が、民主主義という価値観を共有できず、安全保障上は最大の脅威であり、しかし経済的には重要な中国との関係を、どう築いていこうとしているのか。基本的なスタンスを定めた上で、米国と調整する必要があります。
中国対処以外の視点から見ても、アジアの存在がより重要になる中で、日本の役割に対する期待が高まっていると考えています。暫定指針を見る限り、米国のTPP加盟交渉は当面先送りされることになりそうですが、その間、日本の役割が重要です。市場経済・民主主義を共有する国々の高いレベルでの包括的経済連携協定として、TPPを位置づけ育てていくことが大切です。
核の役割低減を志向するバイデン大統領に対して、ぜひ共同歩調をとるべきです。中国・北朝鮮の核能力の増大に対抗するために、米国に対し東アジアにおける核の拡大抑止の強化を強く求めてきたのが安倍政権でした。米国の核政策も大きく変わろうとしています。ここは発想を大きく変えて、日米が協力して東アジアにおける核軍縮を前に進めることを合意すべきです。
北朝鮮に対する政策の方向性は必ずしも明らかではありません。中国との向き合い方をある程度定めた上でと考え、優先順位が下がっている可能性があります。トランプ大統領のような首脳会談先行型の交渉スタイルはバイデン大統領においては、あり得ないと思います。米朝交渉の基本を合意したシンガポール宣言の扱いをどうするべきか、大きな方向性を日米で確認する必要があります。
米国がアジアにおける外交・安全保障政策を行うにあたって、経済力、軍事力いずれの面でも日本と並び重要な国が韓国です。米国にとって重要な役割を担うことを期待する日韓両国の二国間関係の現状を懸念し、関係改善を強く求めてくることが予想されます。米国に言われるまでもなく、対中国、対北朝鮮対策はじめ日韓両国の協力の必要性はますます高まっており、その関係改善は、極めて大切です。双方の真剣な努力が求められます。
今後4年間の日米関係の方向性を定める重要な時期を迎えています。各国首脳との電話会談を進めてきたとはいえ、外交経験の少ない菅総理にとって、4月に予定されるバイデン大統領との会談は大変だと思います。十分な準備が必要です。今後予算委員会における集中審議等を開催し、立憲民主党をはじめとする野党の意見も事前に十分聞いてもらいたいと思います。



コメント
  1. むろけん より:

    国防・外交には様々な分野がありそれぞれに主要な課題があるでしょう。その一つに領海問題があって、対中政策として尖閣諸島の周辺を守り切ることが東アジア全体の安定を希求する上で象徴的な問題として存在すると感じます。

    いつだったか記憶が曖昧ですが、中国の民間人が魚釣島に単独上陸を強行して沖縄県警か海上保安庁に逮捕された事件があったかと思います。魚釣島で日本の公権が行使されたことに対して、中国政府が公式に抗議したという報道はなかったと思います。私の認識が正しければ、その時点では間違いなく尖閣諸島は日本が領するもので中国もそれを暗黙のうちに了解していたのでしょう。

    バイデン政権になって米国と西側アジア諸国との同盟関係を実質強化できる機会が来たと思われます。日本は尖閣の領土・領海防衛について米国の協力を要請し、中国を牽制することが重要であると考えます。

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