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2006.02.21|マスコミ

(政態拝見)岡田氏の眼力 メディア・戦争責任…骨太な問い 星浩

国会議事堂3階の一室で開かれている衆院予算委員会は「国会の華」である。いまはライブドア事件をめぐる激しい応酬が続いている。過去にも数々の名論戦が交わされた。それでも、夕方になると空席が目立つのが常だが、今年は様子が違う。与野党の委員たちが散会まで席を立たないのだ。議員たちによると「岡田効果」だという。

民主党の岡田克也前代表が委員として終日、最後列で論議を聞いている。だから、ほかの委員も退席しにくいのだ。

岡田氏はこれまでに2度、質問に立って、小泉首相や閣僚を追及した。入念な準備がうかがえる質問だった。これからもアジア外交や財政再建などのテーマで論争を挑む予定だ。

「小泉劇場」となった昨年の郵政総選挙で民主党が惨敗し、岡田氏が代表を退いてから5カ月。表だった活動は控えてきたが、時折の発信は的確だ。

民放の調査研究誌のインタビューに、こう答えている。(TBSの『新・調査情報』)

「(総選挙報道は)『小泉劇場』に乗っかり、お先棒を担いだ部分があった。メディアとして一線を越えたと考えている。特にテレビメディアの影響は大きかった。『刺客候補』に飛びついた結果、報道が偏っていたと思う」

「私のスタイルをあえて変える必要はないと思った。『テレビ政治』という同じ土俵に乗って、小泉さんのように面白おかしくやったら、有権者の関心は引きつけたかもしれないが、政治全体が沈んでしまう」

民主党は、小泉首相が郵政民営化で衆院解散に打って出ることはあるまいと油断していた。そこを突かれた。政治の駆け引きでは、小泉氏の勝ちだった。だが、あの総選挙には本質的な問題点がなかったか。各党のマニフェスト(政権公約)を点検して政策論争を重ねるといった地道な作業よりも「白か黒かの選択」でよしとする。生真面目(きまじめ)さよりも「劇場」を楽しむ。メディアも有権者も、そんな気分に陥っていなかったか――岡田氏は問いかけている。

総選挙で自民党は、ライブドアの堀江貴文前社長を事実上支援したが、岡田氏は堀江前社長と2度会って、民主党の公認・推薦を見送った。会談で堀江前社長は「国民はバカだから、政策を説明してもしようがない」と話した。岡田氏は「真面目に政治に取り組む姿勢を感じ取れなかった」そうだ。それがいまになって、岡田氏の「眼力」として評価されている。

岡田氏は1月、パキスタンを訪問した。地震被災地で活動する日本のNGO(非政府組織)の実情を見たいと思っていたからだ。地震で親を失った多くの子どもたちを懸命に支援する日本の若者の姿を目の当たりにした。アフリカなども訪ねて、NGOを励ましたいという。

各地の紛争に対し、自衛隊の派遣に頼るだけではなくNGOなど日本独自の非軍事協力はどこまで可能か。それを国際貢献の柱にできないか――岡田氏は考えを巡らせている。

岡田氏は、さらに重い問いを発する。

日本人は、自らの戦争責任問題に正面から向き合わないできた。それが首相の靖国神社参拝をめぐる議論につながり、アジア諸国の日本不信の根にもなっている。戦争に突入し、止めることができなかった責任を政治が検証すべき時ではないか――岡田氏は14日の予算委で追及したが、麻生外相らは「検証は考えていない」とかわした。
国民の間でも、戦争責任を本格的に検証するという骨の折れる作業を歓迎する声は多くはないかもしれない。それでも、岡田氏は問題提起をやめない。

先に引用したインタビューの結びが、岡田氏らしかった。

「政治家が真面目であることが問題のような言い方が世間にあるが、僕には理解できない。政治は真面目なものですよ」

(編集委員 column@asahi.com)




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