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2004.10.31|マスコミ

政権交代ができる透明性の高い政党づくり

岡田 克也 ▼民主党代表

インタビュアー 谷藤 悦史 ▼早稲田大学教授

参議院選挙の評価と将来構想

続投を決め岡田民主党は船出した。目指すは政権交代だが、前途の波は高く多難だ。自己の信念に基づく行動の政治家であることを志す岡田代表が、山積する問題・課題にいかにして取り組んでいくのか、インタビューした。

幅広い支持が得られる候補者の擁立

――岡田さんは党代表として、先の参議院議員選挙をどのように総括しておられますか。

岡田 選挙の結果を勝ち負けで言うのはおかしいんですが、自民党の議席を減らすことができたという意味では勝利だったと言えます。しかし、われわれの目標は政権交代を実現することですから、そのための重要な一歩を踏み出すことができたと言うべきだと思います。

――それと同時に、今後克服しなければならない課題も残ったと思うんですが、それは何でしょうか。

岡田 従来からの課題でもありますが、選挙に限って見ますと、第一に重要なことは、いい候補者を早く立てるということですね。今回は、昨年の秋に総選挙がありましたから、候補者の擁立がやや遅れがちでした。もう少し早ければ当選したと思われる人がいます。

第二には、候補者がしっかり活動することです。これは特に衆議院議員に言えることですが、現職を含めて、日常活動をしっかりすることが重要です。単に駅前で街頭演説をしているだけではだめで、地域において有権者と直に接する機会をもっと増やしていくことですね。決まりきった支持層と接点を持つだけではなく、一般の有権者と如何に幅広く接していくかということです。それには地域において、自前の後援組織をつくらないとできませんが、それは利害関係などで結びつくものではなく、政治に関心を持ち、期待してくれる人たちを堅い支持者にしていくことです。

次の総選挙は政権を獲得する選挙ですから、党の一般的な課題は、第一に政策をより掘り下げて、分かりやすいものにすることと、第二に民主党が透明性を高めて国民から信頼される存在になることだと思います。そういうものを軸にした党活動が必要だと思います。

また選挙の観点からは、党の足腰を強くする意味で、地方議員を増やしていかなければいけません。都道府県議会選挙では、一人区や二人区には必ず候補者を立て、三人区以上は複数の候補者を立てるという原則をつくるために、これから都道府県連とも協議をしていきたいと思います。これは公認候補者だけでなく推薦候補者も含めてです。地域によっては、従来の議員が新たな議員が増えるのを排除するということすらあるわけです。今までのそうした狭いしがらみにとらわれずに、一般的な幅広い国民の支持が得られる候補者、女性の候補者、若い候補者をどんどん立てていくことにしたいと考えています。

無党派層の支持を獲得するための組織

――今回の選挙では、自民党の組織が衰退していることが歴然としましたね。しかし、民主党もある種の限界を露呈していると思います。それは都市選挙区では票が伸びていますが、一人区の農村地域ではまだ十分伸びきれていないことです。こうした地域の足腰をいかに強化するかということについては、どう考えておられますか。

岡田 確かにまだ地方において、弱い部分がありますね。しかし、推薦候補者も含めまして、一人区は一三勝一四敗ですから、これまでとはかなり変ってきたと思います。そこで、選挙にあたっては、私は従来の党員を中心とするピラミッド型の組織は考えておりません。もうそういう時代ではないと思います。地方議員の数を増やして、その人たちに応援してもらうことも重要ですが、同時に、ファジー(あいまい)な無党派層ともいっていい有権者が増えていますから、そういう人たちを惹きつけるだけの魅力を備えた政策であり、候補者であるということが非常に重要だと思います。

――ヨーロッパの政党も、政党助成金が出るということになりますと、党費を納入する党員を増やす必要がなくなってきたんです。そこで一九七〇年代から八〇年代にかけて、選挙で勝つことを優先し始めたんですね。ところが、今はその点について反省しています。

岡田 党員になって党費を払ってくれるということは、政党にとってはありがたいことです。しかし、そういう人が多くはいません。選挙時の状況を見て、より良いほうを選択するというのが多くの国民の態度です。やはり自分の中に一定の自由度を確保しておきたいということのあらわれだと思います。イデオロギー政党の時代のように、何々主義というのがあって、その主義に共鳴する人が党費を払って党員になるという時代ではないと思います。

――ヨーロッパの政党も基本的にはそういう時代ではないと認識しているんです。しかし、九〇年代からは、やはり政党のコアになる党員を確保していかなければならないというように、戦略を変えてきました。それは、ある地域の候補者や政治家が変ったとしても、次の候補者なり政治家がそれをきちんと継続してやってくれるような、安定した政策システムを維持するためですね。

岡田 政党ですから党員が当然必要です。また政策も不可欠です。そのことによって政党としての支持を獲得しなければなりません。しかし、実際の選挙になりますと、政党票のほかに個人票が決定的になります。その個人票を獲得するのは候補者ですから、選挙においては候補者がより重要な集票力となるわけです。そこで、政党は同じでも、候補者は変わるわけです。その際には、支持する人が変わるし、支持のしかたも違ってくるわけですから、それぞれの候補者に応じた組織が必要だということです。

個別政策の違いによる有権者の判断

――現在はイデオロギーなどは必要ないと思います。ヨーロッパの政党が詳細なマニフェストをつくらなければならなくなったのは、イデオロギーの政治が崩壊したからなんです。日本でもイデオロギーに代わるコアとなる政策を固めていくことが必要ではないでしょうか。

岡田 もちろん政策を確立することは必要なことです。ただ、あまり対立的な発想で固める必要はないと思います。

――有権者の多くが、政策の違いが分からないと言っていますが、その点についてはいかがですか。

岡田 一方で民主党と自民党の違いが見えないという批判がありますが、他方でこんなに対立していていいのかという批判もあります。従来の野党の立場から見ますと、民主党と自民党は同じではないか、どこが違うのかということになります。しかし、保守層から見ますと、そんなに違っていていいのか、政権を狙うならもっと現実的な政策をとるべきだということで、両方から批判があるんです。

しかし、例えば今回の参議院選挙においても、年金問題や自衛隊の多国籍軍への参加問題などは、民主党と自民党の間には明らかな政策の違いがあったわけです。有権者はそれを判断して投票行動を決めてくれています。つまり、個々の政策にはかなりの違いがあるということです。それをイデオロギー的に政策の総体として捉えると、同じ民主主義や市場経済の中での違いですから、対立軸がないということになるのではないかと思うんです。

民主党の基本は民主主義と市場経済

――今回の選挙で、一番重要な争点は何だったと思いますか。

岡田 いわゆる「小泉改革」に対する評価でしょうね。これにはいろいろな問題点がありますが、最大の問題は改革が全然進んでいないということです。小泉改革には統一的な思想がなく、ただつまみ食い的にやっているに過ぎないと思います。

――民主党の政策を貫く基本的な理念とか、この価値だけは守っていきたいとかというものは、なんでしょうか。

岡田 民主主義と市場経済でしょうね。これは自民党も同じでしょう。これに加えて私の基本姿勢は社会的公正の実現という考え方ですね。市場経済についてはいろんな考え方がありますが、私は、基本的には民間による市場のメカニズムを前提とするべきだと思います。ただ市場の失敗については、政府が補完していくという考え方です。

――政府の規模については、どのようにあるべきだと思いますか。

岡田 規模の問題よりも関与の程度の問題ですね。政府は経済にだけかかわっているわけではないし、むしろ市場原理の働かない部分で重要な役割を担うわけです。政府は市場に介入すべきではないと思います。市場に関しては、政府はせいぜい規制改革などの形で、競争を促進する方向で役割を果たすべきだと思います。そういう意味では、現在の政府は大きすぎると思いますし、市場経済に関与し過ぎています。その結果、市場原理が歪められているし、むしろ生産性を阻害していると考えています。

――行政機関の民営化についてはどう考えますか。例えば郵政の問題についてはいかがでしょうか。

岡田 郵便業務を民間に委譲することは当面むずかしいでしょうが、郵便貯金や簡易保険は民間でもできることです。将来的には民営化の方向がいいと思いますが、あまりに規模が大きすぎますから、いきなり民営化というのは現実的ではありません。手順を踏んでいくことが大事だと思います。そういう意味では税負担や保険料に相当するものをまず公社に負担させつつ、三五〇兆円の資金をみずから運用できるだけの道筋を描いた上で民営化しないといけないと思います。今のままで民営化したら、日本の金融は大混乱をきたすと思います。公務員として働いてきた人々に対する配慮も必要です。

教育と雇用における社会的公正の実現

――社会的公正についてですが、日本の社会の中で、最も公正が損なわれている部分は、どういった点にあるとお考えですか。

岡田 いろんなことがあると思いますが、例えば税金の問題ですが、所得の階層分化が歪みつつあると言えると思います。それは決していいことではありませんね。ある程度中間層に傾斜した社会というのが重要だと思います。

それから機会の平等の問題ですが、その典型は教育です。特に重要なのは、所得の多寡によって私立の小中学校に入れるかどうかが決まることです。東京あたりではそういう傾向が高まっています。しかし、地方ではそういう選択肢さえなかなかないんですね。親の所得や住む地域によって教育の質が違うということは、これは基本的に機会の平等を損なうことになります。したがって、公立の小中学校のたて直しは非常に重要な政策課題です。

もう一つは世代間の公正の問題です。一例を挙げれば若者の働く場がないということです。これは非常に深刻だと思います。一方で中高年者の再雇用の機会がないという問題があります。そこで、中高年者にウエイトを置きすぎると、パイは限られていますので、若者が雇用の機会からはずされてしまうということになります。それからいろんなトレーニングがありますが、働くことの喜びが理解されるようなプログラムをつくって、そのチャンスを与えなければいけません。長い目で見れば、人口が減少していきますから、雇用の問題は次第に解決の方向にいくのかもしれません。しかし、若者の状況は看過できないですね。そういう人たちが三〇代、四〇代になった時に、トレーニングも受けず、同じような所得の低い状態が続きますと、それが少子化につながっていくなど、いろんな問題が派生してきます。

――小泉政権の三年間の中で、一番大きな問題は、そうした労働市場の問題や、人間資本そのものを開発していくという問題が抜け落ちているということだと思います。

岡田 チャンスを与えても、本人自身が働く意思を持たないという問題も当然ありますが、それにしても政治がしっかり対応していく必要がある極めて重要な課題だと思いますね。

「正直に語る政治」が求められている時代

――先ほど透明な政治を目指すと言われましたが、透明な政治の前提になるのは情報をきちんと国民に提示するということですね。しかし、小泉政権の情報提示のしかたには不透明な部分がたくさんあります。例えば参議院選挙の前に、日本経済は非常に順調であるということを言われましたが、選挙が終わったら、個人消費が伸びていないという。つまり、情報の出しかたが違うわけです。それから年金問題にしても、さまざまな政治混乱を生んだような情報提示がされました。どうも日本の政治手続きが透明性を欠き、やや乱雑な感じがしますが、この点についてはどうお考えですか。

岡田 小泉総理の一つの特徴は、メディアの使い方が巧妙だということですね。例えば選挙の前に臆面もなく訪朝し、金総書記と親しげに握手をしているところをテレビや新聞に報道させるということをしました。本来総理がやるのはそういうパフォーマンスではないはずです。ある意味では国民を軽く見ていると言えます。国民もそういうことに気がついてきています。だから参議院選挙があのような結果になったのだと思います。

いま正直に語る政治が一番求められていると思います。選挙前に党首討論をやりたいと思ったんですが、機会がありませんでした。国会の委員会の中で、一度一時間質疑をしただけで、本来の討議がありませんでした。多国籍軍への参加についても説明なしですからね。

私の立場から言いますと、党運営における透明性が大変重要だと思います。組織の運営には情報公開やルールの公開が不可欠です。最近業績を上げている企業の経営者が、透明性ということをさかんに強調されていますが、それは党運営と共通するところがあります。例えば、民主党の政治資金についての透明性を高めるために、第三者機関が監査を行うとか、ホームページに載せるとか、いろんなことを進めています。これからも透明性をキーワードに党運営をしていこうと考えています。

政策とか理念とかも重要ですが、やはり政党のありようが最も重要な時代だと思います。歯科医師連盟の問題に見られるように、自民党は全く不透明は党運営をやっています。これは大きな問題に発展していき、第二のリクルート事件になる可能性が高いですね。自民党の政治資金団体である国民政治協会を巻き込んだ迂回献金などが明らかになりつつあります。それに対して何の説明もしないし、責任も取ろうとしないのが自民党執行部です。それに対して民主党は、そういうことが起こりえないようにしているわけです。そこが国民に分かりやすい政党として評価されるのではないかと思います。

国のあり方からはじめるべき憲法論議

――今年から来年にかけて、最大の課題として憲法改正、憲法改革の問題が政治日程にのぼってくると思います。自民党は結党五〇年ということで、案を用意すると言っております。この問題について、どのような考え方に立っておられますか。

岡田 民主党としては政調会長の諮問機関である憲法調査会から、昨年の秋に中間報告が出されました。したがって、この中間報告を党内で本格的に議論していくということになります。時期については、自民党が結論を出すのは来年だと言っていますので、それを配慮する必要があります。

ただ、本当に憲法問題が政治日程に上ってくるかどうかです。自公連立政権の現実を見ますと、憲法問題については自公の間に基本的な対立があるわけで、その点について、合意が形成できなければ、国会での議論にはなりません。自民党の公明党に対する依存は、参議院選挙を通じて、より強まっていますから、本当に合意に達するかどうか、不透明な部分がありますね。

もう一つは、憲法の議論を進めていくに当たって、間違ってはならないのは、憲法が変ればすべてが変ると考えてはならないということです。やはり日本の現実の状況をどうすべきかという議論がまずあって、そうしたことを実現するために憲法改正が必要であるならば、憲法改正に取り組むという手順にならなければいけないと思います。憲法改正そのものを自己目的化してはいけないですね。

この二点を注意した上で、自民党も積極的に議論すると言っている以上、自民党の案が出た時に、われわれの案がまとまっていないというのでは話になりませんから、それまでにしっかり取り組んでいきたいと思っています。

――憲法九条に議論が集約されて、日本の将来の姿や社会のあり方など、国の大きなフレームワークが見えなくなってしまってはならないと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。

岡田 国というものの位置づけが、まず大きな議論としてあると思います。自民党の場合は国家を前提にしていろんなことをしておりますし、われわれも国会議員として、現在の日本という国を前提として議論するわけです。しかし、国は相対的な存在であって、世界の中の一つの国であり、またアジアという地域の中の存在でもありますから、そうした国際的な位置づけが必要です。同時に、国と個人ないし地域との関係をどう整理していくのかという議論は避けられないと思います。

次期総選挙で政権交代ができる体制の整備

――最後に、岡田さんは今後代表として党員の皆さんに何を一番訴えていこうとお考えでしょうか。

岡田 国民の民主党に対する期待は、次の総選挙で政権を交代してもらいたいということだろうと私は思っています。したがって、次の総選挙には必ず政権交代させるということを前提として、そのための準備をすることが最も重要なことだと思います。その一つは政策であり、もう一つは透明性を明確にした党運営をすることです。そうした準備をしっかりやって、この二年間に総選挙があれば、その時には、確実に勝てる体制をつくり上げることが、私の最も重要な課題だと思います。

――岡田さんが、政治家になるにあたって、最も影響を受けたこととか、きっかけとなったことは何でしょうか。

岡田 きっかけは、国家公務員の職務をしていくうちに、国の運営と国民生活により大きな影響をもつ政治家という職業を選んだということです。

――それで、岡田さんとしては、どういう政治家を目指しておられるわけですか。

岡田 国家公務員時代に、政治家のあまりにも政治家らしくない姿を見過ぎましたので、神輿に乗るような政治家ではなくて、自己の信念に基づいた行動をとる政治家でありたいと思っています。

――どうもありがとうございました。

(文責=編集部)




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