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2003.03.14|マスコミ

もう『有事法制』でブレることはない!

トップが変わっただけでは国民は納得しない

―― 昨年十二月、鳩山(由紀夫)代表が辞任され、菅(直人)代表・岡田幹事長ラインが発足しました。新しい執行部は世代的にもかなり若くなりましたね。その間、選対委員長や国対委員長の人選をめぐって若干ゴタゴタがあったようですが、大きな問題にはならず、菅代表は「これで民主党はハシカを克服した」という表現を使っていました。「政党というのは一時期そういうハシカにかかることがあるものだ。だけどこれを克服したので、これからは本格的な野党としての再スタートが切れる」という意味だと思いますが、幹事長は新しい体制をどのように見ていますか。

岡田 新体制がスタートしてだいぶ時間も経ちました。いよいよ通常国会が始まって、新しく若い執行部が試される日々が始まったわけです。今のところ、非常に順調です。菅代表と私の間で意見の違いがあってはいけないので、密接にコミュニケーションをとっています。一月四日に伊勢神宮へ参拝したのですが、その時(一般の参詣者から)「喧嘩するなよ」と掛け声がかかった(笑)。代表選挙では菅さんと対峙する形で戦いましたので、世間的にはそう見えるかもしれませんが、結果が出て、菅さんが代表になって、私が幹事長を受けた以上は、ナンバーツーとしてしっかり支えていくつもりです。決まったことにはきちんと従って、役割を自覚してやっていこうと思っております。

菅代表は国会から出て外に日本中どこへでも出かけていくとおっしゃっています。菅代表にはそういう外向けの顔になっていただいて、私が中をまとめる。中をまとめると言ってもそう簡単ではないのですが、役割分担をしながら、お互い意志疎通をよくしてやっていこうという決意です。これでうまくいかなければ、民主党も浮かび上がりませんので。

――政調会長、国対委員長も若くて、いずれも初めての人ですね。

岡田 そうです。枝野(幸男、政調会長)さんはずっと私と一緒に政調の仕事をやってきましたので、慣れたものです。私が政調会長の時にはなかった新しい味付けでやってくれています。それから野田(佳彦、国対委員長)さんのほうは国対畑は初めてで、大変だと思います。しかし逆に言うと、だからこそみんなが支えなければいけないと、若手がグッと結束して支えていますので、非常にいい形だと思います。

――ところで岡田さんに関して、代表選で菅さんに負けた三十分後に幹事長を受けたことについて、当時の佐藤敬夫国対委員長が「どうして受けたんだ」と言ったということです。自民党の某幹部は岡田さんの行動について「お手軽だな」と漏らしたそうです。何か反論はありませんか。

岡田 佐藤敬夫さんも保守新党へ行かれた方ですから、意図を持ってお話しになっていることかも知れませんので、コメントはしません。たしかに一部の方から「いったん持ち帰るべきだった」とか「もう少し時間を置いた方がよかった」というアドバイスをいただいたのですが、私はそれは違うと思います。そんな格好をつけてみてもしかたがない。それはいろいろな条件をつけたりした方が値打ちは出たかもしれませんが、一番大事なことは何かと考えれば、新しい執行部がしっかりまとまっていくということです。あの日、鳩山さんもおられたのですが、鳩山さん、菅さんから言われて、私はその場で即答しました。そのことが、党がまとまっているという印象を早くしっかり与える、伝えることができると思ったんです。現実に、テレビにもそのあと二人で出演しましたし。「相談すべきだった」とも言われますが、この代表選挙はセンターホールもつくらず、皆さんのご厚意に支えられてやった選挙で、事前に誰かに相談しなければいけないような選挙はしていませんので、私ひとりが決断しました。

――新執行部は通常国会で力量を試されていくわけですね。一方で、残念ながら昨年暮れに熊谷(弘)さんら七人が離党しました。

岡田 離党したのは七人ですが、熊谷さんのところ(保守新党)へ行ったのは五人です。

――民主党には「離党予備軍がいる」と言われていますね。例えば今春の統一地方選が終わったあと、さらに五人ぐらいが保守新党へ行くのではないかという噂が自民党筋から流れたりしています。

岡田 保守新党の発足には大義名分も何もなかった。ですから国民の支持があるとも思えませんし、せっかく自民党に代わる政党を作ろう、政権交代をやろうという思いでやってきたのに残念なことだと思っています。熊谷さんは党の幹部だった方ですから。ただ、もう終わってしまったことなので、今さらそれを批判しようという気持ちは私にはありません。今おっしゃった「五人ぐらいの方」が保守新党へ行くかどうかは別にして、党の中に、たしかに与党志向の方がいらっしゃることも事実です。しかし、これはやはり民主党が近い将来、政権が取れるかどうかにかなり関係してくる話なので、それがダメだと思った瞬間に「じゃあ政党を替わって与党になろうか」という発想が出てくるのだと思います。その意味ではこの国会で民主党がいかに闘っていくか、そして将来に対して展望を持てるかということが非常に大事だと思います。

――政権交代可能な力量がつき始めているということを、この国会で示せるかどうかですね。

岡田 はい。「それならこの党でがんばろう」という気も出てくるわけですから。もちろん、何とかこの民主党で政権を取ろう、つまり自民党ではダメだという考えの人間が圧倒的なのですけれども。

――民主党大会が一月十八日に行われました。その席で菅代表は「民主党は結党以来最大の危機にある」と言い、「いずれにしろ政権交代をめざす」ということを決意表明されました。一致結束して、最後の決戦に挑むような大会になったのではないかと思いますが、党員の考え方などはどうでしょうか。

岡田 去年の暮れ、新しい執行部がスタートしたあと、新人の方とか、都道府県連の幹事長とか、あるいは議員の懇談会とか、いろいろな会を重ねてきた結果として十八日の党大会を迎えたわけです。集大成と位置づけていましたが、非常によい大会だったと思います。いろいろな意見が出ました。でも、今の党の現状から見れば、その程度の意見が出るのは当たり前だと思います。一方的に批判するような声は全くありませんし、むしろ温かさというか、この党を何とかしなければいけないという思いがにじみ出る質疑で、非常にありがたかったですね。再生への道が見えたと思いますよ。

――「政権交代だと言うだけなら、改革だ、改革だと言う小泉(純一郎、首相)さんと同じだ。中身がない」というような指摘もあったように聞いていますが。

岡田 それはちょっと、記憶にないですね。

――そうですか。鳩山前代表の辞任及び熊谷氏らの離党などで混乱していた党内は、これで落ち着いた、あるいは結集に向かったと言っていいわけですね。

岡田 はい、私は基本的にそう思います。皆地元へ帰って相当いろいろな意見を聞いていると思うのです。「民主党、しっかりしろ」という声が多いし、「もういい加減にしろ。これ以上揉めていたら、もう見放すぞ」という声もあったと思います。そういう中で「やっぱりしっかりしなければいけない」というふうに、議員たちも改めて感じたと思います。

もともと我々は「政権を取って日本を変える」という思いの中で民主党を作ったわけで、その原点に帰ることが非常に大事です。私もそういうことを大会の中で何回も繰り返してお話ししましたが、そういう思いの方がほとんどではないでしょうか。やはり「政権を取って日本を変える」という共通の目標をきちんと認識すれば、自ずとエネルギーは出てくるわけですから。

――これまでは、いわば遠心力ばかりが働いていた感がありましたからね。

岡田 そうでもないんですけれども(苦笑)。そういうふうに報じられてはいますが。一人ひとりはものすごく優秀な議員が集まっていて、それが全体としての力になっていない、バラバラだと言われるかもしれません。しかし私は「アメリカ合衆国では、多様な意見があることで、むしろ強みに転じることができる」ということをいつも申し上げているんです。多様さを生かして、大いに議論をして、しかし最後にまとまったらグッとその方向に従うという党にしなければいけないということを党大会で申し上げました。

――今までの場合、ある程度意見がまとまった形で国会や現場で混乱して、執行部の意見に反対する人がパラパラと出たりしましたね。

岡田 そういうことをやり放題だったのを信賞必罰という形でだいぶ変えてきたものの、党として、組織としてまとめようという発想があまりなかったところもあった。しかし、マネジメントは幹事長の仕事なので、このわずかな期間にいろいろなことを決めました。例えば、党の経理に全面的に外部監査を入れるとか、説明責任をきちんと果たしていこうということとか、参議院の比例のあり方などについてです。労組出身者ばかり当選しておかしいという意見もありましたが、私はそれは結果論に過ぎないと言っているのですが、いずれにしてもこれから参議院選挙をどういう形で戦うのか。私は地域重点候補と全国候補の組み合わせでやるべきだというのを持論にしているのですが、これも党として常任幹事会で決めてもらいました。いろいろなことをすでにドンドン決め始めています。あるいは、新人候補の支援に来年度は予算を一億円確保して、これを戦略的に使っていこうとか。

――それは衆議院選挙の新人にということですか。

岡田 はい。党大会で申し上げたのですが、一億円用意しました。でも、これは百人の新人に百万円ずつ配るのではありません。ちゃんとやっている人に重点的に投入するんです。

―― 傾斜配分ですね。

岡田 はい。そういうことを申し上げました。

―― 今までの民主党は、決定するまでの議論が生煮えのままだったために、実際にそれがいざ国会で採決の段階になると何人かが落ちる。あるいは、ブツブツ言う人が出る。

岡田 それは政策についてですね。私が言った党運営については、今まで先送りしていた。それをきちんとやっていくということです。そして政策の方は、今までもかなり議論しています。それでも守れない人がいる。それはやはりおかしいわけですから、しっかり自覚してもらう。守れない人には、これは去年の後半から始めていますが、役職停止などのペナルティーも含めてきちんとやります。

―― 残念なのはそういう変化が国民にはまだよく見えていない、わかっていない、まだ十分浸透していないと言うべきではないでしょうか。十二月中旬の世論調査では、菅民主党の支持率は六%で、前鳩山執行部時代と変わっていなかった。

岡田 これはマスコミによって違いますし、上がっている部分もあります。私は代表選挙のときに申し上げたのですけれども、人気のある人がリーダーになったから党の支持率が上がるわけではないし、そういうものに頼っていてはダメなんです。やはり党そのものが変わらなければ、いくらトップがどれだけ人気を集めても、それだけではダメなんです。つまり、決めたことがしっかり守られるとか、民主党という政党は今までの政党とは違う体質で、きちんと説明責任を果たす組織であるということが認識されるというようなことです。これはある程度、時間がかかります。なくした信用はそう簡単には戻ってきませんから。私としては、これから春の統一地方選挙が始まる四月までに何とか支持率を二ケタ近くまで持っていって、統一地方選挙あるいは統一補欠選挙で結果を出し、そして衆議院選挙につなげていきたいと思っています。

民主党は無責任な反対はしない

――ところで、民主党としては、この通常国会に基本的にどういう姿勢で臨まれるのですか。何を民主党は訴え、そして改革を主張している小泉政権とどのように対峙していくのか、お聞かせ下さい。

岡田 小泉さんが総理になってからまもなく二年になるわけですが、結局、改革も経済の再生もできなかったというのが現実です。国民の皆さんの多くが期待したけれども、あるいは場合によっては民主党も一部期待した部分がありましたが、改革はほとんどが抵抗勢力との妥協を繰り返して進まない。そういう中で、経済が最悪の状況になっている。つまり、いずれもできていないということですから、ここはしっかりそのことを指摘しながら、「民主党が政権を取ればここはこうなるんだ、変わるんだ」ということを訴えていく国会にしなければいけないと思います。

――たしかに今までの鳩山さん時代は、当初は「小泉さんを支持する」、簡単に言えば「小泉派」みたいな姿勢を鮮明にしましたね。途中から反小泉という姿勢に切り替わったとは言え、なお野党か与党かわからない。「ゆ党」と揶揄されたこともありました。

岡田 いや、そこは私は違うと思います。

――違いますか。民主党のスタンスにはよくわからないところがあったと思うのですが。

岡田 我々は責任野党ですから、全て反対するという立場は取りません。皆さんがわかりにくいと言われる時に、よく昔の社会党と比較してわかりにくいとおっしゃるのではないでしょうか。対決姿勢が定まらないとかね。でも、イデオロギーで対立して何でも反対で、永久野党だった社会党と比べられたら困るんですよ。我々は与党になるつもりですから、無責任なことは言わない。

――与党になるとは?

岡田 政権交代して与党になるつもりです。ですから無責任なことは言えないし、反対のための反対をするつもりもありません。そういう意味ではイデオロギー対立があった社会党のような対決姿勢はありません。政策的におかしいところはとかしい、違うところは違う、しかし合っているところは合っているということでやっていますので、「ゆ」党というような中途半端な存在ではないと思っています。

――いずれにしろ、少しぶれた面がありましたね、前の執行部は。

岡田 あの当時は、一つの判断として小泉さんが登場して「ひょっとしたら」と思ったわけですよ。彼が本気でやれば自民党と一緒にいられるはずがないわけですから。だから、それなら手を組む可能性もあるということであって、それは一〇〇%ない話ではなかったと思うんです。しかし現実はどうだったかと言えば、小泉さんは結局、従来の旧勢力と妥協を繰り返して変質していった。あるいはもともとそうだったのかもしれませんが。

――小泉さんと自民党内抵抗勢力の争いだけが強調されてしまった。

岡田 これはマスコミの取り上げ方もあると思うのですが、要するに同じ政府・与党の中で喧嘩していることが大きく取り上げられるというのは、ちょっと異常ですよ。残念ながら、現実はそうなっていましたが。

――肝心の野党第一党たる民主党はそこで埋没してしまった。

岡田 民主党の中で意見が違うと「バラバラ」と言われ、政府と与党が全く違っても場合によっては「好ましい」みたいな表現をされてしまうというのは、民主党としては非常に不本意です。

――政権与党の分裂に期待をかけつつ、野党がそこだけに集中してしまうと危ないということの一例ですね。

岡田 いや、分裂に大きな期待をかけたわけではないんです。ただ、そういうこともあるかもしれないということだったと思うんです、最初の頃は。

――小泉さんの最初の頃は?

岡田 でも、それはないということが数カ月後にははっきりわかりましたから。

――さて、経済の問題です。”三月危機説”が再び持ち出されていますが、民主党としてはデフレ克服にどう取り組んでいくのですか。

岡田 一つは、菅代表が言っている税金の使い道の話です。それから、予算の組み替え。従来型の公共事業とか従来型の補助金ではなくて、例えばより雇用誘発係数の高い分野に投入していく。あるいは、地方が自律的に判断できるような総合的な補助金の形にして、都道府県や市町村にそれを配分していくというようなことで、それぞれ現場の創意工夫が生きるようなお金の使い方をしていくということが非常に大事だと思います。

例えば最近話題になったことですが、学校の天井の高さは三メートルと、これは建築法上の施行令か何かに書いてあるんです。コストがかかるから、財務省がそれを問題にして、「なぜ三メートルなんだ」と聞いたら、文部科学省は「わからない。一年間かけて勉強する」と言っている。そんなことは基本的には都道府県に任せればいいでしょう。学校の天井の高さを何メートルにするなんていうことは、国が決める話ではないでしょう。都市と地方ではコスト感覚も違ってくるし、天井を二メートル五十センチにしても、あまったお金を同じ学校の別の部分で使った方がいいという判断もある。そういう仕組みを変えることで、お金が生きてくるわけです。そこが実はかなり大きなところだと思うんですね。

――スギの木がたくさん採れる地域では、天井の高い立派なものを作ってもいいわけですしね。

岡田 そうです。そして民間の力が生きるような、引き出せるような仕組みをいかに作っていくかということだと思います。最近はNPOの活躍が注目され始めましたが、そういったところが活力を持ってやっていけるような組織をいかに作っていくかということだと思います。

――デフレ対策に関して一月二十一日、小泉総理が「物価を上げるようにしていきたい」といったニュアンスの発言をしました。インフレターゲットという言葉は使わなかったのですけれども、それを言い換えた形で発言しています。これは民主党としてどのように考えていますか。

岡田 私はデフレよりはマイルドなインフレの方がいいと思います。これは多くの人がそうだと思うんです。もちろん、五%や一〇%のインフレは困りますが、ゼロか若干プラスぐらいのインフレというのが望ましいと思います。問題はそれをどうやって実現していくかということです。しかし、手段を問わずやるのだということであれば、私は反対です。例えば、日銀に実物資産、不動産とか土地とか株をバンバン買わせる、これは将来、通貨の価値、信頼を非常に弱めて、ハイパーインフレにつながっていきますから反対です。ただ、一定の限られた範囲の中でマイルドなインフレを目指してやっていく。例えば、国債を買う量をもっと増やすとか、そういうことであればむしろやったらいいと思います。

もちろん、学者の中でも「そういうことは意味がない」という意見と「意味がある」という意見と、真っ二つに分かれていますね。私は、日本経済がこういう非常に厳しい状況の中で、専門家の意見が分かれるのならやったらいい、ポジティブに考えるべきだと思います。ただ、やった結果が無茶苦茶にならないように、きちんと「ここまでの手段でやる」という歯止めをかけておくことが大事です。そのことをターゲットと呼ぶかどうかというのは、言葉の問題です。

――なるほど。今は「インフレターゲット」という言葉だけが独り歩きしていますね。

岡田 何でもやるというのはおかしいですよ。

有事法制、民主党は最後はまとまる

――民主党は緊急事態法制は必要だということを前から言っています。テロやゲリラへの対応、緊急時の国民保護法制を含めた包括的な緊急事態法制を、今国会に民主党として提案する考えだと聞きましたが。

岡田 基本的に、民主党は有事法制に対する考え方というのは前通常国会で全部出しているわけです。どこにどういう問題があるかというのも皆出しています。よく自民党の山崎(拓、幹事長)さんなどは「民主党の責任だ」とか「民主党は自分の考えを出していない」と言いますが、そうではない。きちんと出しています。前通常国会の時に私が最初に質問に立ちましたが、あまりにも担当大臣の答弁がお粗末で、どんどん話が混乱していった。あの程度の理解で、よく法案を出してきたなと思いますが、まず、そこはきちんと対応していただきたいと与党にはお願いしたい。論点をきちんと詰めて。そういう中で、論点がある程度、解決していけば、修正案というのはできるわけです。前国会までは問題点の指摘だけだったのですが、では我々はどうするということがはっきりわかるような形で、この国会で提案をしたいと思っています。

――政府側は有事の事態を三段階に分けていましたが、二段階に修正したようですね。

岡田 これは一応、我々の主張を受け入れてくれたということなのでしょう。

――国民保護法制についても、政府は今、一生懸命、自治体に説明したりしています。。

岡田 ただ、知事さんたちは全く納得していませんね。そんな状態で本当に政府は法案を出せるのかな、という気はしますが。

――そうすると、民主党としてはいわゆる有事法制というものは、今は必要ないとお考えですか。テロとゲリラ対策さえあればいいと。

岡田 いえ、違います。全体は必要だと言っています。しかし、朝鮮半島が緊迫している中で、テロや不審船について今の欠陥法制でやるということは信じられないです。

―― 欠陥と考えている最大のポイントはどこですか。

岡田 例えば、テロに対してどう対応するかということが全くない。警察が対応する場合と自衛隊が対応する部分とあるわけですが、そこの区分も非常に曖昧です。不審船については、実際にはまだ不審船が武力行使をしていない時に、自衛隊の船を出動させる根拠がない。とりあえず船を出しておくということなのですが、法律的には非常に問題があると私は思っている。少なくとも自衛隊法の改正はしなければいけない。

――海上警備行動の発令ではだめだということですか。

岡田 海上警備行動というのは総理大臣の権限でしょう。実際にはそれ以前の段階で出すという。調査活動とかとてもおかしな話で、フルに武装した自衛隊の船を出動させるべき時に、調査活動という名目で自衛隊を出してよいのかということです。

――今回、奄美大島沖で沈んだ不審船でわかったことは、向こうはフル装備していたわけですしね。

岡田 だからこっちも当然、出す以上はフル装備で行くわけです。その時に、調査活動とかで総理の関与もなくて、かなりルーズな状態で出していいのかということです。

――なるほど。一方で党内には「有事法制なんてとんでもない」という意見がまだ存在しますね。

岡田 そういう人はいませんよ。野党としても有事法制が必要だということから来ているわけです。そこはもうはっきり確認されています。

――旧社会党系の人たちもそうですか。

岡田 はい。法形式とか、そういうのはありますよ。

――法形式?

岡田 つまり、自衛隊法の改正で済むのではないかとか。新しい法律がいるとか。そこは議論はあるにしても、何らかの立法が必要だということは一致しています。それは政調会長の時にもはっきり確認しているわけです。有事法制はいらないという意見はありません。

――そうですか。与党側は「これを出せば民主党がまた内部分裂してくれるのではないか」と計算をしている向きがあるやに聞きますが(笑)。

岡田 失礼ですね、そういうやり方は(笑)。たぶん自民党内だって全然意見はまとまっていないはずですよ。例えば、インフレターゲット論についても全然一致していませんね。でも、それで分裂するようなことはないわけで、最後はそれが集約される。民主党もいろいろな意見があっていいわけです。最後何らかの形で決めればいいわけです。その方法としては多数決なり、トップが決断して決める。党として決めたらそれに従うということではないですか。

――イラク攻撃、北朝鮮問題についてお伺いします。イラクについて、国連安保理決議がないままアメリカが攻撃に踏み切った場合、日本政府がどう対応するかというのが大きな問題です。国連決議があった上での攻撃となれば、何らかの人道支援をするとか、協力するということに国民も理解するかもしれないですが、アメリカ単独でやった場合はどうか。その点について山崎幹事長をはじめ、「協力しない」と明確に言っていない。そこはどのようにお考えですか。

岡田 山崎さんは「政治判断だ」と言っているわけです。明白な証拠が必要だと。証拠があったけれども安保理の決議がない時にアメリカが単独で行動したら日本はどうするか、その場合は政治判断だと言っています。言い換えれば、それで支持する、賛成することもあるという保証をしたいということです。

――確かにそういうニュアンスを出していますね。

岡田 私はそれはまちがいだと思います。原理原則が非常に重要です。戦後作ってきた国連を中心とした平和維持システム、つまり安保理で決議をして、それに基づいて武力行使、制裁をする。それ以外は自衛権の発動しかダメだという原理原則です。安保理決議がないままの攻撃はそういう考え方から逸脱するわけです。安保理の決議がなくても、単独で自らが正義と判断して相手国をやっつける、いわば戦争をするということですが、それはやはりアメリカと言えども許されない。そのような自らの正義、そして武力行使ということを認めれば、世界はもう一回、戦争の時代に、各々がそれぞれの正義を振りかざして戦う時代に戻ってしまう。だからたとえ同盟国と言えどもアメリカの行動を諫めることが同盟国としての責任だと思います。小泉総理はこの点について全くはっきりしていませんから、哲学のない人なのかなと思います。

――もう一つの北朝鮮の核開発危機の問題ですが、昨年九月十七日の日朝首脳会談の成果が吹き飛んでしまった。あるいは埋没してしまったような状況になりました。今や朝鮮半島問題で日本政府の姿が見えない。例えば日本政府として、北朝鮮の核問題も含めて、例えば中国やロシアに特使を出して、「もっと説得してほしい」とか、あるいは「外務大臣を急遽集めて相談しよう」という枠組みを作るとか、能動的に動くべきだと思うのですが。そのアイディアもないまま、何か状況に流されているという感じを受けます。

岡田 日本は拉致の問題を抱えていますので、そこが膠着状態になっていて動きにくいという状況だと思いますね。拉致の問題も、せっかく平壌宣言まで出したんですから、きちんと話し合うことが必要です。もちろん相手のあることではありますが、知恵を出していかなければいけないと思います、日本政府としては。そうでないと、何のために平壌まで総理が行ったのかということになってしまいます。

核開発の問題は、これは日本自身の安全保障に関わる話で、そういう認識に立ってやらなければいけない。たしかに日本単独だけでは相手にされませんので、日米韓、あるいはそれに露・中を入れて、そこでしっかりスクラムを組んでやっていくということが大事だと思います。韓国と米国では認識とか置かれた状況が相当違います。韓国はやはり直接戦場になる可能性が高い、アメリカは今までずっと北朝鮮と交渉してきて、相当に裏切られたという思いも強いでしょう。そういう中で、いわば日本が接着剤として三カ国をしっかり束ねていくという役割は必要でしょう。どうも見ていると、日本は当事者ではないみたいな感じがあるのは残念ですね。

――九月十七日に平壌へ行きました、首脳会談をしました、それだけですね。日本外交は結局、九月十七日で終わってしまった?

岡田 止まっていますね。

小泉改革が進まない本当の理由は……

――次は、政治とカネの問題です。長崎県知事選に絡む自民党県連の動きですが、これに対して公職選挙法の「特定寄付行為」が初めて適用されました。これはまたユニークなことを長崎地検はやったものだと思いながらも、しかしよくよく考えてみると、ああいう立派な規定があって、これまで何で使われなかったのかと思いました。国や自治体から公共事業を受けている会社からの政治献金を禁止するという例の規定、これは以前から野党は規制しようとして、法案を出したりしているわけですけれども、しかし小泉総理は全く関心を示していない。

岡田 いや、小泉総理も一時は関心を示した。ところが、自民党内から反対が出るとすぐに黙ってしまいました。

――この問題は、この国会ではどのように取り組まれていきますか。

岡田 公共事業受注企業からの献金禁止の法案はもちろん同じように出します。長崎県連の問題について山崎さんは「調査・分析する」とおっしゃった。同じことを他の県でもやっているわけですよ。だから考えてみたら、皆逮捕されてしまいそうだということで、かなり慌てておられると思う。違法なことがいかに蔓延しているかということを自ら認めたわけで、捜査当局は厳正にこれに対処してもらいたいと思います。選挙になれば、どうしたって業者はある意味では弱い立場ですから、仕事がもらえなかったりとかね。しかも今回は、裏金もかなり見つかっている。そういう意味では、裏金というのは自民党にまだ当たり前のようにあるのかとも思わせますし、相当根の深い問題です。それをきちんと調べて、根絶してもらいたいと思います。しかし実際にはものすごく難しいと思いますよ、本質に関わる部分ですから。

――この事件のあと、自民党内では「これからお金がもらいにくくなる。どうすればもらえるんだ」「それは研究します」と言ったというやりとりが続いている。要するに事件を反省するとか、あるいは根本治療をどうするということよりも、警察や検察に摘発されない、違う方法を考えるというところに目先が向かっている。

岡田 ですから知事選で金を集めて、そして業者が出すというのは、逆に言うと出さないと排除されるということです。

――公共事業から。

岡田 そういうことを恐れているわけですね。それはやはり、公共事業全体を政治が談合で仕切っているという前提があっての話なので、そういう意味でものすごく根が深いんですよ。

――特に、自民党長崎県連の場合は長崎県から事業をもらっている会社を呼び集めて「この会社はいくら事業をもらっている。その金額に応じてカネを出せ」という手法をとった。すごく悪質ですよ。この方式がいろいろなところで行われている可能性がある。

岡田 行われていると想定されるんですね。だから例えば横須賀市みたいに電子入札で、まったく談合ができないというのなら、そんなお金は出ませんよ。

――自民党長崎県連の当時の幹事長や事務局長だけの問題でしょうか。もっと広がりがあるのではないんですか。自民党選出の長崎県の国会議員に及ぶとか。

岡田 県連会長がいたわけでしょう。県連会長は知らないということにはならないのではないですか。そのとき誰が県連会長をやっていたのか、私は承知していませんが。それから、これは長崎だけではないんですよ。さっきの話のように、至るところである話じゃないですか。表に出ていない、裏金もあるわけですから。一番悪質なのは裏金です。今回、裏金はたまたま見つかったというんでしょう、検察が捜査に入ったことによって。

――政・官・業癒着問題というものに民主党は切り込んでいくのですか。

岡田 それが小泉改革が進まない根元だということを、しっかり皆さんにわかっていただけるようにしていくということです。こういうことで、「自民党では無理だ」ということを確認していただいて、それに替わる選択肢として民主党というものを力強く示していくということです。

九月の自民党総裁選が民主党躍進の絶好のチャンス!

――選挙問題、野党協力に移ります。小沢(一郎)自由党党首との合流というのは当面は先送りにして、とりあえずは選挙協力でということになったようですね。

岡田 それは今の時点での話です。これからどういう環境を築いていくかということは継続的に協議していきます。つまり、選挙における統一名簿を作るかどうか。あるいは、国会の中で統一会派を作るかどうか、合流するかということは、これから真剣に検討していく課題です。しかし、まずは選挙協力を進めていく。これはいずれにしろ必要なことですから。そういうことで、作業は始まっています。

――いずれは社民党も選挙協力の話し合いに入ってくるのですか。

岡田 我々はそう思っています。ただ、社民党さん自身、まだいろいろな準備が進んでいないということもあって、今の段階ではまだということです。

――経済対策で野党三党が共同提案をするそうですね。これは昨年暮れの話ですけれども、党首会談で決まったと聞いています。

岡田 これから議論することだと思います。

――ズバリ、解散・総選挙はいつ頃だと見ていますか。

岡田 六、七月の可能性はかなりあるんではないですか。我々としては小泉政権を追い込んで、そしてきちんと選択肢を示して選挙に臨むということです。今六、七月と言われているのはそうではなくて、小泉さんが自民党総裁として再選されるために解散して、そこで勝って、総裁選挙なしで再選されるということですから、これはまったく大義名分のない解散ということになるわけです。自分の地位を保全するために、しかもそれは与党との関係でやるということですから、そういうのは認められません。我々としては「それは望ましくない」と言っています。ただし、その可能性は客観的にはかなりあるのではないかと思っています。小泉さんもこれからそんなに強くありませんから。自民党の中で徹底的に叩かれていきますから。

――民主党は独自候補者は二百人を超えましたね。しかし、まだ少ないでしょう。これからどうされますか。

岡田 これからは自由党と協議していきます。お互いに候補者を立て合ってはいけませんからね。まだ二十から三十人は我が方では予定している候補者がいます。

――それを入れると、二百三十から二百四十人ぐらいになる。

岡田 それと自由党さんもいますから、自由党さんはおそらく四十から五十人はいるでしょう。ただ、ダブっている部分もある。

――菅・岡田執行部からするとやはり六、七月の解散・総選挙は早過ぎるという感じですか。

岡田 早過ぎると言うと、小泉さんは解散したくなるでしょうね(笑)。国会終盤というのは一つのチャンスではあります。ずっと国会の中で議論をしてきて、小泉さんの限界がだんだん露わになってくるわけですから。

――だけど本当は秋から先の方がいい、というのが本音としてはあるのですか。

岡田 幹事長になってまだ一カ月、間もないですから、できたらもう少し準備をしっかりした上で選挙に臨みたいとは思います。しかしこれは相手が決めることですから。我々としてはいつでも対応できるようにしておきたいとは思います。

――最後に小泉政権とどう対決していくのかという点をもう一度うかがいます。小泉総理の「改革なくして経済成長なし」という言葉ですが、改革の成否がもしかしたら小泉政権崩壊の引き金にはなりませんか。民主党の攻め方として「あれはどうなっているんだ」という方法をとるんですか。

岡田 道路公団の問題とか、税制改革とか、地方分権改革とか、ほとんど何もできていない。それはやはり、いろいろな抵抗勢力との間で大胆に妥協をし続けた結果だと思います。国民には、経済についてしっかりしてほしいという思いと同時に、小泉さんに改革してもらいたいという気持ちもまだ強いと思うんです。それを彼は裏切り続けていますから、そのことはだんだん分かってきつつあると思います。だから最初申し上げたように、改革も経済もだめなんですね、できていないんです。

――それに対し「民主党ならこうするんだ」という代案は、何かあるのですか。

岡田 小泉さんは非常にお上手ですから、ずっとごまかしてきたわけです。それをだんだん国民もわかってきているわけですから、私は小泉さんの支持率はどんどん落ちていくと思います。我々はもちろん対案は常に出しているし、法案の形でも出しています。ただ、小泉さんはお上手だから、なかなか国民の目がそこへ行かなかった。「小泉さんはやってくれるのではないか」と皆思っていましたから。だから野党の具体案などには目もくれない、マスコミも取り上げないということではなかったのでしょうか。それがやはりできないとなれば国民の考えも変わってくるでしょう。

例えば道路公団の民営化なんていうのは、民主党は三年前に決めているわけですよ。小泉さんが登場する前から。今井委員会で、今井さんは辞めてしまいましたけれども、猪瀬さんたちの結論が出ましたね。あれに我々は賛成です。細かいことはいろいろあるとしても、基本的にあれには賛成です。あれをちゃんとやってくれればよいのです。でも、小泉さんはやらない。おそらく一年ぐらい寝かせて、時間を稼ごうと思っているのでしょうけれども。

――あの通りにはできない?

岡田 やろうともしないでしょう。この国会に法案が出てくるのではないのですから。次の国会と言っている。それで時間を稼いで、冷やそうということでしょう。だんだん国民もそれがわかってきています。改革の問題をやらないと国民の支持率が下がるということです。景気が悪くなると、自民党の中で批判が出てくる。両方から、支持率が下がれば批判が大きくなるということで、小泉総理にとって九月の総裁再選は容易ではないと思いますね。

――幹事長の戦略は?

岡田 勝たなければいけないんです。大きなチャンスだと認識しています。小泉総理の支持率が下がり、しかも「自民党ではダメだ」と国民も思い始めている。だから政権交代の大きなチャンスが今来ているんです。あとは民主党がしっかりするかどうかだけですよ。(平成15年1月22日)




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