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1994.10.19|国会会議録

第131回国会 衆議院厚生委員会

岡田委員 改革の岡田克也です。この場で大臣初め厚生省の皆さんに質問するのは若干奇異な感じでありまして、と申し上げるのは、この国民年金法等の一部を改正する法律案が閣議決定をされました折には私ども与党でありまして、つまり与党としてこの法案の提出に賛成をしたものでありますので、それが現在野党ということで質問するというのは若干釈然としないところもありますが、時間も限られておりますので、少し基本的な議論に限って私の方は質問させていただきたいと思っております。

基本的な質問といいますのは、一つは基礎年金における国庫負担の問題、それからもう一つは厚生年金における給付と負担のバランスの問題、この二点を中心にして、基礎年金、厚生年金それぞれについて質問をし、議論をしていきたいと思っております。

そこで、まず基礎年金についてでありますが、そもそも論で恐縮でありますけれども、基礎年金というものは一体どういうものなんだ、どういうものというのはその性格ですね、それについてまずお答えいただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 基礎年金でございますけれども、基礎年金は、年金制度におきまして全国民に共通する給付として位置づけられているわけでございまして、その水準は老後生活の基礎的な部分、衣食住を保障するという考え方に基づいて設定されているものでございます。

岡田委員 今の御説明、全国民に共通するものである、それから基礎的な衣食住を保障する、こういうお話でありますが、そういうお話を聞きますと、生活保護制度というのがありますね。これもある意味では似た意味合いを持っているんではないか、こういう気がいたしますが、生活保護制度と基礎年金というものはどういうふうな考え方で区別されておられるのか、お聞きをさせていただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 先ほど申し上げましたように、基礎年金というのは全国民に共通いたします老後の基礎的なニーズ、これを保障しようとするものでございまして、具体的には国民の衣食住といった基礎的な消費支出の額をもとにその水準を設定しているわけでございます。

一方、御承知のとおり生活保護は国民の最低限度の生活を保障するという制度でございまして、保護を受けようとされる方につきましては収入とか資産とか扶養義務者の状況等を個別に厳密に調査、いわゆるミーンズテストをした上で、なお足らざる部分を保障するというものでございまして、この二つは目的、機能を異にするものでございまして、基礎年金の水準と生活保護の水準とを単純に比較するというのは、よく聞かれるわけでございぎすけれども、適切ではないのではないか、こういうふうに考えているわけでございます。

岡田委員 今の御説明ですと、基礎年金の方は基礎的な生活保障といいますか、それに対して生活保護の方は最低限というところで実質的には違いが出てくるのかな、もちろん対象とかそういうものが違うわけですけれども、そういう気がするわけですが、それでは、具体的に現在の基礎年金の水準と生活保護の水準でどの程度の差があるのか、お聞かせをいただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 生活扶助の水準につきましては、これは級地によって違いますので、一番標準的な二級地の一ということで、県庁所在地を大体想定しているものでございますが、六十五歳で申し上げますと、これは六年度の生活扶助費でございますが、単身の場合、六十五歳の単身の方が、七万二百一円でございます。それから、六十八歳と六十五歳の夫婦で見てみますと、これを足し算して二で割るという形でございますけれども、これが五万三千百七十二円ということでございまして、今回基礎年金は六万五千円を予定いたしておりますので、夫婦で生活する場合には生活保護基準を上回っているし、単身ですと若干下回る、こういう水準でございまして、もちろん生活扶助の場合にはあと住宅とかいろいろ別のものがございますので、単純な比較はできないというふうに考えております。

岡田委員 今の御説明でも明らかなように、場合によっては、基礎年金の金額、平成七年度、順調に法律が通りますと月六万五千円ということになるわけですね。それよりも生活保護の方が上回るということも起きてくる、起きている。もちろん御説明のように、同じ制度ではありませんから、単純な比較は無理だと思いますけれども、そういうことになってくるわけであります。

このことが何を意味するのか。一つは、最近の若い世代はなかなか基礎年金に入らないという傾向がありますけれども、その一つの理由に、将来生活保護を受けることを覚悟すれば、そういう気持ちになれば、わざわざ毎月毎月一万円以上の掛金を払う必要はないんじゃないか、そういう割り切りがあるんじゃないかという気もするわけであります。

そのことも一つの問題なんですが、そもそも論を言えば、私はやはり基礎年金の水準がやや低過ぎるのではないか、もう少しきちんと生活できるような水準に上げるべきではないか、こんな気がしてならないわけでありますけれども、大臣のお考えを聞かしてください。

近藤(純)政府委員 基礎年金の水準につきましては、先ほどお話がございましたように、老後生活の基礎的な部分を保障するという考えに立って設定しているわけでございまして、今回の改正におきましても、前回の改正以来の国民の生活水準の向上に応じまして実質的な改善を図っているわけでございまして、老後生活の基礎的な部分を保障するという基礎年金の性格を考えれば、現在の水準というのはかなり妥当なものではないかな、こういうふうに考えているわけでございます。

岡田委員 厚生省のお立場もなかなか難しいとは思うのですが、月々六万五千円、年額七十八万円ですね、この改正がうまくいったとしても。これで本当に生活保障をしているということになるのかどうか、大臣の率直な御感想を聞かしていただきたいと思います。

井出国務大臣 それは多いにこしたことはないと思いますが、衣食住を賄うという性質でありますから、生活全部を賄うとすればこれでは十分だと到底言えないと思いますが、衣食住を賄うという意味では、ぎりぎりのところかなと思っております。

岡田委員 お言葉ですけれども、衣食くらいならあるいはと思いますが、住まで入っていますからね。例えば、御自宅があればいいですけれども、ない方などは、年間七十八万円で本当に大臣もおっしゃるようにぎりぎりやっていけるのか。私は、率直に言ってかなり難しいのじゃないか、こういう気がいたします。

その議論はちょっと横に置きまして、さて、その基礎年金の国庫負担率の問題でありますが、御案内のように、現在三分の一、これをもう少し上げていくべきではないか、こういう議論が議員の間にもありますし、それから労働組合、連合、そのほか指摘があるわけですが、この点についてどういうふうにお考えか、まず聞かしていただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 基礎年金の国庫負担の関係でございますけれども、はっきり申し上げまして、基礎年金というのは老後の全国民を対象にする制度でございますので、少し国庫負担率を上げても莫大な金額になるということで、具体的に申し上げますと、現在で三兆九千億円負担しているわけでございますけれども、現在の価格でも二〇二五年には八兆一千億。それから、例えば二分の一にするということにいたしますと、これは同じく二〇二五年に十二兆一千億円になる、こういうことで現在の三倍程度。これは現在の価格でございますから、名目値はもっと大きな数字になるわけでございますけれども、かなり巨額な金額になるわけでございまして、この財源をどう確保するかというのが大きな一つの課題だと思います。

それから、社会保険方式でこれまで行われておりまして、国民の間にはかなり定着しているというふうに思っておりますけれども、この社会保険方式のもとで税と社会保険料のバランスをどうとっていくのか、こういう問題が一つあろうかと思うわけでございます。

そのほかにも、ある程度財源が確保できたといたしましても、社会保障の中でどこに重点的に振り向けるべきであるのか、こういうふうな位置づけの問題がもう一点あろうかと思うわけでございまして、私どもといたしましては、この問題は非常に中長期的に長い時間をかけて国民的な論議を必要とするというふうに考えておりますので、今回の法改正につきましては、この問題とは別個に処理していただきたいというふうにお願いをいたしているわけでございます。

岡田委員 国庫負担をふやすべきだという議論の根拠として、いろいろなことが言われるわけでありますが、一つは、先ほどの保険料を払わない人ですね。これは、国庫負担を高めることによってより制度の魅力が増す。今ですと三分の一ですから、いわば二払って三返ってくる。もちろん払うときともらうときは時期がずれていますから、単純には言えませんが、二払って三もらう。それを、例えば国庫負担を二分の一にすれば、一払って二もらう。それだけ有利になるから、これは得だということで、もっと未払いの人が減るのじゃないか、こういう議論があります。

それからもう一つは、行革の議論がありまして、これは、あるいは全額国庫負担にしないとなかなも言えない話かもしれませんが、現在保険料の徴収に、例えば市町村でかなりの人手あるいは予算を使っている、そういうものが大幅に節約できるのじゃないか、こういう議論もあるかと思いますが、そのあたりについてどういうふうにお考えか、聞かしていただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 国民年金の保険料の未納者がたくさんいらっしゃるということを私どもも憂慮しているわけでございますが、それもございまして、調査を行ったわけでございます。

国民年金の保険料の未納者がいる世帯を調べましても、納めている方とそれほど遜色がない所得があっても払わない方がいらっしゃるわけでございまして、これも所得が低いから未納になっているというのではないのではないかというふうに考えているわけでございます。

特に、市町村別で見てみますと、町村部では六・八%くらいしか未納がないのですが、市部では非常に高くて倍くらい、倍以上でございまして、一六・九%。こういうことで、人口の規模が多いほど未納率、しかも若い人が多い、こういうふうな調査結果があるわけでございまして、都市部におきます収納の困難というのが未納者の発生の原因になっているわけでございます。

国庫負担を引き上げれば保険料が下がって納めやすくなるという議論はあるわけでございますけれども、所得のいかんにかかわらず、納めたくない人は保険料が下がっても納めないであろうということでございますし、私どもは、やはりこの制度は世代間の扶養の制度だということで、広報活動とかいろいろな機会を通じた啓蒙活動というのがどうしても必要なのではなかろうか、こういうふうなことを考えているわけでございまして、口座振替の推進等を初めといたしまして、保険料を納めやすい環境づくり、こういったものを地道に総合的にやっていかざるを得ないのではないか。確かに一〇〇%国庫負担になりますとその問題はなくなるわけでございますけれども、そうした場合には莫大な額にさらになるわけでございまして、それをどう考えるのかということもあるわけでございます。

徴収等につきましては、運営部長の方から答弁を申し上げます。
    〔網岡委員長代理退席、委員長着席〕

横田政府委員 国民年金事業におきましては、保険料徴収事務だけではなくて、運用、給付、裁定、年金相談と非常に多岐にわたった事務をあわせて行っておりまして、それぞれが明確に区分されているわけではございませんので徴収事務のコストだけを取り出してお示しするのは困難でございますが、平成四年度におきます国民年金事業全体に携わる職員数でございますけれども、都道府県、市町村を合わせまして一万六千六百名でございます。また、国民年金事業全体の事務費でございますが、平成四年度決算で一千四百四十億円となっております。

国庫負担を引き上げた場合との程度保険料徴収率が向上するのか、あるいはそれによって徴収コストがどの程度節減されるかという点につきましては、十分なデータがございませんので算定するのはなかなか困難でございますが、保険料徴収事務は広範な国民年金事業の一部であることを考えますと、節減額があったとしましてもそれほど大きな額にはならないのではないかというふうに考えております。

岡田委員 それからもう一つ、国庫負担率引き上げの論拠として言われるのは、労働組合からこういう声が多いように承知しておるのですけれども、所得の再分配機能があるのではないか、こういう話がありますが、これについてはどういうふうに評価されますか。

近藤(純)政府委員 年金制度におきまして所得再分配効果を考える場合には、保険料の負担だけではございませんで、給付との見合いで考える必要があるのではないか、こういう基本的な考え方を持っているわけでございまして、厚生年金につきましては、保険料に応じまして給付費もふえる、こういう仕組みになってございますので、所得にかかわりのない定額部分というのもございますので、一定の再分配効果というのは既にあるわけでございます。

国民年金につきましては、定額保険料で定額の給付というふうになっているわけでございますけれども、これは国民年金の被保険者というのが非常に多様でございまして、厚生年金の被保険者に比べますと所得の把握というのが非常に困難、もちろん所得がない方も非常に多いわけでございまして、制度発足の当初から定額の保険料にいたしているわけでございます。その場合、低所得者に対しましては保険料の免除制度というものを設けておりまして、この定額の保険料に対しまして、定額に伴う負担の軽減を図っているわけでございまして、これについてもある程度の再分配効果というのがあるのではないかというように考えております。

それで、基礎年金の国庫負担率を引き上げた場合には、どのような税によって賄うのかによって再分配効果というのも当然変わってくると思いますし、恐らく、私どもまだ検証したわけではございませんけれども、厚生年金の場合には所得に比例しまして保険料を取っておりますので、例えば消費税みたいなものよりは再分配効果というのはあるのかな、こういう感じがいたしますが、国民年金の場合にはやはり定額でございますので、おっしゃるような、消費税みたいなものと比べますと、再分配効果というのは消費税の方がひょっとしたらあるのかな。これはまだ我々の雑談の域を出ないものでございまして、当然のことながら、十分これから検証していくべきものであろうというふうに考えているわけでございます。

岡田委員 今の御答弁を私なりに解釈をしますと、消費税ということで国庫負担率をふやした場合には、定額の保険料よりは消費税の方が、所得の多寡に応じて納める税額というのはふえてまいりますから、所得再分配効果はある、しかし一方で免除制度というのがありますから、そこの免除されている所得層については、消費税はそこにもかかわっできますから、そこはむしろ逆だ、こういうふうに今の局長の御答弁を総括させていただきたいと思います。

さて、国庫負担率を上げる、私は当然消費税が念頭にあってこういう議論が出ているのだと思うのですが、先ほど御答弁ありましたけれども、消費税で賄った場合のその税率ですね。何%分に相当するかということを、二〇〇〇年と二〇二五年の時点での、国庫負担率三分の一を二分の一にしたという場合のそのふやした分を消費税に引き直せば何%になるかということを、お聞かせをいただきたいと思います。

ついでに参考として、そのときの消費税というのは恐らく国で使われる分を念頭に置いて計算をされることになると思うのですが、特枠としてこの国庫負担のためにふやした消費税は全額国で使うんだ、地方には回さないんだという仮定を置いて計算をしたときの消費税の税率についても、お聞かせをいただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 基礎年金の国庫負担率を仮に二分の一に引き上げるといった場合には、国庫負担の額は、二〇〇〇年度には現在より三・八兆円増加いたしまして七・七兆円になるわけでございます。また、二〇二五年度には現在より八・二兆円増加いたしまして十二兆一千億円に達するということでございまして、この国庫負担の増加を消費税、国の分ということで、純増ベースの国の分というのは一%一兆三千億円というふうにお聞きしておりますので、これで機械的に計算いたしますと、二〇〇〇年度には二・九%、それから二〇二五年には六・三%ということになっているわけでございます。

先ほど先生から御質問ございました、消費税収というのを国と地方も全部含めて計算しろというお話がございましたが、消費税が地方にないというのはなかなか適当でないとは思いますけれども、仮に全部含めてこれが国費として使われるということで機械的にただいまの数字を計算いたしますと、給付費の増加に見合う税率というのは二〇〇〇年におきましては一・六%、それから二〇二五年においては三・四%になるということでございます。

岡田委員 私が後段で仮定の話を申し上げましたのは、国庫負担を引き上げるということで、特にその分消費税を上げるということであれば、必ず現在ある国と地方の分割ということを考えずに、別枠、国庫負担用の別枠として消費税を考えるということもできるのではないか、そういうことでお聞かせをいただいたわけであります。いずれにしても、今のお答えは、これは現在価格での数字だというふうに理解をいたしますが、二〇〇〇年で全部使えば一・六、今の国と地方の分割の方式に従えば二・九、こういうことでございますね。

さて、私はこういう数字を見ながら思うわけでありますが、この国庫負担の問題、先ほどちょっとお話をしましたように、私は、将来的に基礎年金を水準をもっと引き上げていくべきだ、こういう考え方を持っておりまして、今のこの基礎年金の水準を基準にして考えたときに、その一部を国庫負担に振りかえていくということは私は余り意味がないかな、個人的にはそういう気持ちであります。結局、それは数字の上では個人の負担率が下がったといっても、マクロベースで見れば保険料が税に置きかわっただけでありますから、一人一人をとれば若干の損得はあるかもしれませんけれども、基本的にはほとんど意味がないことではないかな、こういう気がします。

しかし一方で、基礎年金をもっと今より上げていこうという考え方に立ったときに、果たして今の保険料というのがこれ以上さらに引き上げることが可能だろうか。今の厚生省の計算では、来年度から一万一千七百円に月額なるわけですけれども、ずっと五百円ずつ上げていって二〇一五年には二万一千七百円になる、これは現在価格ですね。ですから、物価の上昇というのは考慮していない、考慮すれば恐らくこの数倍になるかもしれませんが。

いずれにしても、一人当たり二万一千七百円毎月払わなければいけない。例えば、御夫婦に二十を超えた大学生の子供さんでもおられれば六万以上払わなければいけない。さらにそこへきて、私の主張のように基礎年金の水準を上げるとすると、それが六万が八万、十万、こうなっていくわけです。そうすると、それはちょっとあり得ないな、こういう感じもいたします。

そういう意味で、私は、将来基礎年金の水準を上げるということとのセットで国庫負担率の問題というものを論じるべきではないか、そんな感じがするわけであります。この点についてどういうふうにお考えでしょうか、なかなか前提が難しいかもしれませんが。

近藤(純)政府委員 大変難しい問題でございまして、今の水準を、基礎年金の水準も引き上げて、保険料も恐らく今の水準を維持して、なおかつ増額の分は国庫負担でやる、こういうふうな想定だろうと思います。

基本的には先ほど来お答えしたのと変わらないというふうに思っておりまして、やはり基礎年金の国庫負担というのは大変な巨額のお金になるわけでございますので、その中でそれをどうやって確保していくのか。それから、基礎年金の水準、これからどんどん高齢者がふえてまいりまして、負担がふえてくる上にさらに高齢者の負担をする、こういうことになりますと大変な国民負担がふえる、こういうことでございますので、やはりこの問題は、繰り返しになりますけれども、広い観点から国民的な論議の上で決すべき問題であろうというふうに考えているわけでございます。

岡田委員 今の局長の最後のお答えはそのとおりだと思います。これをもしやるのであれば、きちんと議論しなければいけない。しかもその議論の場は恐らくこの委員会の場だろうと私は思います。政治家が議論する問題だろう、こういうふうに思います。そういう意味で、国庫負担の問題については、基礎年金の水準を将来どうするかということとセットで、できたらこの委員会に小委員会でもつくって大いにこれから議論をしていただいたらどうか、そんな気が私はするわけであります。

いずれにしても、ここで我々戒めなければいけないのは、国庫負担を将来ふやしますよと一方で言いながら、その財源については何ら明示しない、それは、私どもは政治家としてはとるべき道ではないだろう、そんな気がするわけであります。逆に言いますと、国庫負担を将来上げていくということをはっきり言うのであれば、財源についても、いついかなるタイミングで消費税についてこういう上げ方をしますよということを同時に言うべきであろう、こういうふうに思うわけでありますけれども、大臣のお考えを聞かせていただきたいと思います。

井出国務大臣 基礎年金の国庫負担の問題については、実は今回の改正に当たってもさまざまな議論があったことは承知しております。しかし、実施を急ぐべき今回の改正事項とは別個の問題として検討すべきものとされてこの改正案が取りまとめられたものでございまして、政府といたしましては、今回、国庫負担率を引き上げることは考えておらないものですから、ぜひ御理解をいただきたいと思います。

岡田委員 それでは、基礎年金につきましては一応区切りといたしまして、次に厚生年金について議論をしてみたいと思います。

厚生年金、特にその報酬比例部分、これをどういうふうに考えていけばいいのか。例えば従来ですと標準報酬月額の六八%という水準、可処分所得で見れば八〇%以上という水準になっていますね。この水準そのものをどういうふうに厚生省は考えておられるのか、あるいは諸外国と比較してこの水準は高いのか低いのか、その辺についてお答えをいただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 厚生年金の水準の問題でございますけれども、昭和四十年代に逐次改善が図られているわけでございまして、特に四十八年の改正のときに、直近の男子の標準報酬の六〇%、こういうことを目途とする考え方が導入されたわけでございます。

しかし、その後、加入期間が長くなった関係もございまして、この六〇%が六十年の改正時点の場合にはもう六八%にも達していったわけでございます。その六十年の改正におきましては、厚生年金の定額の部分と加給年金を夫婦のそれぞれの基礎年金として再編成を行ったわけでございます。

もともと厚生年金は世帯単位を想定いたしまして水準が設定されていったわけでございまして、そのときに厚生年金の定額部分と加給年金分を夫婦のそれぞれの基礎年金として再編成をいたしたわけでございまして、この結果、夫婦の基礎年金、二つの基礎年金に合わせまして一つの報酬比例が乗っかる、こういう制度の成熟時、四十年加入というのを想定いたしますと、構造的な水準といたしましては現在でも六八%ということになっているわけでございます。しかし、六十年改正によりましてそういうふうな厚生年金の給付の適正化措置がとられているわけでございまして、これはまだ現在も続いているという段階でございます。

可処分所得では八〇%ということでございまして、これをどうするかというのはこれからいろいろ議論しなければいかぬわけでございますけれども、人によっては高い、人によっては低過ぎる、いろいろ議論があろうかと思いまして、両方意見があるときには大体妥当ではないのかな、こんなような感じもいたしておるわけでございますけれども、諸外国との関係で申し上げますと、外国との関係は非常に比較が難しゅうございまして、制度の仕組みもかなり違う。

低い年金の、五年入っても年金が出る、こういうふうなところもございまして、そのために非常に低くなっているようなところもある、こういうふうな事情もございまして一概には比較できないわけでございますが、一九九三年現在、日本の厚生年金の水準はボーナスを含みました平均賃金に対しまして四一・九%ということで、四〇%をちょっとというのがずっと続いております。

それで各国、平成二年、一九九〇年の数字を見てみますと、ドイツでは、これは低い年金も入っているということもございまして三四・四%、それからスウェーデンが非常に高くて五六・三%、イギリスが四六・五、アメリカが四七・六、こういうふうな水準になっているわけでございまして、日本の場合も高齢になってからの加入で十五年という方もいらっしゃいますので、こういう方がいらっしゃるために非常に平均年金額としては低くなっている、こういうふうな事情もあるわけでございまして、我が国の水準というのは国際的に見ても中どころにあるのではないのかな、こんなような感じを持っております。

岡田委員 まあ年金の成熟度というか、そういうものともかなり関係してくるんだろうと思うんですね。したがって、単純に比較は難しいところもあるのかもしれません。しかし、可処分所得の八〇%以上、まあ月給ですけれども、という水準はその数字を見る限りはかなりの水準だと、こういう気も一方でするわけですね。

そこで質問なんですが、二〇二五年に最終保険料率が三〇%になるということになったときのその社会保険料、トータルですね、医療も含めて、それから所得税、そういうものも含めて一体、例えば月給三十万円なら三十万円もらった人がいるとしてどれだけ手元に残るのか。これはいろいろな前提の置き方によっていかようにでも計算できるのかもしれませんけれども、わかりやすく、もし何か計算ができたら教えていただきたいと思います。

それから、あわせてそのときのマクロベースでの国民負担率ですね。年金の保険料が三〇%になったときの国民負担率というのは一体どのぐらいになっているのか、その点についてもあわせてお聞かせいただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 前の方の質問につきましてお答えをいたしたいと思います。

現在、サラリーマンが自分の手元に残ります給与の割合、これは家計調査によりますと平成五年で八四%でございます。この可処分所得の割合につきましては、税説とかそれから社会保険でもいろいろ種類があるわけでございまして、何十年後までの一応の試算をしたというものは年金しかないわけでございまして、この年金の試算を前提にいたしまして、ほかの社会保険料とか税負担というのは一定だ、こういう計算でいたしますと、今回の財政再計算で設定しております年金保険料の上昇率、これを考慮いたしまして可処分所得の割合を推計をいたしますと、三十年後の平成三十七年度におきましては七八%程度になるのかな、こういう感じでございます。八四%というのが七八%に下がる、こういうことでございます。

太田(義)政府委員 お話のありましたマクロベースの負担率の問題でございますが、平成四年度の実績では社会保障負担率が一二・五%、これを含めました国民負担率が三八・一%となっておりまして、今後の高齢化、少子化ということの進行に伴いましてこの負担も相当程度増加すると見込まれます。

それで、先生のお話のありました二〇二五年、平成三十七年における国民の負担率ということでございますけれども、これを正確に推計することはなかなか難しい点がございますけれども、本年三月二十八日に出されました二十一世紀の福祉ビジョン、ここにおきまして一定の前提のもとに一つの計算を行っております。

例えば、その中でケースⅡというケース、これは社会保障の再編型と我々は呼んでおりますが、そのケースにおきます二〇二五年におきましては、前提となる経済成長率、国民所得の伸び等によって数字の幅がございますけれども、社会保障負担率は一九から二一%程度、これに社会保障にかかるもの以外の租税負担を一定として単純に加えた国民負担率は四八カ二分の一%から五二%程度というふうになるものと見込まれております。

以上でございます。

岡田委員 数字の話ばかりで恐縮ですが、もう一つ教えてください。

よく言われる話なんですけれども、厚生年金の保険料、払った保険料ともらう年金の額、これを損得というふうに考えた場合に、一定の世代からはむしろ損になるんじゃないか、こういう話があります。厚生省の方は、いやそんなことはありません、こういうお答えなんだろうと思うんですが、厚生省のお答えの前提として、企業負担分について、例えば今一四・五%のうちの半分、企業負担ですね。これをどう見るかというそこのところが一つ結論に影響してくると思うわけであります。

仮に、企業が負担している部分も、これは賃金の一種みたいなもんだ、もし保険料負担がなければその分賃金が上がるんだ、こういうふうに仮定したときに、果たして一体何年ぐらいに生まれた人から、払う保険料のトータルともらう年金の額で逆転現象が起きるのか、いろいろな前提が大きくあるとは思いますけれども、計算の結果をお聞かせいただきたいと思います。

近藤(純)政府委員 先生がおっしゃられました前提で計算いたしますと、今二十の方、昭和四十九年生まれの方、この方は、事業主負担を含んだ倍率でやりますと、一・一倍程度でございます。十五歳とか十歳の方で大体一・○という感じでございまして、これは前提をいろいろの置き方によってはかなり差異が出るわけでございますけれども、私どもの計算は現在の財政再計算の基本的な数値を使っておりまして、標準報酬の上昇率は四%、それから消費者物価の上昇率は二%、それから運用利回りは五・五%、こういう前提で計算いたしているわけでございまして、賃金とか物価とかそれから利回り、これの相関関係によって何十年というタームでは非常に大きな狂いが出てくる、こういうふうになっておりますが、基本的には一に収れんしてくる、成熟化してきますと、人口の高齢化が進行してまいりますと、大体一に収れんをしてくる、数理的にはそういうものだそうでございます。

岡田委員 なかなか局長の顔が苦しそうですので、これ以上詰めませんけれども、ただ、私はこういうふうにいろいろ申し上げたのは、やはり厚生年金の将来についていろいろ不安を持っている方もたくさんいる。そういうところについてもう少し情報開示をして、その上で、この厚生委員会の場もそうですけれども、国民的な議論も行われないとみんな疑心暗鬼になってしまうんじゃないか、そういう気がするわけであります。

同時に、今回いろいろやりくりをして三〇%、最終的な保険料率三〇%ということで決めたわけでありますが、これも計算の仕方によってはどうなるかわからぬというところがあると思うんですね。例えば出生率は今の前提では一九九五年が一・五、二〇一五年が一・八ということで置いてありますが、これだってどうなるかわからない、少し甘過ぎるかもしれない。そういうふうに考えますと、この三〇%というのは僕はこれを超えることは絶対あっちゃいかぬという最低線だと思うんですけれども、あんまりきめ細かくやった結果、これを超えてしまうようなことがあるんじゃないか、今与野党でいろいろ年金の議論していますけれども、そういう心配をしております。

例えば引き上げのスケジュールについて、三年ごとじゃなくて四年ごとだという御議論があります。それは四年ごとの方がいいでしょう。しかし、その結果本当にこれは三〇%でおさまるのかどうか、いろいろな前提が多少変わっていったときに。その辺も考えると、やはりどこかでぴしっと線を引いて、後でまた直すことは僕は可能だと思います。雇用の情勢が、確かに六十五歳定年というのが二〇〇〇年を超えてもうまくいってないのであれば、そのときにいじることはいいと思いますけれども、今甘くしてしまってそれからまたきつくするというのは私は大変厳しいと思いますので、その辺、お互い、責任ある政治じゃありませんけれども、人に優しくかつ責任ある政治として我々も心してやっていかなければならないんじゃないかと思います。大臣の感想を一言聞かしていただきたいと思います。

井出国務大臣 今回の改正は、二十一世紀の超高齢化社会においても年金の老後所得保障としての役割を堅持しつつ、後代の負担を過重なものとしないよう保険料の水準を現在の二倍程度の三〇%以内におさめようとするものでございます。この法案についてはいろんな御意見があることは承知しておりますが、後代の負担を過重なものとしないよう、今回改革の基本をゆがめることがあってはならない、こう考えておるところであります。

岡田委員 ありがとうございました。




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