オリ・パラー開催か中止か 判断のための情報公開を
4月28日に東京オリ・パラ大会における新型コロナウィルス感染症対策調整会議(第7回)が開催されました。この調整会議はあまり知られていませんが、議長は官房副長官で、東京都副知事や組織委員会事務総長などが副議長を務める事務方の最高意思決定機関です。ここで変異株等に対応した追加的な対策が決定されました。
決定文書によると「アスリート等」と「大会関係者」に分けて出入国措置、検査のあり方、ホストタウン・事前キャンプ地における対応など重要なことが詳細に決まっています。アスリート等というのは、出場選手と審判、コーチ、トレーナー等を指し、大会関係者(アスリート等を除く)とは、JOC等の主催者、要人、メディア、大会スタッフ等と定義されています。アスリート等で約3万人(内 出場選手1.5万人)、大会関係者で6万人、合計9万人が予定されています。
出場選手については、選手村中心の管理が行われ、毎日の検査も行われる等、ある程度の説得力ある説明がなされています。報道によると、選手団に対する事前のワクチン接種も決まりました。ただし、選手以外のアスリート等、即ち、審判やコーチ、トレーナー等の扱いについては、行動制限について選手と同様の扱いがなされるのか明らかではありません。
私が慎重な議論が必要だと思うのは大会関係者の扱いです。そもそもこれだけの人数が必要なのでしょうか。入国前後の検査が行われることは当然ですが、これによってすべての感染者を排除することは難しく、可能な限り人数を絞り込むことが必要です。また、入国後14日間の宿泊施設での待機を原則としつつ、受入責任者の厳格な監督があれば直ちに活動することも認めるとしていますが、どうやってその実効性を確保するのでしょうか。宿泊時の外出制限や移動の際の一般乗客との隔離などもどこまで、どのように守られるのか不明です。選手村で一括管理でき、また感染すれば出場できなくなる選手と異なり、大会関係者の行動を規制することは、より困難です。実効性のあるやり方を真剣に検討し、早急に具体策を示すことが必要です。
ホストタウン・事前キャンプも世界的に感染拡大がみられる中で、あえて行うことが適切なのでしょうか。ホストタウンは528の自治体が計画しています。オンラインでの交流やアスリートの受け入れの準備が進められており、「コロナ禍においてもアスリートと住民の交流が十分行えるようにしていくことが重要である」としています。「選手との接触が生じない形態での交流を原則とする」としていますが、選手の日本滞在を必要最小限とするためにも、オンライン以外の交流は見送るべきではないかと思います。大会出場後のホストタウンでの交流については、「身体的接触等が起こりうるもの(祭りへの参加、サイン会等)」や「食事の提供を伴うもの(そば打ち、おにぎりづくり等)」について、感染リスクを回避した実現方法、社会的距離の確保などを検討することとしています。世界中で感染拡大がある中で、かつ、国民に様々な行動制約をお願いしている中で、サイン会やおにぎりづくりなどの直接交流が実現可能なのでしょうか。関係者がこれまで積み重ねてこられた熱意と努力には敬意を表します。しかし、平時ならわかりますが、感染が世界に拡がっている中で、選手等が全国に行動範囲を拡大し、接触の機会を増やすような直接的な交流は、残念ながら見送るべきではないかと思います。政府が早く方針を決めないと、地元の準備が本格化してしまいます。
世界中に様々な変異株が生まれ感染が拡大しています。現在の計画では、オリパラ大会で、9万人の人々が世界中から日本に入国予定です。新たな変異株も含めて日本に更なる感染拡大をもたらす可能性があります。同時に日本から帰国したアスリートや大会関係者が世界に感染を拡げる可能性も排除できません。その危機感が調整会議の「追加的な対策」からは感じることができません。私は東京オリ・パラ大会をコロナ禍で苦しむ世界の人々に勇気と希望を与えるすばらしい機会にしたいと強く思っています。しかし、関係者の人数を最小限に絞り込み、その行動について実効性ある対策が講じられないのであれば、オリ・パラ開催は困難です。
菅総理は、IOCが大会開催を決めていると発言しましたが理解できません。日本政府は日本、そして世界にとって安心安全の大会とする責任があり、開催の可否を意思決定するのは主催国である日本です。コロナ禍において世界に希望を与えるオリ・パラ大会が実現すれば素晴らしいことですが、日本内外で、コロナの感染拡大につながるようなオリ・パラ大会であれば、残念ですが中止すべきです。開催まであと77日足らず。事前キャンプやホストタウンなら、さらに日程は切迫しています。5月半ばまでには、開催のための条件、そして開催の可否について政府がしっかりと方針を定め、国民に対して説明することが必要です。
