ホーム > トピックス > TALK-ABOUT [ブログ] > 北方領土交渉 ―菅総理は路線転換?

トピックス

北方領土交渉 ―菅総理は路線転換?

 今国会の施政方針演説で菅総理は、「2018年のシンガポールでの首脳会談のやり取りは引き継いでおり、これまでの両国間の諸合意を踏まえて交渉を進めます」と述べました。また、代表質問で枝野代表の「諸合意」とは何かとの質問に対し、「例えばシンガポール合意のほかに、イルクーツク声明や東京宣言が含まれます」と答弁。他方で就任直後のプーチン大統領との電話会談について、昨年の臨時国会代表質問で「1956年宣言を基礎として平和条約交渉を継続させる、このことで合意したことを改めて確認しました」と答弁しています。
 シンガポール合意を引き継ぐのか否か、私には菅総理の答弁は矛盾に満ちたもので、理解に苦しみます。

 北方領土は第二次世界大戦の結果、ロシア(ソ連)のものとなったのであり、両国間に領土問題は存在しないというのがソ連時代の主張でした。それを変えたのが東京宣言(1993年)で、北方四島の名を一つ一つ挙げて、そこに領土問題が存在することの認識を両国で合意したのです。日本外交の勝利でした。それ以降、日露首脳会談時の文書で必ず、東京宣言を含むすべての諸文書、諸合意を交渉の基礎とすることが確認されてきました。どこに国境線を引くかについての合意はもちろんありません。しかし四島に領土問題が存在すると合意したことは、交渉にあたっての強力なテコになってきたはずです。

 それを一変させたのが、安倍総理です。シンガポール会談で今まで日本政府が固執してきた「諸文書・諸合意を基礎に」という文言を入れることなく、「1956年宣言を基礎として交渉」するとしたのです。これは日本にとって大きな方針転換でした。1956年宣言(日ソ共同宣言)では、歯舞、色丹を平和条約締結後引き渡すと確認しているだけで、国後、択捉は全く言及されていないのです。国後、択捉は交渉の対象外であること、いわゆる二島返還論(注)にかじを切ったということです。
 私は四島すべて返還という立場ではありません。交渉ですから、現実的な結果を目指すべきでしょう。しかし面積で7%を占めるだけの歯舞、色丹で決着させることは反対です。しかし、安倍総理がプーチン大統領と交渉を重ね、二島なら確実に戻ると踏んでシンガポール合意に至ったのであれば、事の是非は別として、国のトップとしての一つの判断でしょう。

 しかし、その後二島返還交渉は全く前に進みませんでした。そしてラブロフ外相は「シンガポール合意で、日本は第二次世界大戦の結果、南クリルがソ連のものとなったことを認めた」と発言。北方四島がロシアのものだという前提で、改正された憲法67条に基づき「我々にロシア領土の主権の引き渡しについて交渉する権利はない」(メドベージェフ前首相)ということになると、たとえ二島であっても北方領土問題は、今後交渉すらできないということになりかねません。プーチン大統領との個人的信頼関係を信じ、二人だけの会談を重ねて決断した安倍外交の大きな誤りでした。

 いま日本政府が行うべきは、ロシア政府に東京宣言を再確認させ、四島に領土問題が存在するというところに議論を戻すことです。その上で、四島のどこに国境線を引くか再交渉すべきです。もちろん簡単に結論に至る訳ではなく、長く厳しい交渉になるでしょう。一たび安易に譲ったことを簡単に元に戻せるわけではないのです。何らかの理由でロシア側が日本にあゆみ寄る必要が生じるチャンスを待つ持久戦にならざるを得ません。
 シンガポール合意は両国首脳間の、しかも最近の合意ですから、日本政府としては、完全否定はできないでしょう。しかし、東京宣言などと並べて交渉の基礎とすると述べることで、シンガポール合意の意味を薄めることを目指す趣旨と考えれば、施政方針演説の表現も理解できます。しかし、プーチン大統領との電話会談では1956年宣言のみに言及し、安倍総理と同じ表現です。菅総理の北方領土交渉の基本方針がどうなっているのか、私には理解できません。

 予算委員会で私は「(路線変更を)私は歓迎している。日本は今、交渉上不利な状況になっており、それを巻き戻すのが菅総理の役割だ」と発言しました。菅総理は施政方針と同じ表現を三度繰り返しました。それ以上、一歩も動けない印象でした。容易なことではありませんが、菅総理には頑張ってもらいたいものです。


(注)シンガポール合意は二島先行返還論だと一部メディアは指摘していますが、誤りです。二島先行返還論とは国境線を画定せず、まず二島を返還し、国後・択捉二島の扱いは別途協議するというもの。しかし、これでは平和条約は締結できません。日本政府は国境を画定したうえで、平和条約を締結するとしているからです。歯舞・色丹の返還か、あるいはそれ以下(一島)の返還で最終決定し、平和条約を締結するというのが予想されるシンガポール合意の結末です。



コメントを返す

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。

内容をご確認の上、送信してください。


TOP