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2005.07.08|マスコミ

岡田克也・民主党代表、外交ビジョンを語る

私なら靖国は参拝しない五月十八日、民主党の岡田代表が外交ビジョンを発表した。悪化する日中関係、東アジア共同体、靖国問題、北朝鮮の核、集団的自衛権、そして憲法改正――山積する課題をどう見るか

聞き手・橋本五郎/読売新聞編集委員

日米同盟は地域を限定せよ

――民主党代表に就任してちょうど一年という区切りの時期に、外交安全保障ビジョンを打ち出した。いいタイミングだが、そもそもこの提言の位置づけが異例に映る。民主党の外交・安全保障政策としてではなく、あくまで代表個人の考えとして発表したのはなぜか。

岡田 民主党では、政策を立案する際、議員間で議論した後に「次の内閣」で決定するというやり方をとっている。だが、今回発表したものは、あくまで「ビジョン」だ。ビジョンとして明確な筋が通ったものにするために、積み上げ型ではなく、トップダウンで進める必要があった。

――今回のビジョンでは、受け身で場当たり的な小泉外交に対するアンチテーゼとして、「積極的な外交」を打ち出している。あまりに日米関係に偏重し、アジアを軽視する小泉外交への批判とも受け取れた。

岡田 そのとおりだ。こちらから創り出していく外交をすべきであって、何か起きたからそれに対応する、という後追いに終始する外交ではダメだということだ。そのために必要なのは、確固たる外交ビジョンであり、その内容が今回発表したものになる。

また、もちろん私も日米同盟を重視している。そのうえで、アジア重視というもう一つの視点も持つべきだという立場だ。そのために冒頭からアジア外交を取り上げた。

――アジア外交に関しては、「東アジア共同体」を実現する、そのために事務局なども設置していくというが、「アジア版EU」のようなものを意識しているのか。

岡田 東アジアにおいては、経済面での相互依存がすでに大変進んでおり、それに対して、政治が後れをとってしまっている。経済を中心にしながら、政治や社会、また警察といった分野でも協力体制を構築する必要がある。

ただし安全保障に関しては、やはり日米同盟がアジア太平洋地域における安定財として存在しており、私も日米同盟なくしてアジアの平和と安定はありえない という前提に立っている。逆に言えば、アメリカや中国を含めての「アジア版NATO」といったものが一〇年後に現実に存在しているとは思っていない。私の 考える「東アジア共同体」においては、当面、安全保障は範囲に含まない。

また事務局においては、OECD事務局のように、政策対話の土台となる基礎データの収集や分析を行うことを考えている。

――これまで菅前代表も、岡田代表も、小泉首相の日米同盟重視路線を強く批判するあまり、アメリカに距離を置いていた印象があった。だが、このビジョンを読 むかぎりでは、日米同盟の果たした役割を高く評価し、今後も東アジアにおいて、日米同盟が最も重要であるという前提に立っているように見える。今までの民 主党のイメージと少し違うのではないか。

岡田 私としては一貫しているつもりだ。ただ、ここで「同盟」という言葉の定義が問題になるだろう。小泉首相は「世界の中の日米同盟」という言葉を通して、いつの間にか日米安保の対象を世界中に広げてしまっている。

私はその点について異議がある。「日米同盟とは、日米安保体制を基盤に、日米両国がその基本的価値観と利益を共有する国として、安全保障面をはじめ、政 治および経済の分野で緊密に協調・協力していく関係のことである」と定義づけしたうえで、その範囲をアジア太平洋地域に限定している。それを超えた範囲で 自衛隊を活用する際には、国連決議を基本としなければならない。

東アジア共同体の主導権をとる

――東アジア共同体構想には、そもそも二つ問題があるのではないか。まず東アジアの国々は、ヨーロッパと異なり、国ごとに価値観がずいぶん違っている。そし て、もう一点、中国がアジア各国に積極的に進出していることだ。インドとは、日本以上に積極的に関係を結び、東南アジアに対しても触手を伸ばしている。こ れでは、東アジア共同体構想とは、中国のリーダーシップの下に、日本が追随していくことを意味するのではないか、という危惧がある。

岡田  まず、その危惧について反論すると、私はもっと自信を持てばよいと思う。日本の経済力は、いまだ中国に比べ、はるかに強い。アジアにおいて、十分なリー ダーシップを振るえるはずだ。たしかに中国はインドなどに進出しようとしているが、必ずしも確固たる地場を固めたわけではなく、まだまだ脆弱なものだ。

今、ASEANを中心に東アジア共同体構想が盛り上がっているなか、同調しないとすれば、それこそ日本は取り残されてしまうことだろう。日本は積極的に 主導権をとることで、中国を孤立させず、アジアの中に巻き込み、それにより、アジア全体の平和と豊かさを実現すべきだ。

この点、小泉総理も東アジア共同体と言ってはいるが、その内実はよくわからない。国会で質問しても、言葉に中身が伴っていない。単なる後追いになってしまっていると思う。

また、各国の価値観が異なっているのは事実だ。政治体制も異なれば、経済の発展段階も違う。しかし、一方で各国に分厚い中間層が構成され始めており、 マーケットという点では、一つになりつつある。経済面に注目すれば、東アジア共同体には十分なリアリティがある。

――とはいえ、中国は一党独裁国家であり、この前の反日デモなどを見ていると、このような国と共同体としてまとまれるのか、懸念が拭えない。

岡田  長い目で見る必要があるだろう。現在考えている東アジア共同体は第一歩だ。EUのように中央銀行を作るとか、ましてや政治的な統合を実現するといったこと は考えていない。経済の実態が進んでいるのに合わせて、制度も対応する必要があるということだ。EUにしても、最初は鉄鋼や石炭に限られた、非常に緩やか な段階から始まっている。

中国の説得は総理の責任だ――中国との関係では、現在直面する大きな問題がある。それは総 理の靖国参拝問題だ。小泉総理は靖国について、「国のために命を捧げた人に対して敬意を表するのは当たり前だ、他国から言われることではない、内政干渉以 前の問題だ」という考えに立っている。ここで靖国参拝をやめてしまえば次は尖閣諸島、ガス田と立て続けに迫られる。靖国は譲れない一線だと考えているよう だ。

岡田 それよりも、総理は個人的な思い入れで参拝しているのではないか。私も靖国参拝は外国に言われて決める問題ではないと考えている。その範囲では、小泉総理の考えも理解できる。ただ私自身は、総理として靖国神社を参拝するつもりはない。これは私の判断だ。

――それは、A級戦犯が祀られているからか。

岡田  そうだ。それでも参拝するのであれば、小泉総理は自分の考えを中国政府に対して理解させなければならない。靖国問題が、日本の常任理事国入り、北朝鮮の核 問題、日中経済など、重要な課題に影響を与えているのだから、一国の総理として政治生命を賭けて中国政府を説得する責任がある。それを果たさず放棄してい るのは、一国の総理としてあるべき姿ではない。

――小泉総理は責任を放棄しているだろうか。自分の態度をはっきり表明しているのではないか。相手を説得するテーマではないと考えているのではないか。

岡田  中国を説得できないのなら、参拝の結果生じる弊害を甘受することになる。それは外交判断として、明らかに間違っている。常任理事国入りも諦め、北朝鮮の核 への効果的な対応も諦め、日中経済に悪影響が及んでもやむをえないと考えているのなら、総理大臣として大変な問題だ。国益を大いに損ねている。

――とはいえ、A級戦犯を分祀するのは難しいだろう。経済界を中心に靖国参拝をやめよという声があるが、参拝を中止したとして日中間のさまざまな問題が片付くのだろうか。

岡田  分祀は政治が決める問題ではない。一方で参拝を取りやめれば、少なくとも一つ障害が取り除かれるだろう。ただ、だからといって、たとえば尖閣諸島の問題が 解決すると見ているわけではない。中国側が歴史認識問題として、資源や領土の問題、そして中台問題を持ち出すのは筋が違うと考えている。これらは違う次元 のものだ。

――それでも中国は、日本の常任理事国入りに反対する理屈として、歴史問題を持ち出してくる。戦後六〇年が経過し、日本も国際社会、そして国連の中で多くの役割を果たしてきた。歴史問題を常任理事国入り拒否の理由にするというのはどうしてもわからない。

岡田  確認しておくと、韓国と異なり、中国の首脳は、常任理事国入りに対し、明確に反対とは言っていない。とはいえ、最終的に中国の理解を得られず、常任理事国 入りを逃すようなことがあれば、次のチャンスは巡ってこないかもしれない。小泉総理が近隣諸国に対して、どのように対応するのかが問われている。

私の外交ビジョンでも、常任理事国入りは当然果たすべきものだと考えている。現状、みすみす機会を逃しつつあるのは小泉外交の大きな失敗だと見ている。

日米関係は薄まらないのか

――岡田ビジョンは、東アジアにおいて日米同盟をさらに緊密なものとする一方、グローバルな対応では国連安保理の決議を前提にするという二重構造をとってお り、その結果、現在よりも日本が主体性を持つということだが、より自主的な防衛力を整備する必要が生まれ、防衛費も増大すると考えていいのだろうか。

岡田  それは少し違う。まず基本的な認識として、冷戦時代のようにアメリカと共通の敵が常に存在する時代ではなく、アメリカの国益と日本の国益が必ずしも一致す るとは限らない。その現実を踏まえれば、従来のように安全保障はアメリカにお任せということでは成り立たない時代であることがわかるだろう。そういう一方 的な依存関係は日米同盟の持続可能性も揺るがすと思う。自国の安全は自国で守るという気概を持って、政策を立案すべきだ。特にテロのような新たな脅威に対 しては、日本単独で対応できる態勢を整えなければならない。これは、それほど費用のかかるものではないだろう。

また、情報も自国で収集する必要がある。安全保障において、情報は根幹となるものだ。決して正面装備をどんどん整備しろと言いたいのではない。

――東アジア共同体に対して、アメリカは非常に警戒心を持っている。アメリカとの信頼関係が薄れることにはならないか。東アジアにおける日米同盟の進化にも支障があるのではないか。

岡田 繰り返しになるが、東アジア共同体に関して、安全保障は範囲外だ。東アジアの安全保障は、あくまで日米同盟で対応し、それ以外の分野に関して、東アジア共同体が役割を果たすという整理をしている。これからの一〇年を考えれば、この方針が現実的だと思う。

たしかにアーミテージ前国務副長官なども心配しているようだが、アジアのことについては、ある程度日本に任せてください、と言いたい。なぜ日本をもっと信頼してくれないのだろうか。それくらいの信頼関係は日米にあるのではないか。

日米関係では、今後アメリカとFTAを締結し、日米のマーケットをより共通化していく必要がある。アメリカにとってみれば、その先に東アジア共同体があ る。日本はアメリカと東アジアの「連結器」になる。東アジア共同体構想がアメリカを排除することになるとは考えていない。

制限された自衛権行使を

――今回のビジョンでは、集団的自衛権の問題に触れていない。どうしてなのか。

岡田  安全保障論議をする際に、集団的自衛権こそが極めて重要な問題であるように語られているが、ややシンボル化されすぎているように感じている。もちろん、日 本の利害に直接関わるような地域で、同盟国である米国が攻撃を受けた際、日本が傍観していていいのか、という問題意識はある。ただ、これは個別的自衛権の 拡張という考え方で対応できる部分もあるだろう。

――理屈ではなく、実態論でいくということか。

岡田 そうだ。集団的自衛権の議論にすると、神学論争に陥ってしまう。

また、集団的自衛権を安易に認めてしまうと、地球の裏側であっても行使できるということになりかねない。仮に集団的自衛権を憲法なり法律なりで認めると しても、きちんと制限を明示したほうがいいだろう。いずれにせよ、より具体的な形で議論すべきだ。そして、最後にはその時々のリーダーが政治生命を賭けて 決断しなければならない。

よく言われるのは中台問題だが、中台で戦争が勃発し、米軍が介入した場合、そこに日本が集団的自衛権の名のもとに実力行使するというのは考えにくい。つ まり、米軍が攻撃を受けたのではなく、介入したケースだ。これは従来の集団的自衛権の考え方で説明できるのかという問題もある。中台は「一つの中国」とい う認識もあるし、注意深く議論しないと、単に問題を刺激するだけに終わってしまうだろう。まずは台湾ナショナリズムが制御不能にならないよう努力すること が日米にも求められていると思う。

――これまでは日米安保条約で、日本が攻撃されればアメリカは参戦するが、アメリカが攻撃を受けても日本は参戦しない、なぜなら集団的自衛権の行使となって しまうから、ということで一律に禁止していた。岡田ビジョンは、その姿勢から変化している印象を受けた。日本の安全に関わる場合は、集団的自衛権を行使す るということか。

岡田 日本が現に 防衛している地域において、米軍が目の前で攻撃を受けて、それに対して何もできないとは思っていない。ただ、海外で武力を行使しないということは、現行憲 法の基本的な考え方だから、自衛権行使には相当な制限をつけなければならない。どんどん広げていくような道をとるべきではないと考えている。

――今回のビジョンでは、PKOの参加五原則と武器使用基準を国際標準に合わせるとしている。民主党がその気になれば、どちらも簡単にできることではないか。

岡田  ただし、これには二つ条件がある。一つは考え方を明確にすること。単に必要だから、というのではダメだ。これまで憲法九条に反するとして制限していた武器 使用を認めるのならば、それだけの論理が必要になる。必要に任せてどんどん範囲を広げることは避けねばならない。九条の淵源は、かつて自衛の名のもとに侵 略戦争を進めたことにあると考えている。武器使用に関して国連決議を条件とすれば、自分の判断で自由に活動するわけではないので、九条の趣旨から見ても十 分成り立つことだろう。

もう一つの条件は、アジアの国々に説明し、理解を得ることだ。

――民主党の中では、党内の両極にいるはずの小沢氏と横路氏が覚書まで結んでいる、「国連待機部隊」構想がある。このビジョンでは触れられていないが。

岡田 党内で議論しているものであり、これについて代表である私が今決めつける必要もない。まもなく結論が出る話だ。

――どうも代表は積極的に推進すべきだとは思っていないのではないか。

岡田 待機部隊のあり方の問題になる。自衛隊の中につくり、事態にすぐに対応できるよう備えるためであれば合理性はある。だが、自衛隊と別組織にした場合、装備にも重なりが生じ、結果として無駄になるのではないか。いずれにせよ、本質的な議論ではないだろう。

国連を重視する理由

――日米同盟の範囲は東アジアに限定すべきだ、ということなのか。

岡田 従来そうだったのだ。たとえば「橋本・クリントン宣言」はアジア太平洋をその対象範囲にしている。小泉総理になって以来、「世界の中の日米同盟」という名のもと、議論もなく範囲を拡大してしまった。それをもう一度整理すべきだ。

――民主党の場合、小泉政権がアメリカに傾斜していることを強調するあまり、国連に対して比重を置きすぎているように思う。しかし、北朝鮮の核の問題や拉致問題など、いずれも国連で解決することはありえないだろう。

岡田 それでは北朝鮮の核の問題を日米同盟だけで解決できるかと言えば、そうではない。中国やロシアの力も必要になる。

――たしかに六ヵ国協議という仕組みは有効かもしれないが、問題は国連で解決できるかということだ。

岡田  私は核の問題を国連に持ち込む選択肢もあると思う。その場合は、ムチ(=制裁)を国連で、アメを六ヵ国協議あるいは二国間関係で振るうということになるだ ろう。もちろん、国連へ持ちこむことのリスクはある。中国やロシアが拒否権を握るということだ。だが、国連を利用できる際は、利用すべきだろう。

私は国連中心主義ではなく、国連重視だ。日本が海外において自分の判断で武力を行使することに抑制的であるべきだという立場に立つが、国連安保理という判断の場があれば、海外での武力行使に対する制約も解けるだろう。

――民主党は、イラク戦争は大量破壊兵器が見つかっていないから大義のない戦争だという立場か。

岡田 それは変わりない。

――イラク戦争の是非を考える場合、大量破壊兵器の有無だけでなく、湾岸戦争以来、イラクが国連決議をことごとく無視し、大量破壊兵器の開発・輸出の否定と 廃棄の証明を怠ったことが大きかった。その中でアメリカとフランスを中心としたヨーロッパが対立し、安保理で決裂した。国連で何か対応できる状況ではな かった。国連安保理が機能しないがゆえの米英連合による武力行使だったのではないか。

岡田  そもそもブッシュ政権はイラクに武力行使する前提があったのではないか。そして大量破壊兵器の存在が武力行使を正当化する大きな要素だったことも間違いな い。この有無について、米英以外の国々はもう少し確認するべきだと言っていた。それに国連決議を守らなければ武力行使が許されるというルールはないだろ う。

――それは国連決議の読み方の問題ではないか。

岡田 現にフランスや他の常任理事国があの決議ではそう読めない、新たな決議が必要だと主張していた。これは国連決議なく行ったに等しいのではないか。

こうして先制攻撃的に行ったことは、今までのルールから明らかに踏み外している。これでは国連ができる前、パリ不戦条約の前まで戻るような出来事だと思っている。

――常任理事国に拒否権があるため、大事な問題ほど合意が成立しないという問題があるのではないか。

岡田 私も国連が理想の国際機関だ、などと思っているわけではない。だが、冷戦終了後、重要な状況で拒否権が発動されたケースはないだろう。

――実際に発動されていなくても、発動されることがわかっていたから、イラク戦争でも英米中心に武力行使に踏み切ったということだろう。これは拒否権が発動されたのと実質的には同じことだ。

岡田 とはいえ、いつも拒否権が発動され、機能不全に陥っているわけではないだろう。一足飛びに国連否定論につながってはいけない。

今、少なくともアジアにおいては現実に国連に替わる組織は存在しない。海外での武力行使に関しては、やはり国連に正統性を求めるしかないと思う。

憲法に自衛隊・自衛権の明記を

――今回の外交ビジョンの実現に必要なインフラとして、外交安全保障担当の補佐官の配置や安全保障会議の拡充、そして情報機能の一元化などの方針が示されている。

岡田  これは外交を誰が中心に担うのかという問題だ。私は、外務大臣ではなく、総理自らが担うべきだと考えている。そのために必要とされるのが、補佐官配置、安 全保障会議の拡充、情報の一元化ということだ。今はそれらが整備されていないため、場当たり的な外交になってしまっている。

――情報機能の強化というと、歴史の歯車を戻すのか、というような声がいつも起きてしまう。

岡田  これは総理が外交のリーダーシップを握るために、官邸の機能を強化しようという観点からの政策だ。現在でも、たしかに各省庁は情報をもっているのだが、そ れが共有されていない。大きな問題が発生した際に、そういった情報をすべて官邸に集め、官邸で全体を見て判断できる仕組みが必要だ。

――外交における最も重要なインフラとして、憲法があるのではないか。このビジョンではまったく触れていないが、一〇年後を射程に入れると、憲法改正は不可 避だ。現在、憲法学者でも相当数が自衛隊を違憲であると見ている。安全保障の中核にある自衛隊がこういう状況でいいはずがない。憲法を改正したうえで、明 確な位置づけを与えたほうがいいのではないか。

岡田 このビジョンの実現に必要であれば、憲法改正すべきだ。具体的には集団的自衛権、集団安全保障をどう考えるかということと、自衛隊・自衛権を憲法に書くかということが問題になるだろう。

私は憲法に自衛隊・自衛権を明記すべきだと考えている。ただ、自衛隊を軍隊であるとは書くべきではない。自衛隊は普通の軍隊ではない。いろいろな制約を持った軍隊だ。日本には過去の歴史もあり、自衛権を無制限に認めるわけにはいかない。

――しかし、制約された自衛権というのは成り立つのか。そのときの政府の状況判断、政策判断に任せればよいのではないか。それこそもっと日本は自信を持つべきではないか。

岡田 そもそも集団的自衛権という概念は国連憲章においても非常に制約されている。国連の集団安全保障が発動する前段階のものとして位置づけられており、無制限に認められているわけではない。

――だがこの六〇年間、国連が集団安全保障を担う状況にはとてもなっていない。

岡田 湾岸戦争やPKOのような例もある。国連がよりよく機能するよう努力すべきで、国連が存在しないような前提で議論すべきではないだろう。

――このビジョンは民主党内で同意を得て推進できるだろうか。民主党には旧社会党の人もいるが。

岡田 それはちょっと言い古された表現だ(笑)。多様な意見があることは認めるが、もはや旧党派で単純に分けられる状況ではない。また、民主党にとって、極端な左派・右派を除いた国民の八割くらいが潜在的な支持者だと思っている。党内に多様な意見があるのは当然だ。

――西ドイツの社会民主党が大連立に参加し、非常事態法関連の憲法改正の実現に寄与したことで政権を獲得できたように、民主党も有事法制に賛成するなどして 安全保障政策において政権を担うに相応しい党であるとアピールしてきたと思う。今回の外交ビジョンもその一環だと見るが、政権交代につながる選挙がいつ あってもおかしくない。決意のほどはどうか。

岡田  今回のビジョンは私の考えが貫徹された、明確な方向性を持ったものになった。今後、この方向で党内をまとめていきたい。これは次の選挙におけるマニフェス トの総論部分にあたる。このビジョンのもと、政権を奪取して、東アジア共同体を創造し、より主体的に関与しあう日米同盟を構築する外交を展開したい。




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