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1991.09.19|国会会議録

121回 衆議院・沖縄及び北方問題に関する特別委員会

岡田(克)委員 私は、自民党の綿貫議員を団長とする自由民主党訪ソ団の一員として、九月五日からロシアを訪問してまいりました。ロシア共和国副大統領のルツコイ氏、あるいはその後日本に参りましたハズブラートフ・ロシア共和国最高会議議長代行、ポポフ・モスクワ市長を初め、数多くのロシア共和国政府の要人とじっくり意見交換をする機会を得たわけでございます。

そういう中で感じました第一は、ソ連共産党の七十四年間の支配に対する反省であります。ある高官は、共産党の支配はソ連の国家を収容所に変え、そしてソ連の国民を家畜のごとく扱った、こういうことを述べられたわけであります。他方で感じましたのは、新しいソ連あるいは新しいロシアをつくろうという国づくりの息吹であります。また、隣国日本に対する親近感あるいはその日本の経済力に対する強い期待感、そういったものをあわせ感じたわけでございます。そういう中で、北方領土を取り巻くいろいろな環境も好転をしてきたということを実感してまいりました。

先ほど、松浦議員の質問に対する御答弁で、外務省の北方領土問題に関する基本的認識については既にお聞きをしたところでありますけれども、この北方領土問題を解決していくに当たって、今なお基本的な障害というものが幾つか存在しているように思うわけであります。そういった問題について、どういう問題が具体的にあると認識しているのか、外務省の御見解をお伺いしたいと思います。

兵藤政府委員 北方領土問題解決におきまして最大の問題は、四島返還自体にまつわるいろいろな問題であることは委員御承知のとおりでございます。しかし、同時に私どもは、最近のソ連邦内の変化、あるいはロシア共和国あるいはこの場合には関係地域の動きを見ておりますと、ソ連の中におきますこの問題に関する世論という問題、これはっとに最近ソ連の要路の方々が指摘される問題でございますけれども、その問題も、ソ連政府あるいはロシア共和国政府にとってはますます重要な問題になってきているのだろうという認識を私は深くいたしております。私は、やはりソ連の国民あるいはロシア共和国の国民の正しい理解というものを得た上で判断していただくということが大変に重要な問題であるだろう、特に、最近のロシア共和国の中に見られます、いわばロシアナショナリズムの台頭というような潮流にかんがみましても、この問題に対する正しい理解を求めていくということがもう一つ大きな重要な課題であるだろうというように認識をいたしております。

岡田(克)委員 ただいま政府委員の方から御指摘をいただいたわけでありますけれども、私も、ソ連の国民あるいはロシア共和国の国民の感情、意識というものが非常に重要ではないか、こういうふうに思っている者の一人であります。幾ら学者を初めとする有識者あるいは政治家が北方領土問題を取り巻く歴史的な経緯とかあるいは国際法上の扱いについて理解をし、納得をしたとしても、個々のロシア共和国の国民あるいはソ連の国民がこの問題について納得をしない限りこの問題の解決は難しいのではないか、そういう認識を持っております。とりわけ、かつての共産党一党独裁の国家であり、情報操作も容易である、そういう国からまさしくクーデターの失敗という一つの歴史的な事件を経て、ロシア共和国あるいはソ連は国民の意思というものが強く反映をするという国になっているわけでございます。

そこで質問でありますけれども、それでは、そういったソ連の国民あるいはロシア共和国の国民のこの問題に対する理解は一体どういうものであるのか、お聞かせをいただきたいと思います。

兵藤政府委員 日ソ国交回復以来、この北方領土問題につきましては、日本におきます世論の活発なあるいは積極的な関心と裏腹に、ソ連におきましては、ほとんどソ連の大多数の国民が北方領土問題の実態を知らないという状態が長く続いてきたことは御承知のとおりでございます。しかしながら、ゴルバチョフ大統領のいわゆるグラスノスチ政策のもとでいろいろな問題がかなり自由に論じられるようになってきたその流れの中で、北方領土問題というものも次第に自由に議論をされ、論じられるようになってきた。その中でソ連側の、最初は学者グループでございましたか、ソ連の公式見解と異なるいろいろな見解が出てきたということも御承知のとおりでございます。かっては、日本政府の広報誌の中に北方領土の四島を含めた地図の入ったものを配っただけでもすぐに送り返されてきた、あるいは没収されたという時代が長く続いたわけでございますけれども、最近では情勢が一変したということでございます。

その中で、御高承のとおり、例えば三月十八日でございますか、サハリン州が行いました北方領土島民のこの問題に対する意識調査というものもございます。その結果によりますと、報道によりますれば、四人に一人は北方領土返還に肯定的であるという回答があったというようなことがあるわけでございますし、四月、これはゴルバチョフ大統領御訪日の直前でございましたが、主としてモスクワ市民に対して行われました意識調査では、二六%が返還に賛成であるという数字等があるわけでございます。この数字については評価は分かれるわけでございますけれども、既にこの時点で、返してもいいという明確な意思表示をするソ連国民あるいはサハリン州の島民がいるということは注目すべきことでございますが、私どもはこの問題について、委員御指摘のとおり、正しい理解、歴史的、法律的な理解を関係者あるいは国民に持っていただくということがぜひ必要だという認識をますます深めております。したがいまして、ロシア語の啓発資料等の作成も含めまして、ますますこの面での努力を加速化いたしたいというふうに考えているところでございます。

岡田(克)委員 外務省を中心として、この問題に関するロシア共和国の国民あるいはソ連の国民に対する直接的なPRといいますか、働きかけについてさらに力を入れていただきたいと思うわけでございます。

さて、ソ連の世論を味方につけるといいますか、日本に対して好意的な感情を持ってもらうためにも、ソ連国民にいろいろな局面で直接的に働きかけていくことが必要ではないかと思うわけでありますが、私が訪ソしました折に一つ要望として出ましたのが、ソ連の小中学校における日本語教育の問題であります。これは、ロシア共和国を初め幾つかの共和国で具体的に希望が出ているわけでありますけれども、この問題についての外務省の御見解といいますか、私は、ぜひ協力して、ロシア共和国あるいはソ連で日本語を勉強したいという小中学生がいるのであれば、それはどんどん日本の方で力をかして日本語が理解できる子供をつくっていく、ソ連人をつくっていく、このことが将来の日ソ関係に大きなプラスをもたらすと思うわけでありますけれども、この問題に対する現状と、今後についての外務省の御見解をお聞かせいただきたいと思います。

兵藤政府委員 委員御指摘のとおり、ソ連国民に対して北方領土問題の理解を求めるに際しましても、広い意味での日本に対する理解というものが不可欠である、そのための日本語教育の重要性は仰せのとおりでございます。私どももそういう認識でこれからいろいろな努力もしてまいりたいと思います。

現状を御報告申し上げますと、御承知のとおり、従来、ソ連の国内におきましては、日本語教育というものは少数精鋭主義と申しますか、特定の学校あるいは大学と直結した形での教育、具体的にはモスクワ、レニングラード、極東の三大学が中心となりました日本語教育、こういうシステムが展開されたわけでございますけれども、最近では日本語教育に対する関心がかなり高まってまいりました。それを受けまして、私どもも過去、大きなものでも三回、この問題についての調査団を派遣いたしております。第一回目は昨年十一片でございますが、モスクワ、レニングラードに日本語教育の現状を調査分析するための視察団を派遣する、また、ことしの一月でございますが、極東、具体的にはハバロフスク、ウラジオストク、ユジノサハリンスクに同様の調査団を派遣いたしたわけでございます。

さらに、私どもが今までやってまいりました具体的な努力といたしましては、国際交流基金から専門家を派遣するというようなこと、あるいは現在ウラジオストクの高校に教員一名を出したわけでございますが、こういう教師派遣というもの、あるいは日本語を教えている先生を日本に呼んでくるという日本語教師の招聰というもの、これは昨年度は七名でございましたけれども、今年度は十七名の先生を呼んでいきたいということを考えております。

さらに教材でございますが、日本語教育の教材が大変に不足をいたしております。そういうことで、私どもも日本語教材の寄贈ということを積極的に図ってまいりたいと思います。ことしは、モスクワ、レニングラード、極東地方六カ所を対象に日本語教材の寄贈を考えてまいりたいということを考えております。

さらに、国際交流基金におきましては、十一月でございますが、日本におきまして「ソ連・東欧における日本語教育の現状と課題」という題のもとにセミナーを開催して、この件についての専門家の方々の御意見をさらにいろいろちょうだいをいたしたいというふうに考えております。

岡田(克)委員 次の問題に移りたいと思います。

私がお会いをしたロシア共和国の幹部の一人がこういうふうに言っておりました。中長期的には市場メカニズムの導入とかあるいは政治の面での民主化、そういったいろいろな課題があるけれども、我々にとって今一番重要なことはこの冬をいかに乗り越えるか、この冬生存できるかどうかである、まずこういう話であります。飢えとそれからエネルギー不足に対する不安の深刻さというものを痛感したわけであります。そういう中でその幹部は、例えば予想しないような非常な寒さとか、そういった予想しがたい事態が起こった場合に、サミット諸国がいざというときに助けてくれるという保証が与えられていることが非常にありがたいんだ、そういう話でありました。

先ほど、既に松浦議員の質問の中でサミット諸国における検討状況についてはお聞かせをいただいたわけでありますが、特に日本に対して、子供用の児童食とかあるいは粉ミルクあるいは病人用の薬、そういったものに対する要望が出されたわけでありますけれども、この問題に関する外務省の御見解、できましたら外務大臣の御見解をお聞かせいただきたいと思います。

中山国務大臣 私ども日本政府あるいは日本国といたしましても、やってくる厳しいロシアの冬に対してできるだけの人道的な支援を行うという基本的な方針を持っております。G7の国ではそのようなことにつきましてもいろいろ協議が行われておりますけれども、我々隣国としては、できるだけのことをやるために九月の末に調査団を極東地域に派遣をいたし、食糧あるいは医薬品あるいは生活必需物資等どのようなものが現実に不足しているかということを調査をし、検討をいたしたい、このように考えております。いずれにいたしましても、大変な困難を抱えている状態の中で隣国としてはできるだけの協力をするというのが我々には必要なんだという認識を持っております。

岡田(克)委員 ありがとうございました。次に、この北方領土問題というものを考えていく際にどうしても避けて通れないのが、南樺太あるいは千島列島全体の帰属の問題ではないかと私は思います。これは、前回当委員会におきまして参考人をお呼びして議論をしたときにも私、癸言をさせていただいたわけでありますけれども、基本的な認識として、サンフランシスコ条約に署名をしていない以上、ソ連は、日本以外の諸外国に対して南樺太あるいは千島列島の地域に対する主権というものを主張できない立場にあるのではないかと私は思うわけでありますが、この認識についてお聞かせをいただきたいと思います。

柳井政府委員 お答え申し上げます。

ただいま御指摘のとおり、サンフランシスコ平和条約には南樺太、千島列島に関する規定があるわけでございますが、この二条C項におきましては、我が国は南樺太、千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄するというふうに規定されているわけでございます。この規定におきましては、ただいま申し上げましたように、我が国としては放棄すると言っているのみでございまして、それではだれのために、どの国のために放棄するというところまでは書いていないわけでございます。御指摘のとおり、この南樺太、千島列島の帰属の問題は未定のまま残されているということが言えると思います。したがいまして、この平和条約の当事国でないソ連といたしましては、我が国を含めましていかなる国に対しても、この条約に基づいてその領有権を主張するということはできないわけでございます。

このことは、サンフランシスコ平和条約の別の規定からも言えると思います。すなわち、この条約の第二十五条におきましては、この条約を締結しなかったいずれの国に対しましてもこの条約はいかなる権利、権原または利益を与えるものではないというふうに規定していることからも明らかであると言えると思います。

また、サンフランシスコ平和条約の主たる起草者でございました米国も、この条約は日本によって放棄された領土の主権帰属を決定しておらず、この問題は、サンフランシスコ会議で米国代表が述べたとおり、同条約とは別個の国際的解決手続に付せられるべきものとして残されているとの立場を明らかにしている、そういう経緯もございます。

以上のような次第でございまして、我が国はサンフランシスコ平和条約第二条C項によって南樺太及び千島列島を放棄しておりますので、これらの地域に対しまして発言する立場にはないと考えております。

なお、この条項に言う千島列島に北方四島が含まれていないということにつきましてはもう御承知のとおりでございます。

岡田(克)委員 この問題を議論するのはやや時期尚早であるというふうに私は認識しておりますけれども、将来、北方領土問題を解決するに当たっては、ソビエト側から見ると非常に重要な問題であるのではないか、こういうふうに思うわけであります。現にソビエトの学者その他からそういった発言も出ていると思うわけであります。先ほど局長の御答弁の中で、日本はもう既に放棄をしておってこの問題について発言をする立場にないという趣旨の御意見がありましたけれども、法律的にはおっしゃるとおりだとは思いますが、しかし、北方領土問題の解決に当たってソビエトの懸案を取り除いてやるということが日ソ間の関係に非常にいい影響を及ぼすのではないか、私はこういう気もするわけでございます。そういう意味で、当事者である日本が、特にこの問題はアメリカの問題であると私は思うわけでありますが、アメリカを中心とする各国とソビエトとの橋渡しをする、そういうことが将来的には非常に重要なことではないかと思うわけでありますけれども、この点についての御意見をお伺いしたいと思います。

兵藤政府委員 北方領土問題との関連におきまして、南樺太、千島列島の最終的な帰属問題というものは、当然のことながらソ連邦におきましても関心のある問題であることは委員御指摘のとおりであろうかと存じます。ソ連側の今までのこの問題に対するいろいろな表現の中に、国境線の画定あるいは領土画定というような表現が出てまいります。その国境線の画定という中にはあるいはそういう認識も背後にあろうかという気もするわけでございますが、いずれにいたしましても、この問題は、条約局長から答弁をいたしましたように、日本政府はこれを永久に放棄したという立場でございますけれども、最終的に平和条約が締結されるという段階ではこの問題についてもいろいろな議論が出てくるであろうということは、私どもも念頭に置いている問題でございます。そういう中で、またこの問題をどう取り扱っていくかということも検討されるべき課題だというふうに考えております。

岡田(克)委員 かつて東西ドイツの統一が成ったときに、その統一の半年前にはだれも東西ドイツがこんなに早く統一されるとは思わなかった。そして統一の一年後であれば、恐らくソ連の政治情勢が変わったことによって統一は不可能であっただろう、こういうふうに言われているわけであります。そういう中で、コール首相を初めとする西ドイツ側の政治家の決断というものが数少ないチャンスを物にして東西ドイツの統一につながっていったんだというふうに私は思っているわけでございます。そういう意味で、今我々の予想をはるかに越える速さで国際情勢は進んでいる。この中で、北方領土問題について後で、あのときが唯一のチャンスだったんだな、そういうことを言わずに済むようにしておくということが大事なことだと思います。もちろん、だからといって必要以上に焦ってもこの問題は解決できるということではありませんけれども、先ほど少し申し上げましたようないろいろな、今できる人道的な援助とかあるいは教育の問題とかあるいはソ連の国民に対する働きかけとか、そういうものを着実にこなしていくことによって、将来出てくるであろう数少ないチャンスを確実に物にしていくことが私は重要ではないかと思っているわけでございます。

きょうはどうも本当にありがとうございました。これで私の質問を終わります。




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