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第2章 テロとの闘いからイラク戦争へ
果たして大義ある戦争だったのかが問われたイラク戦争、そして、まだ事実上の戦闘が続くイラク。そこに自衛隊を派遣することの是非は、国民世論を二分する議論となった。
派遣慎重論の根底にあったのは、そもそもイラク戦争は間違いであり、国連憲章違反の疑いすら濃い、そこに日本は協力すべきでないとの思い。国連や多くの国々と米国が対立するなかで、どこまで米軍に協力するのかという疑問。そして、憲法9条の禁ずる海外における武力行使に該当し、戦後初めて戦争に参加することになるのではないかという疑念であった。
他方で派遣積極論者からは、民主化に向かっているイラクの復興支援になぜ協力しないのか、イラクは危険であり自衛隊以外に日本の支援は考えられない、自衛隊を派遣しなければ日米同盟が危機に陥る、などの批判がなされていた。
イラク人道復興支援特別措置法は平成15年7月に成立したが、私自身は、同法の審議に深くは関わっていない。この時期、私は民主党の幹事長として、自由党との合併交渉や党改革、そして衆参の国政選挙の準備に力を入れていた。国会論議は菅代表や枝野政調会長に任せていた。国会審議において民主党は、イラクはまだ全土が戦闘状況にあり、戦地に自衛隊を送ることは憲法違反になりかねない、そもそもイラク戦争を強引に始めた米国に協力する必要はない、などの理由で政府案を批判し、最終的に同法案に対し反対投票をしていた。
同年11月9日の総選挙においても、民主党はそのマニフェストに、①米国などのイラクへの武力行使は、国連憲章など国際法に違反するものであり、容認できない、②イラク特措法に基づく自衛隊の派遣は行わず、廃止を含め見直す、③医療・教育・経済分野等の人道・復興支援については積極的に取り組む、④イラク国民による政府が樹立され、その要請に基づき安保理決議がされた場合には、憲法の範囲内で自衛隊の活用も含めた支援に取り組む、と明記した。
イラクのへの自衛隊派遣は総選挙の争点の1つにはなった。民主党はイラクへの自衛隊派遣反対を訴え、各地で反対集会が開かれるなどした。しかし、率直に言って、世論全体が大きく盛り上がったとは感じなかった。
総選挙終了後の平成15年12月のイラク特別委員会で私は、小泉総理が選挙直後に「自衛隊のイラク派遣が国民に支持された」と述べたことについて疑問を呈した。総理の街頭演説は、大半が郵政民営化と道路公団民営化の問題で、イラクの問題はほとんど語られることはなかったからである。総理がイラクへの自衛隊派遣の問題を総選挙の争点にすることを避けたことは明白だった。
総理は「選挙の争点は1つだけじゃないんです」「内政、外交、政党の日常活動、候補者の日常活動、1つだけ争点になる、1つだけで判断するものじゃないんです」と逃げの答弁に終始した。
本来、イラクへの自衛隊派遣問題は総選挙の中心テーマの1つになるべき重要問題だったことは間違いない。小泉総理は巧みに争点化を避けたし、国民の関心も高くなかった。もちろん、民主党の訴える力が弱かったことの結果でもあった。国民にも、イラク戦争が終わった以上、イラク情勢も安定していくのではないかという期待感があったのかもしれない。それにしても、1つの争点だけで選挙するものでないと答弁した小泉総理が、2年後の総選挙では郵政民営化のみをテーマとして衆議院を解散した。いかに小泉総理の答弁に一貫性がなく場当たり的か、改めて驚かされる。
この日私は、自衛隊派遣はイラクの人道復興支援のためだと小泉総理が強調していることについて議論した。私は「イラクにおける自衛隊の活動は、人道復興支援活動だけでなく安全確保支援活動もある。この2つの活動はイラク特措法の目的のところで併記してある。一方のみ強調することはおかしい」と追及し、「安全確保支援活動の必要性について、今ここで国民に向かって述べてください」と求めた。
小泉総理は「人道復興支援活動をする地域においては、安全確保をしなきゃできないんです」「自衛隊は、安全確保活動しなきゃ隊員の皆さんも安心して活動できない、その点はよく御理解いただきたいと思います」と答弁。これらの答弁を聞く限り、「安全確保支援活動というのは、自衛隊の安全を確保するための活動である」と小泉総理が誤解していたことは確実である。自衛隊がイラクでどのような活動をするのかという、法律の根幹部分を総理が分かっていない。ただ驚くばかりだった。
安全確保支援活動とはイラクで活動する英米軍に対するもので、例えば、米軍の物資を自衛隊機C130が空輸するといった後方支援活動がその内容である。総理はイラク人への人道復興支援活動のみを強調し、米軍の後方支援活動も行っているという点を国民に説明しようとしてこなかった。それも本人が理解できていない以上、当然のことだったのかもしれない。
しかし、自衛隊は人道復興支援のためにイラクへ行くという説明は、その後も一貫して繰り返され、後方支援活動について言及されることはまずなかった。これではあまりにも一方的であり、国民に対し嘘を言っていることになりかねない。少なくとも、正直に事実を伝えてこなかったことは大きな問題である。
平成16年7月11日、参議院選挙の投開票が行われた。民主党は議席数、得票数のいずれも自民党を上回る、結党以来の大きな勝利を収めた。この参議院選挙において民主党は、サマワに展開する自衛隊はイラクの主権移譲を踏まえて撤退すべきだとマニフェストに掲げて主張していた。
8月2日、私は民主党代表として、本会議代表質問を行った。
実は参議院選挙の直前、6月17日に各党党首との会談が総理官邸で行われていた。その党首会談の中で、「将来、サマワで戦闘が行われないと言い切れるのか」との私の質問に対し、総理は「将来のことは分からない」と断言し、私を驚かせていた。イラク特措法違反になりかねない発言だったからである。
そもそも、なぜ「非戦闘地域」という概念がつくり出されたのか。かねて政府は、自衛隊が海外で武力行使することは憲法が禁じており、それは直接的な武力行使だけでなく、武力行使と一体となった活動も武力行使に含まれるとしていた。このことを実質的に担保するためにつくり出されたのが、非戦闘地域という概念だった。すなわち、将来にわたり戦闘行為がなされることがないと認められる地域においてしか自衛隊は活動できないとすることで、武力行使や武力行使と一体となった活動が行われる可能性を封じてきたのである。
私の疑問は、テロやゲリラ活動が頻発しているイラクにおいて非戦闘地域の線引きは困難ではないか、ということだった。憲法に関わる問題であるだけに、いい加減なごまかしは許されない。
この「サマワは非戦闘地域か」との私の質問に対して、総理は「これまでの情報とあわせて総合的に判断して、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる非戦闘地域の要件を満たしている」と答弁。あらかじめ質問内容が通告してあり、官僚が作成した答弁を読み上げるだけの本会議質疑特有の答弁だった。法律の定義を踏まえた答弁ではあったが、なぜ戦闘が将来も行われないと言い切れるのか、との私の質問に対する答えとしては、「これまでの情報とあわせて総合的に判断」としか答えていない。
政府内でも答弁作成にあたり相当議論したはずである。その結果として、この程度の答弁しか準備することができなかった。このことから、サマワへの派遣が政治主導で決められたため、官僚が法律の要件を満たしているか否かについて、はっきり答えることができなかったのだと予想できた。小泉総理の答弁を聞きながら、この点は今後徹底的に追及していこうと決意した。
政府内でも答弁作成にあたり相当議論したはずである。その結果として、この程度の答弁しか準備することができなかった。このことから、サマワへの派遣が政治主導で決められたため、官僚が法律の要件を満たしているか否かについて、はっきり答えることができなかったのだと予想できた。小泉総理の答弁を聞きながら、この点は今後徹底的に追及していこうと決意した。
小泉総理の答弁は「相手国、回数、人員などの詳細については、安全の確保や関係諸国との関係といった観点から、お答えは差し控えさせていただきます」と全く説明責任を果たしていなかった。結局、この安全確保支援活動、つまり、航空輸送機などを利用して米軍の物資や兵士を輸送する活動の実態について、最後まで国民に対する説明がなされることはなかったのである。
サマワの自衛隊が学校や道路を補修する姿はテレビや新聞で報じられ、自衛隊は頑張っている、よくやっているという印象を国民に与えてきた。しかし、米軍支援の姿がテレビで放映されることは、私の知る限りなかった。自衛隊派遣の支持を高めるために必要な映像は撮らせるが、都合の悪いことは国民の目に触れないようにするという、一種の報道規制が行われていたと言ったら言い過ぎだろうか。
民主党はじめ各野党が、この自衛隊による米軍の後方支援活動の問題点を何度も指摘しても、メディアが大きく取り上げることはほとんどなかったように思う。大使館の日本人外交官ですら、大使館外での活動はほとんどできない状況と聞いていた。メディア各社もバクダッドのホテルから出るのは困難を極めたはずである。そういう中で、日本政府の発するニュースに依存せざるを得ない状況があったのではないだろうか。一種のメディアの自主規制が行われていたのではないか、というのは私の考えすぎだろうか。
平成16年11月の党首討論で、改めて非戦闘地域の問題を取り上げた。先の本会議質問における総理答弁を聞いて、官僚側に十分な答弁が準備できていないだろう、すなわち、将来サマワで戦闘行為がないと言い切れる根拠を示すことはできないと予想しての質問だった。
岡田「サマワは非戦闘地域であるという、断言されたその根拠は何なんでしょうか」
総理「根拠をいえば、戦闘が行われていないこと。だからこそ非戦闘地域である」
与野党のヤジの応酬が激しくなってきた。
岡田「議論の前提としてイラク特措法における非戦闘地域の定義を言ってください」
総理「イラク特措法に関して言えと、法律上、いうことになればですね、自衛隊が活動している地域は非戦闘地域なんです」
岡田「私が申し上げたのは、イラク特措法における非戦闘地域の定義を言ってくれと言ったんです」
総理「定義は、それは文書を持ってくればすぐ言えますよ。(総理は後ろを振り返り、定義を書いた資料を持ってくるよう促すが、反応なし)党首討論ですから、考え方を言っているんです。私は、特措法というのは、自衛隊が活動する地域は非戦闘地域である、これがイラク特措法の趣旨なんです」
党首討論の議長役の北沢俊美委員長が「御静粛にお願いします」と2度繰り返すなか、委員会室は騒然となった。
岡田「非戦闘地域の定義は、現に戦闘行為が行われておらず、かつそこで実施される活動の期間を通じて、つまり1年間です、戦闘行為が行われることがないと認められる地域なんです。ですから、私が総理に聞いたのは、これから1年間サマワにおいて戦闘行為が行われないと、そういうふうに言う根拠は何ですかと聞いているわけです」
総理「それは、将来のことを100%見通すことはできません。非戦闘地域でなくなった場合には、(中略)撤退しなきゃならない」「将来、はっきり100%、いつどうなるかというのをこの際断言することはできません。しかし、はっきり申し上げますが、自衛隊が活動している地域は非戦闘地域、これがイラク特措法の趣旨なんです」
岡田「まともに議論する気がだんだんなくなっていくんですが。非戦闘地域を将来戦闘行為が行われることがないと認められる地域と法律上定義したのは政府ですよ。そしてこの定義は憲法上の疑義を招かないための定義でもある。しかし、いま、これから1年間戦闘行為が行われないという説明できなかったじゃないですか。そうであればこれ非戦闘地域と言えないんです」
以上が、小泉総理の代表的失言・迷言の1つとされる「自衛隊のいるところは非戦闘地域」のやりとりである。
実は小泉総理は、一部メディアが報じたように「自衛隊のいるところが非戦闘地域」とは言っていなかったのである。「非戦闘地域の定義は何か」という問いに対し、「自衛隊のいるところが非戦闘地域」と答弁したとすれば、これは一種のトートロジーになり、論理矛盾である。しかし、小泉総理は「自衛隊のいるところは」と答弁した。定義を聞かれているのに対し、その答えの内容が問題だったのではない。何も答えていないことが問題だったのである。
私は、小泉総理が非戦闘地域の定義を正確に言えないことを追及しても仕方がないと、その場で判断した。総理秘書官が定義を書いた答弁書を持ってくることは時間の問題であったし、従来の野党型の揚げ足取りと受け取られることも避けたいと思ったからである。
そして、私が本当に詰めたかったのは、非戦闘地域を「将来戦闘が行われることがないと認められる地域」と法律で定義しながら、その定義に該当することの説明ができていないことだった。これは非戦闘地域という概念が、憲法が禁じる「海外における武力行使」に該当しないために設けられたものであることを考えると、非常に大きな問題だった。
この党首討論のやり取りは、メディアに大きく取り上げられることになった。しかし、多くのメディアが注目したのは、「小泉総理がなぜサマワが非戦闘地域であるのか説明できなかったこと」ではなく、「自衛隊のいるところは非戦闘地域である」という答弁のほうだった。
そして、一部のメディアからは、私が小泉総理の失言を厳しく追及しなかったことを批判された。小泉総理が非戦闘地域の定義が分からず迷走しているときに、なぜ岡田代表は自分で非戦闘地域の定義を言ってしまったのかというわけである。
しかし私は、総理が非戦闘地域の定義を答えられないことよりも、非戦闘地域の定義に該当すると説明できないサマワに自衛隊を送っていることのほうが本質的な問題であると思っていた。いまもその思いは変わらない。
「政権準備党」である野党第一党の党首の質疑というのは難しい。厳しく追及すれば従来型野党と変わらないと言われ、内容に重点を置くと追及が甘いと言われる。民主党代表として国会質問をしていて常に考えさせられた問題である。
私としては、批判のための批判はしない、自分が総理ならこうするという考え方を必ず自分の中に持ったうえで質問する、という姿勢を貫いたつもりである。「やりすぎだ」、「甘い」と双方から批判の声が挙がるのは、ちょうどいいところなのではないかと割り切っていた。それにしても、メディアにも何が本質かということについてよく考えたうえでコメントしてもらいたいものである。
1週間後の11月17日にも党首討論があった。非戦闘地域論争はこの日も続いた。
総理「特措法についての定義上何かと伺われたから、自衛隊の活動している地域は非戦闘地域である、ということを述べたんです。これは、私は、答弁を読み直して、適切な答弁だなと今でも思っておりますよ」
岡田「総理は定義すら知らずに、どうしてサマワが非戦闘地域だと断言できるんですか。そういう無責任な姿が、私は全くおかしいと思いますよ」
総理「サマワは計画的、継続的、組織的な戦闘行為が行われていると判断していない、だから非戦闘地域である。近い将来もそういう状況になると思っていない」
岡田「12月14日に1年間特措法(に基づく自衛隊派遣)を延長すれば、サマワは、それから1年間戦闘が行われることがないと認められる地域でなければ非戦闘地域の定義に該当しなくなる」「自衛隊に対してサドル派の有力者は、自衛隊は占領軍であると言い、そして、現実に8回も砲撃を受けているじゃないですか。これから1年間、本当に戦闘行為が行われないのか、そのことに対してきちんとした見通しがなければ自衛隊は出せないはずです」
結局、総理から1年間戦闘行為が行われないと見通していることの根拠について、答弁はなかった。
11月25日にも、テロ特別委員会で、この非戦闘地域の問題について小泉総理と議論した。イラクへの自衛隊派遣の延長が12月14日に閣議決定されることを控えての総理との質疑だった。
私はサマワで1年間戦闘行為が行われないことの説明を再度求めた。これに対する小泉総理の答弁は、「今が平和であるから将来永遠に平和であるということをだれが断言できるんでしょうか」というものだった。
全くのすり替え答弁である。私は「1年間サマワにおいて、戦闘行為が行われることがないと認められなければ、非戦闘地域とは言えず、自衛隊は出せない、これは政府がつくった法律です」と再度質問した。
小泉総理は「それは、12月14日以降どうなるかというのは、12月14日が近づいた時点で判断いたします」「向こう1年間にわたってといったって、まだ決まっていないんですから。何で今、向こう1年間の様子を私がここで話す必要があるのか」と完全に開き直った。1年間戦闘行為が行われることがないことの説明を全面放棄して、自衛隊の派遣延長が正式に決まるまで答弁しないと述べたのである。
事態が大きく動いているときに、1年後のことまで見通すことはできないとの指摘がある。私もそのとおりだと思っている。イラク特措法は、そのような場合には自衛隊を出さないという考え方でできている。そしてそれは、武力行使や武力行使と一体化するような活動は憲法9条に抵触するとの日本国政府の憲法解釈に基づいているのである。
この間の小泉総理の答弁を聞いていて感じたのは、政府自身が作った法律に対する基本的理解が欠落しているということである。イラク特措法のポイントである非戦闘地域の定義も知らず、その背景にある憲法9条との関係をこの法律がどう整理しているかということにも関心がない。
結局、12月13日のイラク特別委員会で、細田博之官房長官、町村信孝外務大臣から、サマワを含めたムサンナ県の治安状況、外部からの犯罪者の侵入の可能性、自衛隊を占領軍と見なしていたサドル派の動向などについて、不十分ながら政府の考え方が示された。1年間、戦闘行為はないとの政府なりの具体的な見通しを示したのである。しかし、私にはとても納得できなかったし、そもそも、これは自衛隊の派遣延長を政府が閣議決定たあとのことだった。
自衛隊のイラクへの派遣論議の中で見えたものは、誠実に国民に対して説明しようとしない小泉総理、日本国政府の態度である。
まず、戦闘地域と非戦闘地域の峻別という大前提は机上の空論に近かった。
第1に、テロリストによるゲリラ的攻撃に対しては、非戦闘地域という概念は成り立たない。イラク全土で戦闘行為が行われる可能性があると言っても、決して言い過ぎではなかった。
第2に、いま大丈夫だから将来も安全とは言えなかった。戦闘行為はイラクの中部、スンニ派の勢力が強いところを中心に行われたが、スンニ派とシーア派との対立がサマワを含むシーア派支配地域で激化しない保証はなかった。総理が言ったように、1年後のことは誰も分からなかったのである。
こうして、できないことを無理してやろうとするために混乱が生じた。小泉総理の法律に対する無理解といい加減な答弁がそのことに拍車をかけた感があった。
次に、航空自衛隊の米軍に対する後方支援活動は、最後まではっきりしなかった。真面目な航空自衛隊幹部が、武装した米軍を運んだことを自ら明らかにしてしまったことを除くと、活動の実態はベールに包まれたままだった。米軍への支援を行っていることが強調されると、自衛隊自身の危険が増すのではないかという懸念もあってのことだったとは思う。
しかし、ことは憲法9条に関わる話である。イラクの自衛隊は人道復興支援活動のために行っていると小泉総理が繰り返したことは、現実の一面しか語っておらず、日本国総理大臣の国民に対する態度としてはあまりにも不誠実だった。
陸上自衛隊のサマワからの撤退後も、航空自衛隊の米軍に対する後方支援活動は引き続き行われることになった。小泉総理は、国連の要請に基づき、その活動を支援すると説明したが、詳細が語られることはなかった。しかし、イラクにおける国連の活動は限定的であり、中心は米軍の後方支援活動だったはずである。にもかかわらず、きちんと説明しなかった。
もちろん、自衛隊の皆さんは政府の命令に基づき、危険の大きい地域に派遣され、しっかりとその任務を果たした。そのことに対しては十分に敬意を表したいと思う。そして、現在も任務遂行中である航空自衛隊の皆さんが無事任務を終了され、帰国されることを心から願っている。
私が小泉総理の立場だったとしたら、イラク問題にどう対応しただろうか。実はこの問いかけは、イラク戦争開始以来、常に自問自答してきたことである。「政権準備党」として、単に批判だけをしているわけにはいかないと思い続けてきた。
米国のイラク攻撃については、私ならまず、大量破壊兵器があると判断したことの根拠や、アルカイダやビンラディンとイラクの関係を示す根拠を米国に求めたと思う。米国のアフガン攻撃に際して、9.11テロとアルカイダの関係、アルカイダとタリバンの関係を明らかにするよう、日本政府は米国政府に求めるべきだと私が国会で指摘をしたのと同じことである。
日本国総理大臣として、納得できる資料が示されなければ、戦争を始めることについて米国に自制を求め続けたと思う。非公開ではあっても納得できる資料が示された場合には、戦争開始にあたって懸念を表明しつつ、「米国の立場を理解する」と言った可能性はある。しかし、「米国の武力行使を支持する」と言うことは決してなかったはずである。
そして、自衛隊のイラク派遣は当面行わず、将来イラクの状況が安定し、国連もイラク国内で本格的に活動を再開した場合に本格的に検討するとの方針を明確にしたと思う。
ただし、イラクの警察官や教師、医師のトレーニングをヨルダン、クウェートで行うなど、イラク国外での人道復興支援活動には、より積極的に取り組み、そして、日米同盟という観点からは、ドイツが行ったように、国連安保理決議に基づきアフガニスタンに展開している多国籍軍に武力行使に至らない範囲内で自衛隊を協力させることや、その他の国々の平和維持と国づくりの支援のため、国連決議に基づき自衛隊を活用することを検討対象としたと思う。
いずれにせよ、いまだ戦闘が行われているイラクに自衛隊は派遣された。いままでの憲法解釈と整合性のある説明、武力行使に抑制的な日本のいままでの姿勢、中東の国々との中長期的な信頼関係、そういったことをほとんど無視して、ブッシュ政権の誤ったイラク戦争に追随したことは、明らかに誤った判断だったと確信している。
そもそも、イラクはこれからどうなるのだろうか。確かに2005年12月15日に国民議会選挙によって国会議員が選ばれ、今年5月には大統領、首相はじめ主要閣僚が選任された。民主的なイラク国家建設に向けて、少しずつ歩みを始めているようにも見える。
しかし、いまだ国内のテロが止まることはない。イラク人の死者は累計3万人前後、米兵も2500人以上が命を失った。米軍への憎悪と宗教間の根深い対立がその背景にある。米国が明確な根拠なく戦争を始めたことも問題だったが、戦争後の統治についてあまりにも準備不足だったことも大きな問題だった。平和なイラクの実現を心から期待したいが、その前途は決して楽観できる状況ではない。
国連も一時は開戦時のこだわりを捨てて、イラク復興に積極的に関与しようと努力した。しかし、事務総長特別代表のセルジオ・ヴィエイラ・デメロ氏の死亡などによりイラクから撤退し、いまだ形式的な関与にとどまっている。小泉総理は、国連がすべての加盟国にイラクの復興支援に努力するよう要請していると言うが、現実はかなり違う。多くの国々は、米国との対立が国際社会の分裂・亀裂を深めるとの危機感の中で、一致して国連決議を採択したが、国連からイラクに派遣されている職員の数は現時点でも約660人にとどまっている。
治安の回復と、それを踏まえた日本を含む国際社会の復興支援がなされるまでには、まだ時間がかかる。イラク戦争はイラク国民の意思によって行われたわけではないし、そもそもイラクという国家自体が、フランスや英国の中東植民地支配の中で生み出されたものであることを考えると、イラク国民にのみ国家再建の重荷を背負わせることは酷だろう。
しかし結局のところ、破綻した国家を建て直すことができるのは、その国の国民の決意と努力である。日本としては、イラク政府に対して経済的支援を行い、かつ必要に応じてイラク国外における様々な協力・支援活動を行うことで、イラク国民の国家建設の努力を後押しすることが当面なすべきことであると思う。
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