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カブール陥落6カ月―失敗を検証し、未来に生かす

 アフガニスタンの首都カブールが陥落し、タリバンに権力が移行して半年。この時の日本政府の対応は、大きな問題を残しました。邦人退避には成功したものの、大使館やJICAの現地職員とその家族、約500人を自衛隊機で救出することに失敗したのです。政府は自衛隊法84条の4(在外邦人等の輸送)の改正案を今国会に提出。重要な改正点は3点ですが、その内容は大きな問題はないと私は考えています。ただし、カブールからの退避作戦がなぜ失敗したのかの検証がなされ、それを踏まえたうえでなければ、それだけで十分かはわからないはずです。

 とくに8月15日のカブール陥落から8月23日の自衛隊派遣決定までの8日間、何をしていたのかをしっかりと検証する必要があります。当時の外務省中東アフリカ局長は、カブール国際空港の混乱収束状況の見極めや、退避実現の様々な手立てを検討したとしています。しかしもっと早く自衛隊機派遣を決定すべきでした。8月15日の時点で、民間機の運航は停止しており、かつ500人という規模を考えれば、他国の軍用機に期待することはあり得ないからです。また派遣が正式に決定されたのは8月23日でしたが、足の短い自衛隊機がカブール国際空港に到着したのは8月25日で、米軍の撤退期限8月末日まで数日しか残されていませんでした。正式派遣決定前であっても準備行為として周辺国まで派遣しておくことは可能でしたが、そのような措置が取られることはありませんでした。
 この間の政府内の検討状況はどうだったのか、明らかにされる必要があります。特に防衛大臣に対して自衛隊の派遣要請を行うのは外務大臣であり、外務省やJICA職員とその家族の生命と安全確保も外務大臣の責任です。また、総理官邸が司令塔としてどこまで機能したのかも明らかではありません。在アルジェリア邦人に対するテロ事件後に設けられた検証委員会の報告書では、海外での緊急事態に際し、官邸の司令塔機能の十分な発揮が肝要と指摘しています。8月15日当時、茂木外務大臣が中東訪問中だったこと、菅総理大臣は新型コロナウイルス対応と自民党総裁選挙への対応に追われる状況にあったことがどう影響したかも検証の必要があります。
 これらの検証と反省を踏まえたうえで、自衛隊法の改正を検討すべきです。私は例えば現在は閣議決定を根拠に認められている準備行為を自衛隊法の中に明文で位置付けることで、明確なルールのもとでより迅速な自衛隊の輸送が可能となると考えています。多人数の在外邦人や関係者の安全を守るための政府対応が必要となった時の、内閣官房の司令塔としての役割についても、法律上明確にしておくべきでしょう。
 
 なお、現在でもまだ出国できないでいる大使館・JICAの現地職員とその家族がいます。そしてアフガニスタンで活動してきた日本のNGOの現地スタッフや、日本の支援により日本に留学生として派遣され学んだ元学生が、危険を避けるために日本に向けて出国したいと強く要請しています。また幸いにも日本に入国できた人々も、多くは短期滞在しか認められておらず、就労や日本語習得のチャンスがありません。日本入国6カ月となるにもかかわらず、子供が学校で学ぶことも困難な状況です。彼らが安心して日本に長期間滞在し、自立して生活できるような受入体制を作ることが、日本政府に求められています。



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