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衆議院議長のアダムス方式の否定―論外であり直ちに撤回せよ

 細田衆議院議長が国勢調査に基づく衆議院議席の10増10減について、「頭で計算した数式で地方を減らし、都会を増やすだけが政治ではない」と批判しました。自民党の中にも10増10減について強く反発する声が挙がっているとの報道もあります。
 平成23年10月に一票の格差是正と定数削減を検討するために各党協議会を設置し、伊吹・大島両衆議院議長のもとで長期間の協議を重ねる中で、平成28年4月にようやく都道府県の議席配分方式として、1人別枠方式を廃止し、アダムス方式導入を定めた法律が成立した経緯を全く無視した議論です。私もこの間、野党第一党の責任者として一票の格差是正をめぐる与野党協議に深く関与してきました。10増10減を否定することは以下のように、与党そして国会の自己否定にも等しいことで、あり得ないことです。

 ①衆議院議長の下での与野党の合意形成を否定するものです。都道府県の議席配分方法として、アダムス方式を採用することになったのは、有識者によって構成される衆議院選挙制度調査会の答申によるものです。各党間の長期間の協議で成案を得ることができなかったため、調査会の答申を尊重することをあらかじめ各党が合意した上で設置されたものです。アダムス方式を一度も採用しないまま3増3減などを採用することになれば、答申の否定であり、大島議長のもとでの与野党協議、国会における合意形成を白紙化するものです。しかも現職の衆議院議長がその先頭に立っていることは国会の自己否定であり、今後に大きな禍根を残すことになります。
 ②改正法を成立させた与党の責任はどうなるのでしょうか。細田さんや一部の自民党議員が批判している改正法を提出したのは自民・公明両党であり、特に細田さんはその責任者として本会議における提案理由説明を行っています。今回の10増10減は令和2年の国勢調査の結果をこの改正法に当てはめた結果にすぎないのです。与党が自ら提出、成立させた改正法を一度も実施することなく批判し、法案提出の責任者がその批判を先導することなどあってはならないことです。
 ③最高裁判決をどう考えているのでしょうか。アダムス方式を採用しないということになると、各都道府県にまず一議席を配分し、残る議席を比例配分するという、一人別枠方式が残ることになります。これでは、一人別枠方式はもはや合理性が失われているとして同方式を廃止とする旨判示した平成23年の最高裁判決を無視することになります。細田さんの主張する3増3減ではこの最高裁判決をクリアーできないのです。

 以上のように細田さんの発言は極めて大きな問題があります。しかも一議員ではなく衆議院議長という立場にあることを、全く自覚していないと言わざるを得ません。6月までに選挙区画定審議会の勧告が出ることが法律に定められており、政府から勧告に基づく10増10減の区割り法案が提出されることになりますが、細田議長のもとで公正な議論が担保されるか疑問が残ります。細田議長は発言を直ちに撤回すべきです。そうでなければ衆議院議長を辞するべきです。

(今までの経緯)
平成23年3月   最高裁が一人別枠方式はもはや合理性が失われているとして同方式の廃止と投票価値の平等の
        要請にかなう立法措置を講ずる必要がある旨判決。
平成23年10月  一票の格差是正、定数削減を含む衆議院の選挙制度を議論するための各党協議会設置。
平成24年11月  党首討論における野田総理の一票の格差の違憲状態是正の提案を受け、自民・公明・民主の
        三党合意成立。
平成26年2月   与野党協議がすすまない中、野党5党実務者協議会が安倍総理の提起していた
        衆議院議長の下に第三者機関を設置することを求めることを決定。
    3月   与野党7党の選挙制度実務者協議で、第三者機関設置に合意。
    6月   衆議院選挙制度に関する調査会設置を議院運営委員会で決定。
        調査会答申を尊重することを各党が確認。
平成28年1月   同調査会が大島衆議院議長に概略以下の内容を答申。
        ①総定数を10人(小選挙区6、ブロック比例4)削減 ②都道府県への議席配分について、
        一人別枠方式を廃止し、アダムス方式で10年ごとの大規模国勢調査により見直す。
    3月   大島議長が自民・民主など各党に違憲状態の解消を求めて最高裁の要請と調査会答申の求めに
        応ずることが肝要との見解を文書で伝える。
    4月  いつの国勢調査からアダムス方式を適用すべきかについて、与野党の調整がまとまらず、平成22年
        とすべきとする民進党案と、平成32年とすべきとする自公案が国会に提出された。
        本会議審議を経て、倫選特委で議論され、自公案が5月20日に成立。同法は国勢調査速報値の公示後
        1年以内に、選挙区画定審議会の勧告を行うこととしている。
令和3年6月   令和2年(=平成32年)国勢調査速報値発表。
令和4年6月   法律に基づき、令和4年6月25日までに選挙区画定審議会の勧告が行われることとなる。 



コメント
  1. こむらじゅたろう より:

    無所属で中立であるべき議長が、国会で議論が始まる前に、法案の賛否を発言すべきではない。
    賛否同数の時に、どちらか一方に投票する権限があるのであって、それまでは野球やサッカーでいう審判であるべき!

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