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2003.03.14|マスコミ

イラク攻撃と日米同盟 岡田克也×山崎拓

――米国はこのままイラク攻撃に突き進みそうです。

山崎 米国は5日に新たな証拠を提示すると言っています。査察の継続と証拠の明示という2条件が満たされた後に、武力行使に至る可能性はかなり高いと思う。

岡田 非常に懸念しています。ブッシュ大統領は安保理決議がなくても同盟国を率いて武力行使すると言っている。その論理は「自衛権の発動」でしか説明できない。イラクが大量破壊兵器を持つことは国際社会の大変な脅威ですが、米国にとっての切迫した危険がないと、自衛権の発動では説明できない。

山崎 確かに新たな国連決議なしで武力行使に踏み切るなら、米政府には、米国に対して急迫不正の侵害が行われる可能性があるということの説明責任があります。

―米国は9・11後、極端な内向き志向になった印象があります。同盟国の日本はどう対応すべきですか。

岡田 米国には伝統的に単独行動の考えがある。世界には国連だけでは解決できない、米国に頼らざるをえない問題があるのも事実です。ただ、今回の先制攻撃という話は、国連を通じた平和維持という戦後の基本的な枠組みを根底から変えかねない。ブッシュ政権という個性を抜きには語れない。世界もそれは分かっているから、やや距離を置いておつきあいしている。でも日本は、何も言えないという印象を受けます。

山崎 冷戦後の安全保障の最大の課題は、大量破壊兵器がもたらす脅威への対処になった。そのリーダーシップをとる能力は米国に限られており、同盟国日本はその呼びかけに呼応するのか、待ったをかけるのかという選択を迫られる。ただ、日本は同盟国と言っても特殊な立場にある。集団的自衛権を行使しないという立場があるからです。

ドイツは日本と同じ歴史的経過があるが、集団的自衛権の行使は明言している。だから反対はしていても最終的に行動をともにする可能性はある。しかし、日本は仮に賛成しても、最終的に行動はともにしない。「もっとドイツのように発言しろ」とよく言われるが、その違いがある。

―でも、もう少しきちっとものを言ってもいいという気持ちが国民にはあります。

岡田 国家としてどういう考え方に立っているのかを、国民に対しても国際社会の中でも明確にしていくことは大事だと思うし、それで同盟関係が壊れるとは考えません。フランスは米国によく異を唱えるが、米仏関係がおかしくなるということはない。それに比べ、日米は同盟関係ではなく従属関係、言葉は適切ではないかもしれませんが、そんな印象になっている。

山崎 米国の属国的で、卑屈であるということは決してない。1週間ほど前にブッシュ大統領が小泉首相に電話をかけてきた。首相は、国際協調を旨として最終決断をすべきではないか、米国単独の、自己中心の決断をしないほうがいい、あくまで国際協調のもとでやるべきだと伝えた、と話していました。言うべきことは言っているわけです。

岡田 私にはそうは思えません。首相は最後はイエスと言う、そういう安心感をブッシュ大統領に与えている。例えば国連決議の1441。これがあれば新たな決議がなくても武力行使できるのか。欧州の多くは新たな決議がいると明確に言っているのに、日本はそう言ってませんよね。

山崎 それにはいくつかの理由があります。いまは大量破壊兵器の脅威を取り除くための行動の正当性を議論している。日本にとって、それは北朝鮮とも連動する問題です。重大な脅威であるなら、手段を選ばずに除去すべきだという議論さえあるでしょう。米国の武力行使の手を封じてしまった場合、脅威をどう取り除けるのか。そこで完全に手を封ずるわけにはいかないという判断も出てきます。

―実際に米国が攻撃に踏み切った場合、日本の国際貢献をめぐる湾岸以来の論議はまた新たな段階を迎えます

山崎 9・11後、テロ特措法を国会で通した時、日本の軍事面、ハード面での国際貢献について、内外の世論が変わりつつあると感じました。国際協調の枠の中でのわが国の国際貢献は、少しずつ質と量を高めていく必要がある。ただ超えてはならない

一線もある。今の憲法がある以上、憲法解釈の変更で集団的自衛権を行使すべきではない。

岡田 アフガンでの軍事行動の時は国連は反対しませんでしたし、テロ攻撃を受けた米国の自衛権の行使で説明できました。従って、自衛隊が後方支援することには合理性があると判断しました。しかし、今回のイラク攻撃はアメリカが単独で行動するのか、あるいは国連決議をへて国際協調のもとで行動するのか、で全く違ってくる。単独行動の場合、国際法上の位置づけが無理だと思うので支援は考えられない。むしろ日本政府は支持しないということをはっきりすべきです。明確な国連決議をへて行動する場合は、日本としての協力は当然考えなければならない。

―政府・与党は、仮に米国が国連決議なしで行動した場合、「支持」はできないが、「理解する」ですか。

山崎 その時の米国の説明にもよります。5日に米側が示す新証拠が重要で、それを見たうえで対応を検討することになるでしょう。

――もし国連決議を経て武力行使した場合、日本は後方支援をするのでしょうか。

山崎 テロ特措法に基づいて行動することはできない。新法ができるかというと政治状況からして無理だと思う。また、多くの専門家が作戦は非常に短期間に終わるだろうと予想していることからすると、武力行使の最中、戦時下において日本が後方支援をするのは困難だと思います。

岡田 国連決議が明確に認め、国際協調の中での武力行使であれば日本の支援は可能ですが、後方支援となると、自衛艦の派遣は間に合わないと思う。戦いが続いている間の日本の対応は、国連の機関を通じた人道的な支援に限定されるのではないか。

―米国が一国主義的な姿勢を強める中で、日米同盟はどう変転していくでしょう。

岡田 ブッシュ政権というやや特殊な存在を別にして言えば、国連の役割がさらに大きくなることを期待しますが、国連には拒否権の問題がある。アジア太平洋地域で新たな集団的安全保障の仕組みをつくる構想もぜひ実現したいが、その主役である米国と中国の両方が入らないといけない。少し時間をかけなきゃいけない問題だと思う。そう考えると、日米同盟の重要性はしばらく変わらないと思います。ただ、それには国民の理解が不可欠です。沖縄を中心とする余りに過剰な日本側の基地の負担、資金負担、もちろんそれは日本が集団的自衛権の行使はできないという前提の中で、それに代わるものとしてあるわけですが、もう少し負担を軽減していくことで国民的理解を求めていくことが大事です。

山崎 国連中心主義、日米同盟重視、アジア重視という日本外交の3原則は変えない。ただ、96年の日米安保共同宣言で注目すべき点は、日米同盟がカバーする範囲を極東からアジア太平洋地域に広げたことです。日本はASEAN地域フォーラム(ARF)を実質的なものにしていく行動を起こすべきです。日米だけでやるのではなく地域全体で話し合う。いま朝鮮半島問題にその萌芽(ほうが)がある。6者協議を平壌宣言で合意しており、国際的な枠組みの中で北朝鮮の核開発を封じ込めようとしている。それがARFを有効なものにする一つのステップだと考えています。 




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