トピックス

2002.01.01|マスコミ

平成14年新春政治座談会 「小泉政治と日本の針路」(上)

景気回復の道を明確に示せ

細川:国民と痛み分かち合う政治を

石破:小泉政策の中身説明が不十分

岡田:「改革」先送りで最悪の状況に

木下:生活の切迫感へ深刻に対処を

出席者

政治評論家 細川隆一郎氏

自民党政調副会長(衆議院議員)石破茂氏

民主党政調会長(衆議院議員)岡田克也氏

本紙主筆木下義昭(発言順)

(司会=早川一郎政治部長)

 「聖域なき構造改革」を訴える小泉純一郎政権の真価が今年は問われることになる。そこで、「小泉政治と日本の針路」のテーマで政治評論家の細川隆一郎氏、自民党政調副会長の石破茂衆議院議員、民主党政調会長の岡田克也衆議院議員、木下義昭本紙主筆が語り合った。  

――小泉政治をどのように評価しているか。

細川小泉さんは、従来の総理大臣とは異なり、物事をハッキリ言う。しかも、大統領制度ではないが、総理大臣としての自覚のある人だと思う。したがって、政策などについて、国民にハッキリと説明している。自分の考え方を国民に分かるように説明しているということは良い点だ。その政策の是非は、また論ずればいいことだが。

ただ、私には一、二の疑問がある。第一は、今の不景気をどうしてくれるのか、ということだ。これは、森内閣末期の内閣の大きな課題だった。そこで、自民党内でもいろいろな人がいろいろな政策を立案した。

当時の亀井静香政調会長は、何としても景気回復をしなければと、そのために財政出動もやむを得ないという考えだったと思う。そういうことを森首相に建言した。ところが、森さんは支持率が低くなって、退陣することが自分の使命だと考え、総裁を降りた。その後、総裁選挙で勝った小泉さんが総理大臣になった。小泉さんのものの考え方は、「構造改革が先。そのあとに付随して景気の回復ができるはずだ」という所論だった。

私は当時の亀井さんを中心とする景気回復の考え方に賛成だ。小泉さんの考え方は理屈としては分かるが景気は「どうなるのかなあ」と思っていた。

どうも最近は、例の特殊法人改革で、道路公団をどう民営化するか、民営化後の経営形態や高速道路整備計画の見直しは第三者機関を作ってやるということだから、あと四、五年先になるのではないか。それから政府系金融機関の民営化等についても、もう少し先になるだろう。そうすると、できるのは石油公団くらいではないか。

こう考えると、小泉さんに70数%の支持率があるのはおかしいと思う。だからと言って、30%くらいになればいいというのではないが。民衆は今、やはり明日、命があるのかという極度な不安感に陥っていると思う。これで景気回復ができるのかなという不安がある。小泉さんがすぐに代わったらいいという考えではないが、いくつかの疑問点を持ちながら、「小泉さんは本当に大丈夫かな」と思っている。

石破 高い支持率を今の内閣が頂いているのは、率直にいってありがたいことだと思っている。細川先生がおっしゃるように、総理のものをハッキリとおっしゃる姿勢も評価されていると思っている。

ただ外交にしても、安全保障にしても、経済にしても、スローガンは躍っていて歯切れもいいが、中身はいかがなものかという説明責任が、国民に対して十分に果たされていない。イメージだけで支持率が高いのではないか、ということを私たちは恐れている。

与党との間の意思疎通が、これほどできていない内閣は珍しい。「自民党が反対すればするほど支持率が上がる」とおっしゃる党の総裁も極めて珍しい。本来は、そうであってはならないのだと思っている。

経済問題、外交・安全保障、行政改革など、多様な意見が党内にある。そこのところの政府と党との調整をうまくやらないといけない。この国は議院内閣制で成り立っている。

そうでありながら、憲法改正もしていないのに、大統領制みたいな運用をするのはうまくないのではないか。

ただ、そこに齟齬(そご)はどこから生じたかというと、衆議院議員たちは、小渕内閣の積極財政を踏襲した森内閣の下で選ばれている。今年改選された参議院の方たちは、小泉政権で選ばれている。

自由民主党の総裁選挙は、国会議員の票はあったが、その票で決まる以前に、党員投票でほとんどが決してしまった。だから、今の党を構成している中に、それぞれ違った民意を代表するものが、自由民主党としてある。小泉さんは「おれは国民から選ばれたんだ」とおっしゃるし、私たちは「いや、森政権の政策を訴えて当選しました」と考えている。そこのかい離をどこかで埋めなければ、いつまでたっても離れるばかりだと思っている。じゃあ解散総選挙をやればそれでいいのかというと、小泉改革の中身が理解されていないままで解散総選挙をやれば、またムードだけで決まってしまう恐れがある。

岡田 小泉さんを国民の側から見ると、自民党の総裁として選んだというわけではなくて、「小泉」という個人を選んだという気持ちだろう。ある意味では、自民党的でないがゆえに選ばれたといえる。

党と政府との関係という議論もあるが、基本的には国民から見ると、「自分たちが選んだ総理だから、自民党の言うことは聞かなくて、自分たちの方を向いてやってくれればいい」という意識がある。また、小泉さんは、独特のキャラクターとその弁舌によって、高い支持率を維持している。

ただ、十二月になって、特殊法人改革などのいろいろな具体的な改革、つまり総論の段階から各論になってきて、国民は「ちょっと違うぞ」と感じ始めているのではと思う。

つまり総論では歯切れがよかったが、具体論になると、やはり自民党との妥協というか、そういうものが目立ってきた。党首討論で、鳩山さんを相手に歯切れ良く語った前日に、青木(幹雄)さんとか自民党守旧派といわれる人たちと会って道路公団について握手をしていた、ということに象徴されることが出てきつつある。

細川 もう一つ付け加えたい。いま失業者がどんどん増えている。毎日どうやって暮らしていこうかという国民がたくさんいる。そういう中で、小泉さんは十二月十日に、五百万円を超える期末手当を懐に入れた。あれはおかしいと思う。なぜ全額返さないのか。各大臣も議員も、私の率直な気持ちは、これを全部返却したらいい。いま、自殺者が増えているというような時は、しばらくこれはお返しするということをやってほしかった。この点、小泉さんは案外、のほほんとしていたと思う。

与野党真剣に「有事」議論を

細川:胸を張った政治姿勢を見せよ

石破:中国の動向から目を離せない

岡田:対米支援の範囲、大議論を

木下:韓半島問題への対処を早急に

木下 いまご指摘があったように、今年の高校生の卒業者の就職内定率は約半分になっていたり、中小企業の経営者の自殺率は非常に高まっている。昨年の自殺者は三万人以上になるのではないか。

国民は、極めて深刻な状況に入り込んでいる。一部の人たちが、小泉さんの個人の人気ということで、後押ししている面がある。やはり今年からは、普通の国民の目から見ても現実として生活が大変になってくる。

例えば、私立の高校や大学に行っているお子さんが中退してしまうといったことが現実に起きている。国会の中の与野党の議論はいろいろあるだろうが、今年からいっそう一般国民の生活が本当に大変になってくる。構造改革も景気対策も中途半端なもので、いったいこの国はどうなっていくのかという切迫感が、一気に身の回りから出てくると思う。それに対する深刻さというものが、今の小泉政権にないのではないか。

細川 小泉さんは「もうちょっと痛みを我慢してくれ」と言う。それはまさにそうだ。日本人は、歴史をずっと見ても我慢強い。そしておとなしい。「痛みを我慢してほしい」というなら、小泉さん自身が、国民が分かるような行動をとらなければならない。国民と一緒になって痛みを分かち合っていくことが、政治の基本に必要だ。それがどうかな。

平成十四(二〇〇二)年、今年の靖国神社参拝はどうするのか。いろんな議論があるだろうが、総理大臣として国民に約束したこと、先輩に約束したことは、その通りやればいい。そうではなくて、ふらふらしている。

それから、今年は日中国交樹立三十周年だが、日本人が日本人の先輩に対して礼を尽くすことに、他国が何を言おうがかまわない。それによって戦争が起こるようなことはない。それほど中国人はバカではない。国民の支持を受けて堂々と胸を張った政治姿勢を見せてほしい。これが私が年頭に当たって一番言いたいことだ。

岡田 「構造改革なくして景気回復なし」は、それ自体は正しいことだと思う。ただ、構造改革が進まないところに問題がある。道路公団をはじめ、すべて先送りになっている。そうすると、構造改革も進まないし景気も良くならないという、最悪の状況に今なりつつある。その意味で、きちっとやるべきことをやる必要がある。

景気の問題は、小泉首相だけを責めるのは、やや気の毒なところがある。金利政策もゼロまで行っており、ほとんどやることがない。財政もこれだけの財政赤字の中で、簡単に国債の増発はできない。こういった状況にだれがしたのかというと、やはり歴代政権の失政の結果だ。そういう意味で、そこを小泉総理だけに責任をとらせるのは、やや気の毒な気がする。過去の失政が問われるべきだ。 

細川 鈴木善幸内閣末期から始まったバブル。それを押し上げていったリーダーが、バブル経済の張本人だと思う。ただ、あの時の情勢は、世界の金融センターが日本にあるぞ、といろいろ気合の入っていた良い面があった。野党でいえば、羽田(孜)さん。

戦争に負けた時に、マッカーサーが来て、政界、財界等でパージをやった。そして、若手をどんどん起用していった。それで日本が再建されていった。 

石破 自民党という政権政党が、きちんと範を示していくことで国が変わるんだという気概を持たねばならない。かつて自民党におられた岡田政調会長も、自民党のケジメをつけない体質に見切りをつけられたのではないかと思っている。私もそういう時期があった。

今の経済の話に関して申し上げると、「構造改革なくして景気回復なし」というのは、正しいのかという議論がされなければならないと思っている。バブルの時は構造改革を全然しなかったけれども、景気は良かった。

問題はバブルを作ったことにあるというよりも、人為的に強制的にバブルを潰(つぶ)したところに一番責任があったと思う。アメリカみたいに、徐々に、注意深く、それを軟着陸させなければならなかったのに、急に潰してしまった。その責任は問わなければならない。

――米国で同時多発テロが起きて、国民は不安を感じている。今後、そうした国際情勢はどうなっていくのか、国民も大きな関心を持っている。その見通しも含めて、日本としてどう取り組んでいけばいいのかについて伺いたい。

岡田 同時多発テロによって世界が変わったという議論があるが、具体的に何を言っているのかよく分からない。当然予想できたことが起こったということだから。ただ、今回のことで、例えば米ロ、米中関係が、冷戦後の国際関係が、相当変わるということが、いま起こりつつあるのかなと思う。

しかしテロによって、ブッシュ米政権の一国主義のような考え方が変わったとはとても思えない。テロ自身によって、全く世界が変わってしまったという指摘は当たっていない。 

石破 東西冷戦構造がガッチリしていた時代は、それなりに抑止力があった。民族とか、文明とか、宗教とか、あるいは経済間格差とか、争いは違うところから起きる。対立の要素が、冷戦構造によってかなり抑えられていた。冷戦が終わったことによって、そういう対立の芽が当然のことのように顕在化したということだから、テロは予想された範囲内のことであると思っている。

ただ、サイバーとか、生物兵器とか、あるいは今回の飛行機がぶつかったこととか、何兆円もかけて軍備を整えている国に戦争を仕掛けることができる。サイバーはその典型だが、国家ではなく個人が、大国ではなくて小国が、頭と少しの道具さえあれば、大国に対して戦争が仕掛けられるようになったというのは、やはり大きな変化なのだろうと思う。

戦争か犯罪かという議論は、意外に奥の深い議論であって、こうしたテロに対する国際法の体系ができていない。だから抑止が利かない。これはかなり怖いことだと思っている。どうやって抑止を利かせるかということを、われわれは早急に考えていかなければならない。

基本的には、中国の動向から目を離せないと思っている。アジアが世界で最も不安定な地域になるということは、二十一世紀にさらに明らかになってくると思う。

日本としては、今回のテロ特措法によって、アメリカの同盟国としての位置付けはさらに確固たるものになった。これは小泉政権の大きな業績だと思っているが、これでやっと他の同盟国に追いついただけのこと。アメリカから言われてやるのではなくて、日本が国益を守る上で何をすべきかということを考えないといけない。やがて米国の国益に合致しなくなれば、日本は捨てられるということも十分あり得る時代だと思う。そのことは、ギリギリまで考えていきたいと思っている。 

岡田 私は、テロ特措法に関して言うと、総理のキーワードは「主体性」だった。それが試される場面がすぐ来るかもしれないと思っている。つまり、アメリカが、この後どういう行動に出るか。

例えば、アルカイダなりビンラディンと直接関係のあることがハッキリしない状況の中で、イラクとかスーダンをアメリカが攻撃するようになった時に、日本はどうするか。私は、国会質問の中で官房長官に対して、それを問題点として指摘したところ、「主体的に考える。NOという事もあり得る」と答弁した。防衛庁長官は 若干違っていたが。

ここは、日本として大変しんどい場面だが、米国の武力行使が正当な自衛権行使と言えないものなら後方支援を続けるわけにはいかない。 

石破 今の日本国憲法の解釈の範囲内で、主体的な外交ができるかという問題に今年は突き当たらざるを得ない。

木下 何かことが起きてから間に合わせ的に作るという体質は、もうなくしていただきたい。いろいろ事情はよく分かるが、何かあると有事法制が必要だと騒いで、平和が来たら忘れてしまう。その繰り返しだ。その点、石破さんは、憲法解釈を変えたらいいという考えをお持ちのようだが。いずれにしても、もう少し議論を先取りしてやっていくべきだ。タリバン・アフガン問題が終わっているように見受けられるが、実は、アメリカから見れば、イラクのサダム・フセインを何とかしたい。

スーダンの件もある。もっと言えば、今後は先月の「不審船」のように北朝鮮の件になってくる。これは、日本の安全保障にとっては、どうしようもない、避けては通れない危険な地域を抱えている。

韓(朝鮮)半島の安全に対して、日本はどういうふうな心構えをし、有事の際にはどのようにしてすぐ行動がとれるのか。こういったことについて、与野党を含めて真面目に議論しなければならないと私は思っている。何か起きたら、その何カ月後かにまた法律を作るということでは、国民は収まらないというように、特に今年からはそうなっていくと思う。

先ほども申したように、国民の中には経済悪化の状況もあり、日本にいること自体が危険な状況にあると考える者も出てくるようになるだろう。安全保障の面から見ても、特にこれから未来のある若者たちは「果たしてこの国にいていいのだろうか」と思い、海外移住の話が平気で行われていくようになる。そういう危機感が実際にあると思う。与野党には、きちんと真面目に議論していただきたい。 

岡田 今回のテロ特措法は、具体的なテロ事件が起きたから初めて誕生したと思うが、一般論としてなかなか法律というのができないと思う。問題提起があったとすれば、武力行使さえしなければ、自衛隊がどこへでも行けるということが法律で形になった。これから、アメリカが広くアジア太平洋地域において、第七艦隊に対して日本の後方支援を求めてくることがあるかもしれない。それに対して、日本がそれをどこまで支援するのか、ということをあらかじめ議論しておいた方がいい。そこは大議論があっていい。




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