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2000.12.01|マスコミ

「豊かさの中の不安」に答える

アジェンダ持続可能な福祉社会へ

「豊かさの中の不安」 に答える

対論・自民vs.民主 社会保障の設計図

先が見えない。少子高齢化の中で国民の多くが、 国の社会保障制度の将来に不安を抱いている。 政治はどんなビジョンを示せるのか。その答えを描く与野党のキーマン二人が、論争する。(司会・梶本 章・朝日新聞くらし編集部記者)

岡田克也 民主党政調会長

おかだ かつや 1953年生まれ。東京大学卒。通産省を経て、90年に衆院初当選。衆院厚生委員会理事、新進党副幹事長。民主党に合流後、党ネクストキャビネット(次の内閣)財政・金融担当相などを歴任。

丹羽雄哉 前厚相

にわ ゆうや 1944年生まれ。慶応義塾大学卒。読売新聞記者を経て、79年に衆院初当選。厚生政務次官、衆院社会労働委員長を歴任。宮沢、小渕、森の各内閣で厚相。現在、自民党医療基本問題調査会長。

社会保障の再構築

「軸」となるのは 「年金」

――少子高齢化が進み、高齢者に対する社会保障費もどんどん増え、「このままで大丈夫か」というのが国民全体の空気だと思います。まず、社会保障制度をどう再構築しようというのか、基本的なお考えを聞かせてください。

丹羽 一言で申しますと、私どもは年金、医療、介護という社会保障の中で、その軸となるのは何といっても年金だと思います。年金に対する不安、不満をきち んと解消しないと、高齢者の医療制度とか次のステージの問題に入っていけない。  まず基礎年金(国民年金)の国庫負担の割合を現在の「三分の一」から「二分の一」にできるだけ早く引き上げていく。そして年金の水準は現役の六割を確保 するということを明確に打ち出していくことが何よりも大切ではないかと思っています。  それから、お年寄りの医療費が現在、国民医療費三十兆円のうちの三分の一、十兆円と言われてますが、これがやがて二分の一になっていく。老人医療のあり 方がいま大変緊急な課題となっているわけですので、安定した財源措置と医療費の伸びを抑えるための対策を取っていく必要があります。

岡田 社会保障制度に対する将来不安は、大きく言って二つあると思います。一つは、今の財政赤字の大きさから見て財政そのものが破綻するんじゃないか、そ ういう中で社会保障の歳出が大幅にカットされていくんじゃないかという不安ですね。もう一つは、社会保障制度そのものが持続可能なのかという議論です。  この議論をする時に、いま丹羽さんがおっしゃった年金と高齢者医療の問題がポイントになるという認識は同じです。具体的には、我々は速やかに基礎年金の 国庫負担を二分の一にする。そして二〇〇四年からは、全額を税でまかなうということを主張しているわけです。全額税ですから、全員がそれだけの基礎年金を 収入として持つことになります。それを前提にして介護や高齢者医療の制度というのを組み立てていくことで、より幅の広い議論が可能になる。高齢者医療は、 基本的に医療の効率化という観点をきちっと踏まえたうえで議論しなければいけないだろうと思っています。

世代間の公平

高齢者は 「弱者」ではない

――最近の傾向として高齢者にも負担をしてもらおうという動きがかなり出てきています。首相の私的諮問機関の「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」の報告書もそうですが、どう思いますか。

岡田 基本的に、高齢者だから弱い立場にあるとは考えていません。もちろん病気になりやすいとか、要介護状態になりやすいという事実は当然のことですが、 高齢者だから一概に所得が少ないとか、資産がないとか、そういう前提に立つ必要はないし、現実にもそうは言えないわけですね。  そういう意味で所得に応じた負担ということは当然だと思います。介護でも高齢者医療でもそうですが、「定率の負担」が全体の仕組みを効率化する。結局、 自ら負担をしないことでいろんなむだが発生する。それを抑制していくための手段としての定率負担ということは必要なことだと思っています。ただ、そうは 言っても、高齢者の場合には現役世代と比べてかなり所得のばらつきがあることも事実なんで、所得の低い層に対してどういう手当てをしていくかという問題は 残るわけですね。

丹羽 高齢者一人当たりの貯蓄や所得は、決して若年世代に比べて遜色がないということは、国民生活基礎調査などでは明らかになっています。さきほど申し上 げた高齢者医療費十兆円のうち、高齢者が負担をしているのは、自己負担の〇・八兆円、保険料の〇・八兆円、合わせて一兆六千億円にとどまっておるわけで、 残りのほとんどが若い人たちのツケに回ってきているということです。  ですから、これからは若い人と同じような所得水準の方については、保険料や患者負担を求めていかなければならないし、今後は高齢者の持っている資産につ いて生活のために活用してもらうことを講じるような制度も検討する必要があるのではないかと思っています。

――社会保障を維持するには?負担を増やす?給付を減らす?担い手を増やす、という三つしかないと思いますが、どこに力点を置きますか。

丹羽 まず最後の支え手を増やすということですが、社会保障のあり方いかんにかかわらず、これは取り組んでいかなければならない問題だろうと思います。合 計特殊出生率が一九四七年は四・五四だった。いま一・三四でして、このままだと、百年後にはいま一億二千六百万人の日本人が半分になるという驚くべき推計 も出されています。  それから、負担を増やす、給付をカットするという二者択一の問題ではないと思います。例えば年金で言えば、この間の制度改正で、現行の一七・三五%の保 険料率を、最終的には二七・八%に引き上げるにとどめ、給付のほうは総額を二割削るけれども現役世代の所得の六割を確保する改正を行ったわけです。

岡田 担い手を増やすというのは、給付削減か負担増かという二者択一になりがちな中で、非常に重要な視点だと思います。とくに「高齢者」と分類される方で も、働く意欲と体力のある方には働いていただく、むしろ担い手になっていただくというところは、もっともっと政策的な努力が必要な部分だと思います。  そのうえで、「負担は減らし、給付の削減はしません」なんて無責任な議論はすべきではありませんが、医療に関しては、キーワードは効率化だと思います。 まだまだ、いろいろなむだがある。それを効率化していくことで、水準としては落とさずに給付の額を減らすことは、十分に可能だと思います。

――社会保障の議論で最近よく話題にのぼるのが、「世代間の公平」というテーマです。世代間の助け合いの面と、若い人が関心をもつ損得論の面と、どちらを重視していますか。

丹羽 両方大切ですね。確かに社会保障は、世代間の連帯が大切なことは言うまでもありません。これなくしてわが国の社会保障は成り立ちません。しかし、現 実問題として若年世代の不満も率直に受け止めるような設計に組み立てていかないと、長期的に成り立っていかない。  それから、例えばお年寄りが老人ホームに入っていて、一生懸命貯金していたとかいうようなことが指摘されています。これは老人ホームだけではなく、さま ざまな福祉施設は大体そうなんですけど、そこの中で生活が全部まかなわれている。しかし、年金もある。施設に入っている方々に対する年金のあり方、こうい う問題も国民の皆さん方に理解を得ながらメスを入れていかなければならないと思っています。

岡田 世代間であまりにも負担と給付の関係がアンバランスだということになると、これは世代間の連帯だということではすみませんね。むしろ、大前提として 基本的に不公平感がない制度でなければ長持ちしません。例えば、いま話が出た年金の場合、世代間で大きなばらつきが出ていることについては、それはやはり 変えていくべきだと思います。

社会保障の財源

「税」か 「保険料」か

――ここまでのお二人の話は共通する点も多いけれど、社会保障の財源に関しては主張が違いますね。自民党の中でもいろんな意見があるようですが。

丹羽 社会保障をめぐって、野党第一党の民主党と私ども与党第一党の自民党との間の一番大きな隔たりは、税方式か社会保険方式かという財源問題です。  昨年秋の自自公連立合意の時、私自身が政調会長代理として立ち会いましたが、とくに自由党が税方式を強く主張し、基礎年金の国庫負担を二分の一に引き上 げることまでは三党で一致しました。その後については思考停止と言いますか、玉虫色で表現しました。  正直申し上げて、この問題で自民党の中は社会保険方式という考え方が圧倒的です。私のように「基礎年金の国庫負担の割合を早く二分の一にしないと大変な ことになる」という認識を持つ人はまだまだ少数です。公明党さんのように三分の二ということを言っている方もいらっしゃいますが、そうなると、もう著しく 税方式に近づいてしまう。

――税方式だと何が問題になりますか。

丹羽 私は厚生大臣の時も、この問題について国会の中でいろいろ議論をしましたけれども、要するに、生活保護的な色彩が大変強くなるということです。給付 の対象者も、所得制限で限定されてしまうのではないか。これまでわが国が築いてきた国民皆年金とか皆保険、こういう制度を台なしにしてしまうのではないか という問題があります。現実問題として、平成九年度の社会保障収入の九十兆円のうち、六割の五十四兆八千億円が保険料収入なんですね。これを租税に切り替 えるということは、どだいむずかしい問題だと思います。  それから、例えば高齢というだけで年金を公費で支給することになれば、過去に働いて税金や保険料の負担をしたかどうかを問わないんですから、これはか えって不公平であって、モラルハザードそのものになってしまうのではないか。  社会保険方式といっても、わが国の場合はドイツのように公費を入れないというものではないので、ある意味で社会保険方式と税方式との折衷型です。これは 長年築いてきた大変いい知恵であって、社会保障の安定という意味からも欠かせないと思っています。

――民主党は、年金は税方式、医療、介護は保険方式と使い分けをしていらっしゃるようですね。

岡田 ここは丹羽さんと僕は違いますし、党としても違います。社会保険方式は、保険料を負担する母集団が限定されていることが大前提ですね。もし日本国民 全体が入る社会保険なら、これは目的税である税と機能的には全く一緒になります。きちんと保険料を負担する人が限定されていて、その負担した人たちのリス クを分散する制度であるという本当の意味での社会保険制度であれば、これは価値のあることだと思います。  ところが、日本の場合には、純粋の社会保険じゃないんですね。一つは、税とミックスされているということで、社会保険の「保険の原理」が貫かれていな い。 もう一つは、保険料を負担していない人に対する給付が混ざってる。私はこちらのほうがより大きい本質的な問題だと思います。例えば健康保険で保険料を負担 しているのに、それが自分たちとは関係のない高齢者のために流用されて使われている。これはもうその時点で保険というものを逸脱しているわけです。  私は今の制度は税方式、保険方式のいいとこ取りじゃなくて、悪いとこ取りになっていると思います。社会保険方式のいいところは、制度が自立的に、効率的 に運用されるということですが、そこが非常に損なわれている。ですから、きちっと分けて、基本的に社会保険でやるものは自立的に、給付の対象もその母集団 を超えることなくやっていくという制度に再構築すべきだと思っています。

――「折衷型」にするのは大人の知恵ではないというわけですね。

岡田 そのことによって、保険料や税を負担する立場から見て制度が非常にわかりにくくなっている。何かブラックボックスに入ってしまって、給付がぽんと出 てくる。そういう状況ですから、責任もなかなか負えなくなってくるというのがいまの姿です。自立的な市民、住民が積極的に責任をもって運営に参加していく ためには、もっとシンプルな制度にしたほうがいいと思います。

丹羽 岡田さんの話を聞いていると、基礎年金については負担と給付という概念を否定なさっている。全部税でやりなさい、と。それから、医療や介護は税と保険のミックスでよいとなると、原則が一貫しないのではないですか。

岡田 ルールが明確であれば、いいわけです。先ほど言ったように、現役世代の払っている保険料を高齢者医療に使うということ、これが一番まずいわけです ね。そういうものはなくしていく。いまの介護保険とか高齢者医療を税で全部まかなうのかと言えば、私はそういう考え方を取りませんし、社会保険で全部できるかというと、現実にそれだけの 負担能力はありませんから、そこに税と保険のミックスという部分は残ります。残りますが、可能なものはきちんと仕分けをしていく。そういう意味で、基礎年 金は全部税でやるべきだし、現役世代の医療保険については、基本的には保険料で自立的にまかなうということです。

消費税の位置づけ

社会保障の 「目的税」にすべきか

――社会保障の財源に関してはもう一つ、消費税を目的税にして充てるべきかどうかという議論がずいぶん前からありますが、どう考えますか。

丹羽 平成十二年度で基礎年金が十四兆円、老人医療が九兆円、介護が四兆円、合計二十七兆円なんですね。消費税、まあ現行制度のままでいきますと、一%分 の税収が一兆八千億円と言われています。全部消費税でまかなうとなると、税率は一五%必要になるということですから、これは現実的じゃないですね。私は、個人的な考えですが、かねてから消費税は年金に絞ったらどうかという考え方を持っているんです。年金は、国民がすべて等しく享受できる。非常に透 明性があるということで、国民から納得してもらえるのではないか。ところが、医療や介護の費用は、診療報酬とか介護報酬のあり方や、むだがないかどうかによって変わり、それで消費税が上がったりする。そういうことは、 なかなか国民は理解できないでしょう。

――民主党の鳩山由紀夫代表は「消費税で年金をまかなう」と言ってますが、総選挙でもそこがどうもはっきりしませんでした。

岡田 党としての立場を申し上げると、いま決めていることは、基礎年金を全額税でまかなうということと、その財源について、これまで国庫で負担してきた 「三分の一」部分は一般財源、これから新たに税でまかなう「三分の二」の部分については消費税を目的税化して充てるということです。それ以上でもそれ以下 でもない。つまり、消費税収を全部年金のために使うとか、そういうことを言っているわけではないんですね。

――その「目的税」は特別会計にして使途を限定するのですか。

岡田 消費税収の一定部分を特別会計に直入するというような考え方もできると思います。わが党でまだ基礎年金の全額を消費税でまかなうというところまで割 り切れないのは、そうすると費用がいまの消費税率五%を飛び越えちゃうものですから。それは消費税を引き上げるという議論とセットになってしまいますの で、そこまではまだ議論が割り切れていないということです。将来的には、基礎年金については全額消費税でまかなうべきだと思います。

――政府は予算総則に消費税を社会保障に使うと書いていますが、あれは「年金だけでなく財政再建やいろんなことに使う」ということですね。

丹羽 そうです。何と言っても財政再建という大変な命題がありますから、それを否定するわけじゃないんですね。しかし、財政論を当然考えていかなければな らないけれども、私は年金に対するすごい危機意識があるんですよ。社会保障の不安を解消するには、まず一日も早く基礎年金の国庫負担を三分の一から二分の 一に引き上げないといけない。正直言って、とても二〇〇四年まで待てないという気持ちです。  今度の有識者会議の結論を見て、そういうところを明確にメッセージとして出していないので、逆に不安を助長することになったのじゃないか。なんのための 有識者会議だと思っているんです。

――しかし、有識者会議は丹羽さんが大臣の時に作ったのではないですか。

丹羽 私は「真の豊かな老後のための有識者会議をつくろう」と言い、官邸でやることになった。それはそれで大変結構なんですが、一番大事なことは、老後に 対する豊かさの中の不安にどう答えていくか。まさに介護保険が導入されて、国民の皆さん方にも負担もお願いをするんだから、その分、私どももしっかりセー フティーネットとしてやりますよというメッセージを発することに、私の狙いがあったんですよ。  ところが現実問題として、どちらかというと、財政主導のものになってしまった。これからもう一回、当然、私どものレベルで十分にこれを国民の皆さん方の 期待にこたえられるように、メッセージをきちんと示す必要があるんじゃないかと思っています。

年金の水準

維持できるか 「現役の6割」

――次は各論に移ります。まず、年金ですが、その水準についてお聞きします。政府与党は現役の所得水準の六割を保障しようというわけですが、民主党はもっと手厚くしたいのではないですか。

岡田 いや、我々は基礎年金の国庫負担をすぐに二分の一に上げて、二〇〇四年からは全額税方式にしろと言っているわけです。スピードが非常に大事だと。そ のうえで、じゃあ、その年金の水準をどうすべきかというところは、正直いって、まだ議論が収斂してません。いま程度でいい、いやもう少し上げるべきじゃないかという両論あります。しかし、上げれば上げるほどそのために必要な消費税の税率も上がるわけですから。ここがまだ数字として出せていないということは 率直に申し上げなきゃいけないと思います。それから例えば厚生年金全体を考えると、「二階建て」の部分はやはり小さくしていくということだろうと思います。基礎年金が少し上がれば、その分は少な くともへこみますし、あるいはそれ以上に小さくしていく。そしてあとは民間の部分にまかせていく。私は二階部分は全部民営化しろとか、そういう議論を取り ませんけれども、しかし、将来的に持続可能な公的年金制度という観点からみると、二階建て部分を縮小すべきだと考えています。

――年金全体の水準はやはり六割程度と考えているわけですか。

岡田全体の六割という水準も、それで本当に持続可能なのかどうか。

――もう少し下げないといけないということですか。

岡田そこの見極めの問題ですよね。

――上げるよりも下げなきゃいけないという考えですか。

岡田個人的にはね。下げないとやっていけないんじゃないかという気持ちをもっています。

――でも、党内には「上げろ」という声のほうが強いんじゃないですか。

岡田ですから私、話が非常にしにくいなと思っています(笑い)。まあ、それで本当に持続可能ならばと思いますが、なかなか。いろんな甘い前提をおけば数 字の上では出てきますけれども、本当にどうなんだろうかと。二〇二五年、あるいは二〇五〇年ぐらいまで見通せるような制度設計をすべきじゃないかと、個人的にはそう思っています。

丹羽大変正直な率直な方でありますが(笑い)。実際問題、率直に申し上げて、この六割という水準を維持していくということは大変厳しいことなんですが、しかし、私はこれを死守しないといけないと思います。そのためにも国庫負担を引き上げていく。そういうことによって、結局、年金制度が安定してくるという 考え方に立つんですけどね。

岡田僕はちょっと違うんですね。若い人が負担できる限度、それがどのへんにあるかということを念頭において議論をしていく必要がある。給付の額ももちろん大事ですけれども、負担がどこまでできるかというその二つで決まってくるわけなので、そこは両様見ていかないと、将来的には持続可能でない制度になってしまうのではないかと。

丹羽だからまさに財政論を優先させるのか、あるいはセーフティーネットとしての社会保障の機能を優先的に考えるのか、こういう問題に収斂されてくるんですよ。私は両方大事だと思うんです。ただ、市場原理最優先のいまの世で、ややもするとセーフティーネットとしての社会保障がだんだん小さくなってきている んじゃないか、こういう感じがします。汗を流した者が報われる政治というものは当然で、これからも自立責任を求めていかなければなりません。しかし、同時に、汗を流しても報われない人もい る、それから汗を流したくても汗を流せない人もいる。こういう方々に対してもきちんと保障するということがまさに政治であって、財政論だけでやっていくということはいかがかな。私どもと民主党というのは、ちょっと立場が逆転しているのか、我々が非常に温情主義なのかわからないんですが、決して私どもはかつての社会党のような考 え方じゃない。しかし、すべて市場にまかせておけばいい、それに乗り遅れた人間はだめよと突き放すことは、私は適当でないと思います。だから民主党さんのようにドライに割り切って、片一方だけは全部生活保護的に、年寄りになったらいくらでもあげますよということではなくて、負担と給付 を基本に社会保険方式を貫きながら、いかにクッション的な役割としての社会保障を考えていくかということのほうが、現実的ではないかなと思っています。大変失礼な言い方かもしれないけれども、基礎年金にしても、いまの国庫負担部分は一般歳出で充てて、その上積みの部分は消費税で、などということは非常 に技術的な問題であって、わかりにくいと思う。国庫負担を二分の一に引き上げた場合、消費税を引き上げることも景気がよくなればやむを得ないでしょう。しかし、財源論ばかりずうっとやっていて、国庫負担をいつまでも上げないということになると、年金に対する不信感がますます強まってくるんじゃないですか。二〇〇四年になって、じゃあ、この財源問題の決着がつくかというと、つかない。しかし、そんなことをやっていたら年金制度は「タイタニック号」じゃないけれども、もう氷山にぶつかって沈没することはだれでも分かっていることです よ。はっきり言って、もう氷は見えているんですから。だから一刻も早くやるべきだというのが私の考え方なんですね。

岡田 財政論とセーフティーネットという話が出ましたが、私は財政の論理で言っているのじゃなくて、将来にわたって持続可能かどうかという視点で申し上げているわけです。セーフティーネットが張られていても、実際落ちてみたら穴が開いていて床に激突したというのでは意味がないわけですから。

国庫負担引き上げ

年金のためなら 消費税率アップは可能

――基礎年金の国庫負担引き上げの財源について、

丹羽さんはどう確保しようというのですか。

丹羽私は消費税の引き上げは必要だが、それができなくても、厚生年金の積立金から必要な財源を借用すればやれると言っています。景気がよくなれば、「こういうことで百四十兆円の保険料積立金から二兆四千億円ほど切り崩しました。しかし、景気が回復したので年金のために消費税をご負担願えないでしょうか」と言って返せばいい。他のことでは消費税を上げることはできないですよ。年金だけだと思うんですよ。

岡田積立金を取り崩すというのは究極のモラルハザードですよね。これはまさしく将来、人口構成が変わったときのためのお金なんですね。もしこれをいま 使ってしまうということになれば、まさしく人口構成のドラスチックな変化を全部若い世代が負担する、こういう姿になってしまう。借りて本当に返すのならいいですが。最近の政治の状況を見ていると、本当にそうなるのかどうか、疑問です。民主党のなかでもいろいろな意見はありますけ れども、私は基本的に積立金に手をつけるということは間違いだと思います。そしてもう一つ、じゃあ、税方式にしたときに消費税をどうするんだということなんですが、私は、そのときには保険料は下がるわけですから、そのことをきちんと説明して、その分、消費税を上乗せするということは、それはその時になればしなきゃいけないことなんだろうと思います。

――民主党として年金は税方式でいく、財源はこうする、と二つをセットにして公約にしたほうが説得力をもつのではないですか。

岡田 それが本来の姿だろうと思います。個人的にはそういうふうに言っている議員も多いと思います。ただ、いまそれを言うと、そこだけをとらえられて、選 挙で自民党から「民主党は消費税引き上げを考えている」とキャンペーンを張られかねない。新進党時代に実際にそういうことがありましたから、慎重なものの言い方になっている。日本のいまの民主主義の未熟さを示すものだと言われればその通りですけれども、飛んで火に入るなんとかということにならないように気 をつけている部分もあります。

――国民はみんな将来を不安に思っていて、むしろ負担をきちっと打ち出したほうがアピールするんじゃないでしょうか。

岡田 ここで話がややこしいのは、我々は「五年間は増税しない」ということも言っているわけです。その増税という意味は、ネットでの増税という意味です ね。今回の話は、形の上で消費税は増税になりますが、その分、保険料は安くなっているから、プラスマイナス・ゼロなんですね。しかし、増税だと混同してと らえられるというか、キャンペーンを張られるということについて非常に慎重に判断しているんです。

――丹羽さんは年金制度の現状を「タイタニック号」に例えましたが、三月の年金法改正で、タイタニック号になる危険は一応脱したはずではないのですか。

丹羽 ですから出生率の推計が早くも見込みからはずれているし、保険料が上げられない状態とか、失業率とか、いまのままで行きますと、またタイタニック号 のような非常に深刻な状態になるという危機意識を持っている。だから、あえて党内の風当たりが強いのも顧みず申し上げているということですね。

――年金の「二階建て」部分について、積み立て方式にして民営化したらいいとか、いろんな意見がありますが、そこはどう考えますか。

岡田 大きな経済変動のリスクを民間の保険でどこまでカバーできるかという問題でもあるんですね。民間の力は、三階建て以上のところで活用していけばいいと思います。

丹羽 完全な積み立て方式というのは世代間の給付と負担の関係が等しくなりますが、一方でインフレに対応できないので、老後の設計というのは立ちにくいということですね。

岡田 児童年金というのはどうなんですか。こういう話が与党から出てくること自体が非常に信じがたいんですが、年金は年金としてシンプルにしておいたほうがいいと思うんです。

丹羽 それは全く同じで、いまそんな余裕はとてもないですよ。

――児童年金に熱心な公明党のほうは大丈夫ですか、それで。

丹羽 いやいや、それは。(笑い)

医療保険

抜本改革をどう進めるか

――次に医療保険のほうですが、老人医療が非常に高くなってきて、それをみんなで支えている。

岡田さんも「制度が不透明だ」とおっしゃいますが、ではどうしたらいいのかをお聞きします。

岡田 非常にわかりやすくいえば、日本医師会と自民党の関係をきちっとするということだと思います(笑い)。結局、前回の健保法の改正のときに「二〇〇〇 年までに抜本改革をやる」ということを政府は明確に約束されたんですね。それが先送りになった。単に先送りになったんじゃなくて、本当に次ができるのか、 というところについても非常に不透明ですね。

丹羽 介護保険がスタートするにあたって、世紀の大事業ですから、「大変な混乱が起きるんじゃないか。お年寄りの負担もお願いしなければならないのに、同 時に医療改革をやるのは適当じゃない、現実的じゃない」ということをずうっと私は申し上げてきた。だから何も医師会の圧力とかなんかじゃなくて、現実的な 問題として先送りしたのです。高齢者医療制度の改革はやるわ、介護保険はやるわでは、一度にどっと津波が押し寄せるようで、一番困るのは国民なんですか ら。そういう観点から、もともと私は当初「二〇〇三年ならいいんじゃないか」ということを申し上げたんですが、民主党をはじめ、野党の皆さんが「早くやれ」というので、「二〇〇二年をめどにして、高齢者の医療制度の問題の立ち上げができるように努力します」と、厚生大臣の時に答えてきたわけです。その点をぜ ひご理解いただきたい。

岡田 それはちょっと理解できませんね。(笑い)

丹羽 もう一点は、今国会に健保法改正案と医療法の改正案を提出したんです。とくに健保法改正案は上限つきではありますが、定率制の導入を図るものです。 私は党内やいろんな関係団体からもご叱責を浴びながら、もう五年前から「定率制」「定率制」と言ってきたが、ようやく日の目を見る。上限つきではあっても、定率制が導入されたのは、改革の第一歩だと思うんですね。これは負担増を伴う部分もあるわけですから、

岡田さんがおっしゃる医師会からいえば反対なはずなんですよ。

岡田 問題は抜本改革のほうで、これが一向に実現しない。どんどん先延ばしになっているということは、この間の財政の負担にも影響していますし、これだけ はっきり約束しながらやらなかったというのは、非常に珍しいことだと思うんですね。はたして、じゃあ、いまから何年か経ったらできるんだろうかということ も含めて、非常に不安に思っています。

丹羽 抜本改革というのは四つあるんですね。医療提供体制、薬価、診療報酬、もう一つがいま議論をしている高齢者の医療制度の確立。医療提供体制では例え ばカルテなども、条件付きでありますけれども、初めて公開することが打ち出された。薬価にしても、縮小する方向を打ち出してもう現にやってますし、診療報 酬では慢性的な症状については定額払い、急性的なものは出来高払いということで、一歩一歩進んできているんですよ。だから何をもって「何もしていない」と おっしゃるのか。

岡田 なんとなく泥棒が開き直ったような感じで聞いていました(笑い)。例えば薬価について言えば、制度そのものの見直しが全くできていない。それからカ ルテの話をおっしゃいましたが、厚生省の審議会のなかでは、法制化ということが出されたはずですね。それが今回、見送られたわけで、政府が言っていること すら実現できていないのが現実の姿です。そのできていない背景に医師会の存在があると思います。

丹羽 現実問題として医療に関係しているのは、医師会だけでなく、歯科医師会もあれば薬剤師会もある。それから健保連もあるし、連合や製薬メーカーとさま ざまな関係団体がある。当然のことながら、関係団体や国民の声を聞きながら、若干の時間をかけて一歩一歩やっていくことは、これはやむを得ないのではない でしょうか。

岡田 結局、どっちの方向を向いて議論するかということだと思うんですね。医療保険制度というのは、確かに補助金や税金ではありませんが、しかし、税金も 入っていますし、保険料も強制徴収ですから税金と同じですね。本来、補助金を得ている企業・団体というのは政治献金できないですね。しかし、医師会が日本 医師連盟という形で自民党に莫大な献金をしている。その一つ取っても、私はやはりこれは異常だと。だからそこをもう少しきちんと正したうえで国民のほうを 向いた議論をすべきだ、あえてそう申し上げたいと思います。

高齢者医療

だれがどこまで負担するか

――その医師会が最近、七十五歳以上のグループに対して九割を税で、残り一割を高齢者の負担でみましょうという案を作りましたね。民主党は各保険者ごとに それぞれのOBの面倒を見ようという「突き抜け方式」を考えているようですが、医師会案をどう評価しますか。

岡田 若干困るんですけれども(笑い)。困るという意味は、民主党の基本的な議論は「突き抜け方式」でほぼ集約されつつあります。でも、医師会の提案につ いて、私は個人的には見るべきものがあると思っています。七十五歳以下は税金の投入は基本的にやめて、自立的な保険方式としてやっていく。七十五歳以上に ついては税を中心に、これに若干の高齢者の負担を組み合わせてやっていくという医師会の案は十分傾聴に値すると思います。

――自民党の評価はどうですか。

丹羽 医師会の案については、十分に検討をする必要があると思いますね。私は基本的には社会保障はいかなる場合であっても、給付と負担という社会保険方式 というのが原則であって、これを貫くべきだという考え方を持っています。これは個人的な意見ですが、基本的にはやはり独立方式で、高齢者からも保険料を個 人単位でいただく。年金も介護も国庫負担は五割ですから、高齢者の医療制度も五割は公費でみる。しかし、それでも足りませんから、やはり若年世代からの支 援というものはお願いをしなければならないと思いますね。

岡田あと、医療問題で「効率化」というキーワードを申し上げたんですが、これはもう世の中の常識として、ものを買えば必ず詳細のレシートをもらいます。 当たり前のことが行われていないわけですから、私は明細書を出すということとカルテの開示を法制化すべきだと思っています。それからもう一つは、やはり健 康保険組合を中心に保険者の機能を高め、医師会との対抗力をもっと発揮できるようにすべきです。

スタートした介護保険

高齢者の保険料の減免は制度の趣旨に反する

――介護保険制度が四月からスタートしましたけれども、その半年間の評価と、市町村の保険料減免の動きについてのお考えを聞かせてください。

丹羽いままでどちらかというと、お年寄りの介護というものは、社会の片隅に置かれていたきらいがある。これを真正面から取り上げて、どうあるべきかとい うことを国民が議論をしながら、この制度の運営を進めているということについては、私は大変画期的なことだと思っています。現にサービスの利用者も二〇% 以上増加しておりますし、サービスそのものに対して九割の方が満足だというデータもあるわけですから、まずは順調な船出をしたと思っています。いまここにきて高齢者の保険料の減免問題が出てきていますけれども、これはやはりみんなで支え合おうということが基本ですから、一般財源から捻出してや るということは、みんなで支え合うという趣旨から反するし、国保の二の舞いになりかねないと思っております。それぞれの市町村がいろいろ工夫することは結 構だと思いますが、基本的にはみんなで支え合っていただくということでスタートしたものの理念を揺るがしてはならない。

岡田スタートとして我々が非常に懸念した「保険あってサービスなし」という事態が現実に起きたということは事実だと思うんです。そういう意味で必ずしも準備万端でなかったということは事実だと思いますが、これだけ大きな制度ですから、多少の混乱が起こることはやむを得ない。スタートした制度ですから、や はりある程度動かしてみて、そのなかでどうしても問題があれば手直しをしていく。そういう考え方に立つべきだと思います。民主党はすでに当面の改革案を提 案しています。保険料の減免というか、すべて市町村の負担で行うなら、それは一つの考え方だと思いますが、

丹羽さんがおっしゃるような保険の理念になじまない部分が出てきますし、慎重に考えていかなければならない問題だと思っています。自民党の亀井静香政調会長が保険料の見直しを言っていますが、端的にいえば、参議院選挙を前にしてまた言い出したな、と理解をしています。

――将来、利用率がもっと上がり、利用者も増えると、保険料が上がる仕組みになっているんですよね。そうすると、亀井さんが言っている問題も五年、十年先には出てくるのではないですか。

岡田 五年、十年のスパンでいえば、我々は、二〇〇四年から基礎年金を全額税で、ということを言っているわけです。ある程度の収入はあるという前提で考えますから、そういう問題は解消できるとみています。

丹羽 始まったばかりですから、いまこの時期に現場が混乱するようなことは行うべきじゃない。ただ、介護保険は施行後五年以内に見直しとなっていますから、二、三年、運営の実態を見るというのが私は一番現実的だと思いますね。

政治の役割

政党の「対立軸」としてビジョン示す

――最後に、政治の役割についてお聞きします。どうも政党が社会保障の具体像を示していないんじゃないかという印象が強いんですが。

丹羽 問題は財源なんですね。不要になった公共事業をカットすることは言うまでもなく、地方分権を財政面からも進めるために国の補助事業を地方単独事業に切り替えるとか、その分の地方の税収を増やさなければならないので、国税については所得税の課税最低限の引き下げや年金控除の見直しによって課税ベースを 広げた上で税率を引き下げるとか、資産課税のあり方を見直すとか、こういう財政構造改革のなかで財源をきちんと捻出したうえで、国民の皆さん方が老後を安心して過ごせるような、責任あるビジョンを示す必要があると考えています。

――丹羽さんの意気込みは分かりますが、自民党全体としてはまだ社会保障の負担を示そうというところまで熟していないように見えます。

丹羽 率直に申し上げて、社会保障に対する認識について、党内でまだいろいろ温度差があります。しかし、私はこれまで社会保障を中心に政治活動を行ってきた者の一人として、財政改革、財政再建の問題と、社会保障をどうするかという問題は車の両輪だと思っています。

――来年の参議院選挙では、収支決算の数字の入った公約が示されると期待してよろしいですか。

丹羽そうですね。やはり具体的なものじゃないとだめですね。

――給付と負担のあり方という問題は、民主党と自民党の対立軸になっていくのでしょうか。

丹羽私はいま岡田さんの話を聞いていて対立軸になってくると思いますね。どうも民主党さんは、小さな政府じゃなくて、むしろ税方式でやるということで大きな政府を考えているようですね。私どもはあくまでも小さな政府を目指しながら、その中でセーフティーネットとして社会保障をどう位置づけていくかという観点ですね。

岡田政府の裁量の余地が大きい、制度が複雑だ、というのも大きな政府の一つの形態と言えます。保険の部分は負担と受益の関係がきちんと対応する制度にして、出るところは思い切って税方式でやる。そういう形にすれば、行政の関与の余地は減るわけですから、シンプルな政府になります。ここは非常に大事なところだと思っているんです。それに国民負担率はどの程度がいいのか。五〇%を超えていくと、やはり活力がなくなってきます。この数字が低いと社会保障が薄いかというと、それは政府 がやる部分が相対的に薄いということであって、民間の保険制度を利用してプラスアルファのサービスを受けることができるわけですから、政府がどこまでやることがいいのかという議論の立て方をすべきだと思います。対立軸になるとすれば、我々は現役世代に、より軸足を置いている。自民党のほうは高齢者のほうに軸足を置いている。そういう違いは将来出てくるのかもしれません。あとは、医師会とかそういうところの利害をある程度代弁してやっていく自民党と、保険料を支払う立場、あるいは医療を受ける立場ということに軸足を置いていく民主党、そういう違いは今後ますます出てくるのかなと思いますね。

――世界を見ると自立自助の米国型、重い負担と手厚い給付の北欧型が両極のイメージとして浮かびますが、日本
の将来像としてどのへんを目指しますか。

丹羽私は、中福祉・中負担だと思いますね。アメリカの医療分野では四千万人も無保険者がいることが大変大きな社会問題になっている。一方、スウェーデンでは、あまりに社会保障負担率が高すぎるということで民営化の波が押し寄せてきている。それぞれの国がむしろ日本と近いような形になりつつある。

岡田やはりアメリカ型になることはなじまない、それから北欧も行き過ぎだと思います。その中間にあるという意味では中福祉・中負担なのかもしれませんが、そこは非常に幅が広いわけです。結局、政権を取っている政党がどこまで決意してやるかという問題です。別に大蔵省が政権をもっているわけではありませんから。




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