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活動レポート 岡田かつやの活動の記録

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第4章 自己目的化した民営化論議

2)最後まで噛み合わなかった郵政民営化論議

郵政民営化は小泉総理にとって、いや、政治家・小泉純一郎にとって最大の課題であり、いわば悲願だった。

このことに私が改めて気付いたのは、小泉総理誕生のときだった。民主党の政調会長として、小泉さんのいままでの発言や著書などを徹底的に調べてみて驚いた。30年近く自民党代議士をやっていたにもかかわらず、その発言の圧倒的部分は郵政民営化に関するもので、その他は教育や社会保障に関するものが若干ある程度。総理大臣を目指す政治家にしては、いかにも偏りがあるなという印象とともに、改めて郵政民営化に対する小泉さんの思い入れの強さを感じた。

郵政民営化がなぜ必要なのか、その最大の理由は350兆円の巨額の郵貯・簡保マネーの存在にある。本来、民間で活用されるべき資金が官に集められ、官で使われている、そして、そこに様々な非効率があることが問題の本質である。

戦後の復興期から高度経済成長期において、日本経済は貯蓄過剰の状況にあり、民間投資の不足を補うために政府が民間から資金を集め、民間に代わって投資する仕組みが必要とされた。政府の側も、リスクの高い投資や回収に時間を要する社会資本投資などを民間に代わって行う必要があった。時代は民間の資本貯蓄が十分でなく、かつ早急に産業インフラの整備を求めていたのである。このために郵便貯金で国民の小口資金を集め、財政投融資資金として特殊法人などに供給する仕組みが考えられた。その際、国の資金運用部特別会計を通すことで、郵貯マネーは実質的に元利保証された。

この結果、何のリスクも負うことなく資金運用できることとなり、どんどん郵貯資金が肥大化した。簡保資金については自主運用が認められていたが、基本構造は変わらなかった。他方で、特殊法人は豊富な資金を背景に事業規模をどんどん拡大し、採算の取れない事業や融資の不良債権化が懸念される事態になった。他方で、民間で出来る事業を官が行っているとの批判も高まった。いままでの仕組みを大きく変える必要が出てきたのである。

その際、資金を集める郵貯・簡保に、より問題があるとする考え方と、それを使う特殊法人の改革を重視すべきとの議論があり、郵政民営化論は前者の立場に立つものだった。

ただし、平成13年の財投改革によって、基本構造が大きく変わったことは忘れてはならない。すなわち、特殊法人などの財投機関は、財投債、財投機関債によって資金調達することとなったのである。

財投債は国債と同じく国の信用で発行する債券であり、財投債で資金調達している限りは、特殊法人の改革にはつながらない。しかし、財投機関債はその財投機関の信用で発行する債券であり、市中から資金調達する仕組みに大きく改められた。仮に当初予定されていたように、財投機関の資金調達が財投機関債を中心に厳格になされれば、採算の取れない事業は財投機関債の市中消化が不可能となって、事実上出来ないことになったはずである。他方で郵貯・簡保マネーは、財投機関に直接利用されない以上、自主運用せざるを得ず、逆に言うと、市中で運用可能な範囲でしか集めることが出来なくなるはずだった。つまり、平成13年の財投改革は、市場原理に基づく特殊法人の改革と郵貯・簡保の規模縮小を同時に達成できる可能性があったのである。

しかし、現実には財投機関債の発行は限られたものとなり、国が発行する財投債(国債)に安易に依存する仕組みは変わらなかった。この結果、市場原理を活用した財投機関の活動規模縮小にはつながらなかった。他方で、その財投債を郵政公社が購入することで、郵貯・簡保マネーが引き続き活用され続けた。財投改革の実質骨抜きが、小泉政権下で見事になされていたのである。しかし、郵貯マネーが直接に財投機関に流れ込むという仕組み自体は大きく変わっていたのである。

ここで、今一つ注意が必要なのは、いままでの議論はあくまで郵便貯金事業と簡易保険事業に関するものであり、郵便事業そのものの民営化に関するものではなかったということである。

郵便事業そのものを完全に民営化するという議論はなかったわけではないが、多くの困難が指摘されてきた。つまり、完全に民間に任せたときに、全国どこでも同一料金で郵便物が届くユニバーサルサービスが維持できるのか、また、裁判所が訴訟書類を関係者に送る特別送達などの公的役割はどうなるのかといった問題である。したがって、郵便事業については、すべて民営化するのではなく、民間の参入を認めることで競争を促進することが望ましいというのが一般的な考えだった。

ただし、郵政3事業は一体で地域の郵便局が担っており、民営化を選択する場合にこれを切り離して、例えば郵貯・簡保のみ民営化するということが現実に可能かという問題は残った。

こういった複雑な問題であるとの認識の中で、とりあえず、小泉総理の下で実現したのが郵政3事業を公社化するというものだった。政府の公社化法案に対して、民主党は公社化そのものには賛成としたうえで、ユニバーサルサービスを義務付けたうえで信書送達への民間全面参入を認めること、郵貯の限度額を引き下げることで資金規模を縮小すること、郵政公社にも預金保険料相当分を国庫に納付させること、特定郵便局制度を見直すことなど、民間との競争を促進しつつ、郵政公社の役割を限定することを主張した。党内で議論を重ねた結果、民間で出来ることは民間に、という視点で集約された修正案だった。

当時、私は政調会長だった。政府案とその与党修正案に賛成してほしいというのが郵政職員の労働組合である全逓(現・JPU)と全郵政の意見だった。民主党案は働く者の立場からは厳しすぎるというのである。衆議院採決の直前、両組合の委員長が民主党も賛成してほしいと要請に来られたが、お断りした。民主党は、公社化そのものは一歩前進であるとして、公社化法案の政府原案には最終的に賛成したが、子会社などへの公社の出資を認める、国庫納付金の負担を限定するとして与党が提出した修正案については、改革を後退させるものであるとの理由で反対したのである。

平成15年4月に郵政公社が設立され、民間出身の生田正治総裁の下で、例えば28万人の職員を2年間で1万7000人削減する行動計画を打ち出すなど、着実に改革を進めていた。しかし、小泉総理はこれだけでは満足できなかった。自民党総裁として再選されると、改めて郵政3事業の民営化に着手した。

郵政民営化の本質は350兆円にある

平成15年11月9日、総選挙が行われた。民主党は自由党との合併を実現し、菅代表、小沢代表代行、そして岡田幹事長の体制で選挙に臨み、40議席増やした。政権交代は実現しなかったが、着実に政権交代可能な政治に近付いていた。

この選挙で、小泉自民党は郵政民営化について、「郵政事業改革を2007年4月から民営化するとの政府の基本方針を踏まえ、日本郵政公社の経営改革の状況を見つつ、国民的論議を行い、2004年秋頃までに結論を得る」とマニフェストに明記した。小泉総理は、この表現は郵政民営化を自民党として公約したものだと主張。しかし、民営化反対論者は、民営化という政府方針を踏まえ検討すると約束しただけで、民営化を公約したわけではないと主張した。いつもながらの自民党らしい曖昧な決着だった。

これに対して民主党は、高すぎる郵便事業への民間参入条件や公社経営に対する過剰な行政の関与を排除する、2年以内にユニバーサルサービスを前提として民間企業の参入を大胆に進める、最終的な経営形態を考える前に郵貯の預入限度額と簡保の加入限度額を段階的に引き下げる、市場機能を活用して郵貯・簡保資金を地域や中小企業に役立たせるシステムを構築する、などと公約した。

総選挙直後の11月25日の予算委員会で、初めて郵政3事業民営化の本質は何かということについて小泉総理と議論した。私が質問したのは、本来民間で使われるべき巨額の資金が官に流入していることこそが最大の問題で、郵政民営化の本質はそこにあるというものだった。

すなわち、350兆円という郵貯・簡保マネー、とりわけ郵貯マネーは従来、財政投融資に直入で流れ込んできた。その後、財投改革の中で、国が直接保証しない財投機関債を特殊法人が発行することを可能としたにもかかわらず、その財投機関債は極めて限定的にしか発行されていなかった。そして、政府が発行する財投債、あるいは国債そのものの購入に郵貯・簡保マネーが利用されている。これをどうにかすることこそが問題の本質であると指摘した。

私が言おうとしたのは、郵政公社自身が大量の財投債を含む国債を購入している、ここを改めることは政府の判断で可能であり、その出口を絞ることで郵貯・簡保マネーの大幅な縮小につながるということである。

小泉総理は「大事なことは民営化、賛成か反対かなんですよ。それを民主党は示していない。逃げている」と挑発したうえで、「どういう民営化の案がいいかということを来年の秋までにまとめるんです」と答弁した。

私は、総理は全く質問に答えていないとしたうえで、郵政民営化と言うが、民営化した株式会社が350兆円を自分で運用する能力がどこにあるのか、350兆円のボリュームを減らさないと話が始まらない、その具体案を示すべきと再度質問した。

小泉総理は、郵政民営化の5つの基本原則を出しているとしたうえで、「私よりもっと知恵のある方がたくさんいます。そういう専門家の意見も聞いて、1年かけてまとめようと」「私に何でもしろと言うほうが無理ですよ。総理大臣として大事なのは、方針を出すことです」と答弁。結局、私の質問には答えることのない、すれ違いのやり取りに終わった。

しかし、総理は民営化の具体論を述べるべきで、それがないまま民営化を念仏のように唱えるだけでは迷走する。私は最後に、「はっきり申し上げておきます。この民営化は必ず迷走します」と結んだ。

いま改めて、このときのやり取りを思い返すと興味深い。私の問題意識は、民営化の具体論で議論すべきで、実現不可能な民営化あるいはリスクの高すぎる民営化であってはならないということと、そのためにも、まず350兆円の郵貯・簡保マネーの規模を縮小すべきであるということだった。350兆円の規模縮小は、財投制度の仕組みが変わった以上、政府の意思で出来ることであるとの認識に立っての質問だった。

しかし、小泉総理は、民営化まずありきで、その具体的内容は二の次であり人任せ、私の指摘にも答弁しなかった。この構図は、そのまま郵政解散・総選挙に至るまで続くことになる。

本来は民営化が筋

平成16年10月、前回の予算委員会での質疑から約1年を経て、臨時国会の本会議代表質問に立った。この間私は、5月に菅直人さんの辞任に伴って代表に就任、参議院選挙に勝利し、9月に再任されたばかりだった。

郵政民営化問題は、この時点で、政府が9月に郵政民営化の基本方針を閣議決定していた。郵便、郵貯、簡保、窓口ネットワークの4事業の分社化、平成29年3月までの郵貯・簡保両会社の民有民営化などがその内容だった。これに自民党のかなりの議員が激しく反発していた。

この本会議代表質問が、翌年の通常国会最大のテーマであると予想された郵政民営化問題の実質的スタートだった。私も踏み込んで質問した。

私はまず、ユニバーサルサービスが求められる郵便事業を別とすれば、郵貯・簡保については民間で出来ることであるから本来は民営化するのが筋と考える、と明言した。

「本来は民営化が筋」というのは、党内の当時の状況からすると、かなり踏み込んだ発言だった。小泉総理が民主党は民営化を逃げていると発言した1年前の国会のやり取りが頭の中にあった。代表として、党内論議をきちんと方向付けしたいという党内向けの発信でもあった。

もちろん、私はやみくもな民営化論に立つものではなかった。だからこそ、「民営化は手段であって、目的ではありません。国民の立場でプラスになる民営化でなければ意味がありません」と述べ、その上で3つの疑問を指摘した。

第1の疑問は、1年前の予算委員会質問と同じもの、すなわち郵貯・簡保マネー350兆円の問題である。大手銀行ですら貸出先の開拓に苦労するなかで、メガバンクの10倍規模の巨大資金を、運用経験のない民営化された郵貯銀行と簡保会社が自らのリスクで運用し、利益を出すことが出来るのかということである。

第2の疑問は、民営化がうまくいかなかったときには、事業規模や事業内容を拡大した公社が民営化されることなく残り、結果的に官業の肥大化に終わるのではないかということ。民間が株式を持つという、本来の意味での民営化がなされるまでは、新規分野への進出を制限するとともに、まず事業規模の縮小を行うべきと主張。

第3に、将来にわたり民営化会社が財投債を買い続け、出口の改革である特殊法人の改革が進まない懸念があるということだった。

小泉総理の答弁は、本会議答弁ということもあって、官僚作成答弁書の棒読みだった。しかし、郵便局ネットワークが提供しているサービスの縮小ではなく、国民の貴重な資産であるネットワークを最大限活用する方向で民営化の制度設計をすると答弁し、拡大路線を暗示したことが妙に印象に残った。

平成17年通常国会冒頭の代表質問でも、同様の質問を繰り返した。

まず、総理が施政方針演説の中で、郵便局が集めている350兆円の資金の流れを官から民へ変えていくことを郵政民営化の理由に挙げたことを捉えて、「官への350兆円の流入を止めることは、郵政民営化とは無関係に実現できることです」と指摘。郵政公社が財投債を買い支えることをやめ、市場が受け入れ可能な財投機関債を発行できるように特殊法人を徹底的に改革すべきと主張した。

次に、郵貯・簡保については、将来的には民営化が本筋と考えていると改めて明言したうえで、将来展望なき民営化は350兆円の国民資産をリスクにさらすとともに、日本経済にも大きな混乱をもたらしかねないと指摘。もう少し丁寧に民営化を模索することが必要だと述べ、具体的に次の3点について明確化を求めた。

第1に、個人金融資産の約25%を占める350兆円の郵貯・簡保資金の運用が民営化されたときに、この国民資産を安全・有利に運用できる能力をいかにして短期間に高めるのか。

第2に、郵政公社が保有する150兆円を超える国債を民営化法人が自由に売却したときに、国債市場は大丈夫なのか。

第3に、220兆円の巨大銀行、120兆円の巨大保険会社の誕生で、金融市場の健全な競争環境は維持されるのか。

小泉総理はまず、「財投債の発行については、対前年度比10兆円減額するとともに、財投機関債については、前年を大幅に上回る発行額とするなど着実な改革が進んでおります」と答弁。官僚作成の答弁だが、「前年を大幅に上回る財投機関債の発行額」とは平成17年度で6兆円であり、30兆円を超える財投債発行額の5分の1に過ぎないことを、小泉総理はご存知だったのだろうか。

私の3点の本質的な指摘に対しても、形式的な答弁しか返ってこなかった。第1点については「移行期間中に順次体制整備を図ることができるよう、現在制度設計を検討しております」。第2点については、「移行期においては、市場関係者の予測可能性を高めるために適切な配慮を行うこととしており、国債市場の安定性を損なうことのないよう十分配慮いたします」。第3点については、「小泉内閣は我が国の金融システムの強化と機能向上にも強力に取り組んでおり、民営化後の郵便貯金会社、郵便保険会社を含め、市場で適正な競争が行われることによって国民にもメリットをもたらすものと考えております」

小泉総理は自分で答弁を読みながら、その内容が中身のない作文であることに気付いていただろうか。確かに、自民党との間で調整中ではあった。しかし、このときもう少し具体的な答弁がなされれば、民主党との対話が進んだかもしれないと思う。

この日の代表質問でハプニングが起きた。私が小泉総理の答弁の不十分さに業を煮やして再質問したのに対し、小泉総理は「すべてに明確に答弁しております」と言い放って、再答弁することを放棄したのである。

我々は抗議の退席をし、通常国会のスタートから波乱の幕開けとなった。小泉総理も郵政民営化の実現の困難さもあって、必要以上に精神が高ぶっていたのだろうか。

この時点で私は、郵貯・簡保は可能であれば民営化が望ましいと考えていた。本来民営化が筋であるとあえて述べたのは、私の正直な気持ちである。しかし、350兆円という巨大な資金、その原資は国民の小口貯金と簡易保険である。段階を踏んでリスクを減らしながら、民営化を実現しなければならない。そのためにも、次の3点が重要だと考えていた。

第1に、350兆円の郵貯・簡保資金は、政府が財投債を郵政公社に買わせることが問題。これを制限すれば、郵便局が無制限に民間資金を集めることは出来なくなり、規模縮小につながる。政府が財投債を郵政公社に買わせないことは、郵政の民営化論とは関係なく小泉総理の意思で実現できることであり、直ちに実行すべきだということ。

第2に、郵貯・簡保の民営化は方向としては正しい。しかし、巨大すぎるままの民営化ではリスクが大きすぎ、まず預入限度額引き下げなどで規模縮小に着手すべきである。民営化されたときの地方の金融機関への影響などの問題も解決されなければならない。そもそも、いままで全く経験のない貸付などが、民営化された郵政公社に果たして可能なのか。実現可能なビジネスモデルの提示が必要だということ。

第3に、郵便事業については、国の関与は残すべきだが、他方で国の関与の残った郵便局が民間の事業分野にどんどん進出することとなると、かえって非効率となる。したがって、官業肥大にならないような仕組みが必要だということ。

これらの問題点を踏まえた、より良い民営化の案が何とか出来ないかという思いだった。私が納得できるような案が政府案としてまとまれば賛成もあり得るとの思いで、この時点では小泉総理に質問していた。

民主党、民営化でまとまらず

郵政民営化問題が通常国会の大きなテーマである以上、それに対応した党内体制をとる必要がある。民営化については、党内には賛否両論あり、しっかりした体制が必要である。

このため、党内論議を行うための党の政策の最高意思決定機関である『次の内閣(ネクストキャビネット)』のネクスト総務(郵政担当)大臣、そして党郵政改革調査会の会長を誰にするかが最初の問題だった。仙谷政調会長と相談して、金融問題に強い、論客の五十嵐文彦さんを指名した。

平成17年1月、通常国会開会に先立ち、前年10月の地震の被害が残る新潟県越後湯沢で『次の内閣』閣議を開催した。1泊2日で次期通常国会の主要テーマを集中討議するためである。この中で私は、郵政民営化問題に関し、「本来は民営化が筋」という私の発言に沿って、将来の民営化の可能性について検討するよう指示を出した。小泉総理の民営化案と比べ、より実現可能な具体的ビジネスモデルが示せないかとの思いだった。

党内の郵政改革調査会で本格的な議論が始まった。私自身は議論に参加することなく、仙谷政調会長や五十嵐ネクスト大臣に意見集約を委ねていた。私自身の方向性は示してあるので、具体的取りまとめは現場に任せたのである。

結果的に、党内論議は民営化ということではまとまらなかった。党内論議をまとめる最終場面で、当面公社で行くとしても、郵政公社職員の非公務員化を実現することや、将来の選択肢の1つとして民営化を明示できないか、少なくとも「民営化を含むあらゆる選択肢」という表現が出来ないかと検討してもらった。関係者には努力してもらったが、残念ながら、これすらも実現できなかった。党の内外に代表として「民営化が筋」と何度も明らかにしながら、その方向で党内をまとめることが出来なかったことは力足らずであり、いま思い返しても本当に残念に思う。

結局民主党は、郵便事業についてはユニバーサルサービスを維持するが民間参入は積極的に認める、郵貯については当面は預入限度額の上限を引き下げ徐々に規模縮小を図る、その後の郵政事業のあり方についてはあらゆる選択肢を否定しない、職員の身分は公務員制度改革全体の中で検討していく、ということで党内論議を集約した。将来の着地点は当面決めないが、まず公社のままで規模縮小を着実に進めるという案である。

いま、なぜ私の指示が実現しなかったのかと思い返すと、1つは民主党内の意見対立があったことは否めない。党内には民営化論者もかなりいたはずだが、民営化反対論の声も大きかった。「簡保のみ廃止」や「郵貯は決済機能を残しつつ縮小」など多様な意見もあった。仙谷政調会長や五十嵐ネクスト大臣が党内で民営化の具体案をまとめることはとても出来ない状態だったのだと思う。

加えて私自身も、民営化の方向で政府案に替わる、より良い具体案を何が何でもまとめようとの執念に欠けていた。同時に、このことに大きなエネルギーを割くだけの余裕がなかった。翌年の可能性が高いとされた総選挙に向けて内政・外交のビジョンを作ること、すべての選挙区に候補者を擁立すること、そして代表として47都道府県を訪問することなど、あまりにも多忙すぎた。加えて、4月25日投票だった衆議院補欠選挙も行われており、小泉総理の盟友である山崎拓氏を落とせば、政治に及ぼす影響は極めて大きい。党内が混乱して、その補選に悪影響を及ぼすようなこともなるべく避けたかった。党内は政府案反対という1点ではまとまっていた。党内に強い異論がないなら、やや曖昧な決着でもよいとの最終判断をした。

このとき自民党内は、政府が4月にその骨子を決定した民営化法案の賛否をめぐって大混乱していた。反対派と連携することはしないものの、小泉総理の力を弱めるチャンスを活かすべきとの判断も当然あった。つまり、民主党が下手に民営化の方向性を出すと自民党内の民営化反対の動きにとってマイナスになり、結果的に小泉総理に塩を送ることになると考えたのである。この考えは、民主党内の民営化賛成論者も含めて広く共有されていたと思う。

他方で私は、小泉総理の道路公団改革やその他の改革の多くが中途半端に終わってきたことを見てきた。今回の郵政民営化問題も、どうせ最後は小泉総理と民営化反対派は妥協するだろうと冷めた目で見ていた。

民営化の内容を議論しない小泉総理

平成17年4月20日の党首討論は、民主党の党内集約を受けての議論となった。

私はまず、「自民党案は国営企業を維持したまま肥大化させる案であり、民主党案は公社を前提としながらスリム化する案だ」と指摘した。民営化することを前提に、事業は多角化される。しかし、自民党内の妥協の結果、結局、完全民営化は実現できないだろう。結果として、官の肥大化になるだけではないかとの指摘だった。

当時、自民党民営化反対派の真の狙いは、官のまま肥大化させることではないかと言われていた。つまり、民営化するために必要との論理で事業の多角化を図り、民の領域にどんどん入り込んでいく。しかし、結局民営化は無理でしたということになり、後に残されるのはいまより多角化が進み、民間とも競合する巨大な国営会社になるというわけである。4月27日に閣議決定されることになる郵政民営化法案でも、自民党との妥協の結果、郵貯銀行と簡保会社の株式を持株会社が連続保有することが認められていた。

実は、郵政公社で働く人々の労働組合にも、公社のまま肥大化することへの待望論があったと思う。雇用を守る立場からの主張だった。これに対し、民主党案は当面公社のままで行くが多角化は認めず、むしろ350兆円の規模をスリム化していくことに特長があった。その過程で、雇用面でも厳しい局面が出てくるが、それはやむを得ない、ただし労働基本権が認められていない以上、退職者不補充などの形で調整を進めるべきと判断していた。

私は、政府内での試算が、350兆円の郵貯・簡保マネーの運用の内訳として35兆円の貸付をするとしていることを取り上げて質問した。35兆円というメガバンク1行に相当する規模の貸付について、「例えば、メガバンクが戦後60年間営々と築いてきた人材やノウハウあるいは取引先が全くないなかで、これから10年間で同じ規模を貸し付けるというのは絵空事ですよ」「できないということは、結局100%民営化することは出来ず、官の肥大化を招くだけになる」と指摘した。

ここでメガバンクとの対比で妙にリアルな表現を使ったのは訳があった。しばらく前に、当時の全国銀行協会会長の西川善文さんにお会いしたときの西川さんのお話を踏まえて発言したのである。その西川さんが日本郵政株式会社のトップに就任し、いまや郵政民営化の責任者となった。世の中、何が起こるか分からない。

小泉総理は、私の35兆円の貸付の質問に対しては全く答えず、「公社のままで公務員がどうして350兆円運用できるのか」「今の郵便局の仕事は国家公務員でなければできない仕事とは思っておりません」と、いつもながらのすり替え答弁だった。公社が民営化され、そこで働く人々が公務員でなくなれば、350兆円の運用、35兆円の貸付が突然可能になるとでも言うのだろうか。

私はさらに、国の出資が3分の1以上残った持株会社の100%子会社である郵便局会社が、損保・生保の商品を売り、コンビニの経営や住宅のリフォームまで扱うと想定されていることは、準国営会社の肥大化であると指摘。総理は「民間になった会社が民間と同じような仕事をやってどうして民業圧迫と言えるんですか。それは民間の間の競争であります」と反論した。私は再度、民営化されるのではなく、3分の1以上国が資本を持っていることを指摘したが、議論はすれ違いに終わった。

結局小泉総理は、持株会社は国の出資が当初は100%であること、将来は3分の1以上になるとしても、100%国営会社の状態が長期間維持される可能性があることを全く分かっていなかったとしか思えない。その後、総選挙の際に、私が同様の指摘をしたときに、小泉総理は10年以内に持株会社に対する国の出資比率は3分の1になると明言した。しかし、法案の中にはいつまでにという期限の規定はなされておらず、小泉総理は明らかに誤解していた。

この日の小泉総理の答弁は、とにかくまず民営化ありきの議論だった。そしてメディアの報道は、法案の閣議決定を目前にして、自民党内の民営化賛成か反対かの議論を面白おかしく伝えることに集中していた。民営化の内容の是非について議論がなされる状況ではなかったし、私の党首討論の発言が取り上げられることも少なかった。

しかし、郵政民営化問題は突き詰めれば、国民から預かっている350兆円の資産の問題である。民営化に失敗すれば、巨額の税投入によって再度国有化して支えるしかない。同時に、資金供給のルートが不安定になれば、民間企業の経済活動の根幹を揺るがしかねない問題ともなり得る。絶対に失敗することは許されず、着実な民営化プロセスが必要なはずである。小泉総理が民営化を強調しながら、民営化のプロセスや中身について関心がないことが、私には不思議でならなかった。

あくまで民営化先にありき

平成17年6月2日の予算委員会が、私の民主党代表としての最後の郵政問題に関する国会質疑となった。自民党総務会の最終的な了承なく国会提出された政府案は、郵政民営化特別委員会で与党議員からの攻撃にさらされていた。6月28日の法案の与党修正、7月5日の衆議院採決までは少し時間があった。

実は、4月の党首討論以降、党首討論や予算委員会を開催して小泉総理と郵政や年金の問題を是非議論したいと願っていた。しかし、その機会は与えられなかった。この時期、与党内の混乱もあって、私と小泉総理の直接対決の機会をつくることを避けるというのが与党の方針だったようである。

まず私は、何のために民営化するのかと改めて質問した。小泉総理は「私は、民間人で郵便局の経営はできると思っておりますし、40万人もの国家公務員がやる仕事か」と、国家公務員を減らすことが出来るメリットを強調した。その後、総選挙においても小泉総理や自民党が最も強調したポイントだった。

私は、公務員でなくすために民営化するというのは、おかしな本末転倒の議論であると発言。その上で、公社のままでも非公務員とするという選択肢もある、現に郵政公社と同じ経営形態だった国鉄や電電公社の職員は公務員でなかったと指摘した。

私はその後、次の論点の質問に移ったのだが、この公務員でなくすために民営化するという、小泉総理の一見分かりやすい、しかし本質的でない論理を、このときに徹底的に論破すべきだったと反省している。実はこの点こそが、国民の多くが郵政民営化を支持したポイントではなかったか。公社のままでも公務員でなくすることが可能であることが理解されれば、総選挙の流れも変わったかもしれない。

しかし、私自身もこの点を強調できない弱みがあった。党内的に合意が得られていなかったからである。公社のまま公務員でなくするという考え方を一度は党内で打ち出しながら、中途半端に断念したことは大きな反省点である。

次に私が強調したのは、郵政公社の保有国債が5年間で50兆円から150兆円まで増えているという驚くべき事実だった。その国債の中には、特殊法人が活動するための財投債も含まれている。特殊法人の無駄を小泉総理は強調し、そのための郵政民営化を主張する。しかし、かつての郵貯・簡保マネーの財投機関への直入方式はいまや改められている。にもかかわらず、郵政公社が財投債を含む国債をどんどん買うことで、特殊法人の活動を維持してきた。小泉政権の下で、このことがなされてきたのである。ここを改めれば、すなわち政府が、郵政公社の国債引き受けをこれ以上増やさないという決断さえすれば、特殊法人の資金の流れは圧倒的に細くなり、無駄遣いもなくなるとの指摘である。

小泉総理の答弁は、郵政公社は安全を重んじるために国債を買わざるを得ないが、民営化されれば、より有利な活用を求めて民間に流れるというものだった。例によって、全く議論が噛み合っていない。

小泉総理の答弁は、お金が集まったから国債を買わなければならない、民営化すればリスクマネーに手を出すことが出来るということである。これは、巨大な350兆円の郵貯・簡保マネー先にありきの発想である。利子を付けて元本を返済できる範囲、すなわち運用可能な範囲で資金を集めるという、民間では当たり前の発想になぜ立てないのか。

いや、郵政公社も赤字を出さないためには当然そのことを考えているはずである。それにもかかわらず、政府は郵政公社に100兆円の国債を新たに引き受けさせた。その政府のトップが小泉総理である。郵政公社に100兆円もの巨大な国債を引き受けさせ、公社の肥大化を招いてきたのは、小泉総理自身だと言っても過言ではない。

私はさらに、政府の示した試算に基づいて、郵便局会社が行うことになっているコンビニの売上利益率が10%となっているが、これは既存のコンビニの水準の倍以上であること、郵貯銀行が35兆円のリスクマネーの運用で3200億円の利益を上げることになっているが、人材もいないなかでどうやってこれだけの巨額のマネーを運用し、利益を上げるのかなど、具体例を挙げて質問した。

小泉総理は「移行期にそのような体制がとれるように準備をする」「もっといろいろな事業を展開できる民営化会社にしたほうが国民のサービスにも資するとの観点から民営化を考えている」と答弁。相変わらず、何を聞いてもまず民営化ありきの答えしか返ってこない。

私は最後に、独りよがりにならず、多くの人の意見に率直に耳を傾けてもらいたい、いま誰も総理に対して間違っていると言えない、そういうなかで、まず民営化ありきで非現実的なプラン作りが行われていると指摘。このままでは国民の重要な350兆円の資産が毀損される。その結果、民営化された郵政会社に対する、税を原資とする資本の注入、すなわち再国有化することになりかねないと忠告した。私が最も懸念する点を率直に述べたつもりである。

この日の質疑を通じて、郵政民営化に関する政府案が十分に吟味されたものではなく、将来うまくいかない可能性が高いという私の疑念はさらに強くなった。この法案は間違っているという確信をますます強めたのである。

しかし、この日の議論を聞いて、国民がどう受け止めたかは別である。民営化の内容を論じるより、民営化そのものの是非を問う小泉総理の言い方のほうが分かりやすかったことは間違いない。郵政民営化や財政投融資の問題は専門家でないと分かりにくい。他方でメディアは、連日小泉総理と自民党の郵政民営化反対派とのバトルを報じていた。様々な民営化のやり方があるとか、民営化の問題点といった政策論はどこかに行ってしまい、小泉民営化に賛成か反対かに国民の関心が集中しつつあった。

政府案否決、そして解散へ

郵政民営化法案の衆議院郵政民営化特別委員会での審議は続いた。民営化については賛否両論あったものの、法案を否決するということで民主党内は1つにまとまっていた。特別委員会審議における民主党委員は極めて士気が高く、結束していた。

自民党内は民営化反対論者の声が高まるなかで、次第に反小泉対親小泉という政局的色彩がより強くなってきた。マスコミの関心も、この自民党内の争いに集中し、国会審議が報道されることはほとんどなかった。そして世論調査によれば、郵政民営化問題そのものに対する国民の関心は相変わらず低かった。

私自身はこの間、東京都議会選挙に大きなエネルギーを割かなければならなかった。国会対応は川端幹事長と鉢呂国対委員長に任せて、都内を走り回った。

7月3日の投票日、当初劣勢が伝えられたなか、民主党は19議席から35議席へと大きく議席を増やした。ただし、国会終盤の重要な時期に、東京とはいえ、代表が地方議会選挙に大きなエネルギーを割かなければならないことに釈然としないものを感じていた。

7月5日、衆議院の本会議採決が行われ、わずか5票差で法案が可決した。民主党は1人の造反者もなく、全員が政府案に反対することが出来た。忘れられないのは、そのときの小泉総理の反応である。法案が無事衆議院を通過してよかったというよりは、もう少しで否決だったのに惜しかったとも受け取れるような表情だった。負け惜しみのポーズだったのか、それとも本意が思わず出た瞬間だったのか。あとで考えれば、このときにはすでに、法案否決・解散シナリオが出来ていたのかなと思う。

参議院での審議に入り、次第に法案が否決されれば小泉総理は衆議院を解散するのではないかとの見通しが出てきた。しかし常識的には、政府案を与党が否決することは与党による小泉総理の不信任であり、内閣総辞職になる可能性が高い。いや、そもそも否決の可能性が高ければ、法案を継続審議にするなどして採決を避けるだろうというのが、メディアを含めた大多数の見方だったと思う。私も、解散・総選挙の可能性も否定できないものの、参議院自民党は最終的には採決回避の行動を取る可能性が高いと予想していたのである。

そういう中、党の役員会で解散をどう考えるべきか議論した。政権交代のチャンスだとの意見が圧倒的だった。

私自身、少し冷静になって考えてみた。仮に解散・総選挙となれば、支持率が50%を超える総理と、かつ小泉総理が最も得意な郵政民営化をテーマに選挙をしなければならない。民主党の選挙準備は前倒しで進めてはきたものの準備不足だった。党の政策の大枠はそれまでの議論の蓄積で十分だったが、代表の内政ビジョンは最終取りまとめに向けて作業中だった。公認候補者の擁立作業は順調に進んでいたが、あと1年ぐらい候補者が地元でしっかり活動する時間が欲しかった。これらが懸念材料だった。

加えて、郵政法案が僅差で参院可決されたとしても、小泉総理はその後、自民党内で急速に求心力を失う可能性が高く、そして、次の総理が誰になろうと来年秋以降であれば十分互角の戦いが出来そうだった。以上の理由から、解散を確実に避けるという選択もあり得ると思っていた。

しかし、与党も準備不足は明らかだった。特に、公明党は都議会選挙終了後、まだ総選挙の態勢に移行できていないはずだった。そして、何よりも自民党が党内分裂によって政府提案の法案が否決されるなかでの選挙は、明らかに我々にとって有利なはずだった。以上を踏まえて、選挙になれば政権交代の可能性はある、したがって、ここは解散に追い込んでいこうと最終判断し、参議院本会議で法案が否決されることを目指して全力を挙げることにした。

ただ、解散の可能性が高いと野党が言うと、自民党の郵政民営化反対派が躊躇する可能性がある。法案が否決されない限り解散はない。このため、対外的には解散はないと言い続けることにした。自民党の民営化反対派を混乱させる可能性があるため、民主党の対案を出すことも控えることにした。同時に、解散になっても対応できるように、マニフェストの準備や残された選挙区の公認作業に全力を挙げた。党所属の国会議員や総選挙の候補者には、何があっても対応できるよう全力を挙げてもらいたいと指示した。

8月8日、参議院本会議で郵政民営化法案が17票の大差で否決され、小泉総理が衆議院を解散した。民主党内は政権交代の可能性が高まったという高揚した気分だった。両院議員総会を開き、総選挙で勝利し、政権交代を実現しようと確認した。1人ひとりと握手したが、皆が盛り上がっていた。自民党内の分裂状況は目を覆わんばかりで、混乱した自民党と選挙することになるはずだった。分裂選挙区では自民票が割れ、民主党候補が有利なはずだった。

郵政選挙の狂騒

しかし、この後の小泉自民党の対応は、ある意味で見事だったと思う。反対派を追放し、同じ選挙区に女性候補やホリエモンといった刺客を立てることで、党分裂というマイナスをプラスにした。直前まで国民の関心の低かった郵政民営化問題を、「郵政民営化賛成か反対か、国民の皆さんに聞いてみたい」という総理の一言で、選挙の最大かつ唯一のテーマにしてしまった。国民の多くは年金改革も将来の増税も忘れて、小泉郵政民営化の是非に関心を集中させた。

一方私は、解散直後は何とか政策全体を訴えるマニフェスト選挙にしたいと考えた。2年前の総選挙、1年前の参議院選挙と、マニフェスト選挙は次第に定着してきていた。加えて、郵政民営化を唯一の争点とする選挙にすることは、相手の土俵に乗ることであって不利だと判断した。

しかし、政権政策全体を幅広く訴えるマニフェスト選挙にはならなかった。国民の関心は郵政民営化に集中したのである。各党のマニフェスト発表を機に、新聞を中心にメディアの一部もマニフェスト選挙に何とか戻そうとしたが、郵政民営化の是非と刺客騒動に傾いた国民の関心が戻ることはなかった。

民主党として郵政民営化問題をどう訴えるか、改めて関係者で議論した。従来の340兆円の郵貯・簡保、特に郵貯の規模縮小の具体的な方法として、その預入限度額を平成18年度中に700万円に引き下げ、その後500万円にすることで、8年以内に郵便貯金220兆円を半減させることにした。また、郵便事業については国の責任で全国一律サービスを維持することを訴えることを確認した。以上はマニフェストとして明記された。

問題は、規模縮小後の郵貯・簡保をどうするかということだった。将来は民営化するというのが私の主張だったが、規模縮小したうえで存続させるべきとの意見や、完全に廃止すべきとの意見もあった。このため、マニフェスト作成時点では規模縮小にとどめ、その後のことは明記しないことにした。そして「適正規模に縮小後は、政府系金融機関との統合も含め、あらゆる選択肢が可能になります」と表現することにした。中小企業金融など公的金融が責任を果たさなければならない分野は残る。その資金供給源として、大幅に縮小した郵貯を活用するというのは、政策論として魅力的ではあった。ただし、一般の有権者には分かりにくい表現だった。

しかし、メディアの関心が郵政民営化問題に集中するなかで、より分かりやすい対応が求められるようになった。個々の民主党候補者の間には、選挙区で有権者に問い詰められて、「私は民営化に賛成だ」と唱える人も出てきた。幹部の発言にもブレが目立つようになってきた。

このままでは混乱する。私は民主党代表として、「将来は民営化か廃止だ」と明言することにした。「あらゆる選択肢」と明記した民主党マニフェスト、「将来は民営化が筋」としてきた私の発言、いずれとも矛盾しない結論だった。

選挙戦の最中に何度か各党党首の討論会が開催された。小泉総理は「抵抗勢力の反対を押し切って民営化を進めてきた、郵政民営化に賛成か反対かがこの選挙の争点だ」ということを繰り返した。

私が民営化の内容についての議論を試みても、コメンテーターからは「民主党は政府の民営化法案に反対だが郵政民営化は必要と言う。これは分かりにくい」と批判された。おそらく政府案をきちんと読み込んでいないだろうと想像しながら、その問題点を指摘した。しかし、郵政民営化に賛成か否かという小泉総理の議題設定を多くの人が無条件に受け入れ、議論していた。本来は小泉民営化法案に賛成か反対かが問われるべきだったのである。しかし、冷静な政策論議がなされる雰囲気はなかった。

小泉総理の民主党攻撃の1つに、民主党は郵政公社の職員の身分を公務員のままにしておきたいのだろうというものがあった。そう批判しながら自民党は、民主党案では郵貯・簡保の規模縮小により大幅なリストラは避けられないと攻撃してきた。私や枝野さんは、公社職員の人員削減はやむを得ないと発言。同時に、生田総裁の下、すでに公社職員の数は2年間で28万人から26万人へ約2万人も減っている、今後も削減は十分可能だと主張した。公務員であることはけしからんと言いつつ、必要な人員削減は否定するという自民党の論理はよく分からなかったし、それに賛同した国民の気持ちもよく理解できなかった。

民主党は解散直後、小泉総理と私の1対1の政策討論会の開催を求めた。米国の大統領選挙では、ブッシュ大統領と民主党のケリー候補の政策討論が3回、計4時間半なされていた。2大政党の時代を迎え、日本も同じことが出来ないかと考えたのである。

藤井代表代行に自民党本部に行って直接要請していただいたが、小泉総理は「他の政党に不公平になる」との理由で応じることはなかった。民主党だけではない。日本外国特派員協会も自民党と民主党に直接対決を同協会主催で行うよう要望したが、自民党は受け入れなかった。

この選挙では、新たに国民新党と新党日本の2党が出来た。したがって、テレビなどの党首間の討論は与党2党と野党5党で開催された。公明党の神崎武法代表は小泉総理と連携を取って発言した。しかし、野党は数が多いだけでなく、発言は当然のことながらバラバラだった。社民党や共産党は小泉自民党を批判しつつ、岡田民主党に対してもより厳しく批判した。2大政党化の流れに埋没することなく議席を増やそうとすれば、支持者の一部が重なり合う民主党を攻撃することは合理的な行動ではあった。

しかし、総選挙において、小選挙区に候補者を大量に擁立しているのは、自民、民主、共産の3党に過ぎない。政権政党となる可能性があるのは、自民、民主の2党だけである。そういう意味で、選挙期間中の討論のあり方も再検討の余地があると思う。

選挙期間を通じて、郵政民営化だけが争点の選挙は成り立つはずがないと思ってきた。どこかで潮の流れが変わるだろうと期待した。

実は、街頭演説の感触はかなり良かった。前年の参議院選挙や、幹事長として臨んだ前回の総選挙と比べると、人も多く集まったし、何よりも熱気があった。演説後の握手は熱烈で、右手で握手している間に、いつの間にか左手がどこかに行ってしまっている、つまり、取り囲んだ人々に左手を取られてしまっている状態が続いていた。

そういう中で、途中で民主党の支持が高まる徴候が見られた時期もあった。しかし、結局最後まで郵政民営化の是非を問うという選挙が貫かれてしまった。

岡田民主党は当初、マニフェスト選挙を主張することで流れを変えようとした。しかし、前回の総選挙であれだけ国民の関心を引きつけたマニフェストに対する有権者の関心は低かった。選挙戦中盤からは、郵政民営化という唯一のテーマに対して、年金と子育てを中心テーマとして集中的に訴えることにした。

年金改革は直前の通常国会で私が最も力点を置いたテーマだった。前年の参議院選挙、2年前の総選挙における最大の争点でもあった。解散直前までの世論調査でも国民の関心は最も高かった。しかし、総選挙における関心は今一つ高まらなかった。

「子ども手当」の創設や仕事と子育ての両立支援も、民主党として力点を置いて政策を作ってきた分野だった。確かに、子育て世代には大きな関心を引き起こした。街頭演説でも、暑い中、乳児を抱いた若いお母さんやバギーを引いた若い夫婦が目立つようになってきた。「岡田さん、お願いします」と、真剣な眼差しで握手を求める人々が増していた。子どもを生みたくても生めない人たちに対する思い切った子育て支援政策を、という訴えは確実に届いていると実感した。しかし、大きな流れにはならなかった。

いつまで政策論議をやっているんだという批判も随分いただいた。小泉さんに対抗して派手なパフォーマンスをやれという声もあった。しかし、私らしく政策を訴える選挙を貫こうと思った。最後は敗れても、民主党のブランドは守り抜こう、あとで後悔するような姑息なやり方はしないでおこうと腹をくくっていた。

宴のあと

この総選挙に民主党は敗北した。特に都市部においては惨敗だった。小選挙区の当選者は、神奈川県と兵庫県がゼロ、東京都が菅さんのみ、千葉県も野田さんのみという状況だった。小選挙区における議席数は、前回総選挙の105議席から52議席に大幅に減少した。他方で、自民党は168議席から219議席に増やした。比例を含めて自民党は296議席を獲得、これに対して、民主党は比例でも11議席減らし、全体で113議席となった。

私は選挙前から、「政権交代が実現できなければ代表にとどまるつもりはない」と明言していた。開票日当日の9月11日、いや正確には12日の午前2時過ぎ、記者会見で代表辞任を表明した。

いま考えても、あの総選挙が郵政民営化というシングル・イシューでなぜあれだけ盛り上がったのか、いまだによく理解できないままである。小泉総理の「殺されてもいい」との決意に国民が反応したとか、国民の公務員バッシングの感情にうまくマッチした、あるいはマスコミがホリエモンを含む刺客騒動に偏った報道をしたことが影響したなど、様々な分析がなされている。

確かに、ホリエモンに対して異例の肩入れをした自民党も問題だったが、それを過剰に報道したメディアは異常だった。選挙に関心のなかった若者の気持ちを小泉自民党に駆り立てたことは間違いない。

辞任会見の際、私は「メディアも自省してほしい」と発言した。メディアをあからさまに批判するつもりはない。選挙に負けたのは私の責任である。しかし、メディアにも自らを振り返って反省してほしいという思いだった。その後、マスコミ関係者の間からも、総選挙でのメディアの対応について反省したり、自問自答したりする声が聞かれるようになったことは、日本のメディアがいまだ健全であることを示している。

しかし一方で、小泉チルドレンに関する報道などは、総選挙後も続いた。10月の特別国会で障害者自立支援法案など関係者にとって本当に深刻な法案が審議されていたときも、チルドレン報道に圧倒的に比重を置いているテレビ番組もあった。高い視聴率を目指して、面白おかしく報道するだけなら、コマーシャリズムそのものである。特に、テレビは公共性という大義名分があって、免許制による一種の独占が正当化されている。このことは、テレビ関係者は肝に銘じてほしい。今回の総選挙前後の報道は、これからのメディアのあり方に対して大きな問題提起をしたと思う。

もちろん、民主党のメディア戦略も再構築が必要である。参議院選挙までは自民党に先行した対応がなされてきたと自負している。しかし総選挙においては、明らかに準備不足だったし、反省しなければならない。民主党の政策や思いが国民に確実に届くようにメディアをどう活用するのか、これからの大きな課題である。

総選挙が終わり、郵政民営化法案が成立したいま、郵政民営化問題に関する国民の関心は、潮が引くようにほとんどなくなってしまった。あのとき、なぜあれほど熱狂したのか、自分でも説明できない人は多いのではないだろうか。あのときの熱狂の背景にある潜在的な国民感情、特にいままで政治に関心のなかった若者たちが、なぜあれだけ反応したのか、そのエネルギーの根源は何だったのだろうか。私自身、まだ答えを見出せないでいる。

思えば、自民党の「加藤の乱」から始まって、小泉総理誕生など国民の間には現状に対する大きな不満や不安のエネルギーがマグマのように蓄積していることは明白である。しかし、岡田民主党が国民が持つその潜在的なエネルギーを引き出すことが出来なかったことは、大きな反省点である。

最後に、この総選挙で民主党の小選挙区候補者は2480万票を獲得した。これは、その前の総選挙における民主党の候補者が獲得した2180万票を300万票上回るものである。もちろん、自民党候補者は600万票増やした。だからこそ、民主党は議席を大きく減らすことになった。しかし、あれだけの逆風選挙の中で、2480万人の有権者に選んでもらったということは大きかったし、日本に2大政党の基盤が出来ていることは間違いない。

小選挙区では公明党支持者の大部分が自民党候補者に投票した。いままでよりもさらに徹底した動きだった。小泉政権の5年間で自公両党の融合は大きく進んだ。民主党は地力において、いまでも自民党には負けていないが、自公両党に勝つには今一歩の力が必要ということだと思う。

次回総選挙に向けて楽観的な材料もある。自民党は300小選挙区ほとんどで当選者を得た。熱狂の中で新たに当選した議員たちが次回当選することは簡単ではない。しかし、次回当選が難しいと思われる候補者がいたとしても、現職議員である以上、次の選挙で差し替えは難しいだろう。民主党は多くの落選者を出したことで新たな候補者を擁立する余地が出来た。今回の総選挙は、小選挙区制度の怖さとともに素晴らしい可能性を示した。次回総選挙は、政権交代を実現する大きなチャンスだと思う。

郵政民営化のこれから

総選挙後の特別国会で、郵政民営化法が成立した。私は翌平成18年3月の通常国会予算委員会で、郵政民営化問題を取り上げた。選挙戦の間、民営化法案の内容や問題点について十分議論できなかったことから、最後の締めくくりのつもりだった。

私が小泉総理に質問したのは、郵政持株会社の民営化がいつなされるのかということだった。民営化法が施行されても、その時点で持株会社の株式は政府が100%保有している。郵便局の窓口業務を担当する郵便局会社と、郵便事業を担当する郵便事業会社は、それぞれ持株会社の100%子会社だから、両会社は設立当初、100%国が資本を持つ実質上の国営会社ということになる。その国営会社が東京や名古屋の中央郵便局の跡地開発や民間と競合する事業を行うことは問題ではないか、持株会社の株式売却のスケジュールを明らかにすべきだと質問した。

小泉総理は答弁せずに、竹中総務大臣が答弁した。竹中大臣はまず、「国営会社というふうに言われましたけども、民営化された民間の会社でございます」と強弁した。国が100%資本を持つ会社が民間の会社なのだろうか。そして、民間に持株会社の株式を売却するタイミングについては、持株会社に「しっかりとした経営の戦略を練るなかで判断していただく問題だと思います」「民間とのバランスを図るために郵政民営化委員会というのを別の組織としてつくって、そこでしっかりとイコールフッティングを議論してもらうという仕組みをつくっております」と答弁した。

私は、郵政民営化委員会には強制力がないことを指摘しつつ、10年後に持株会社の株式を引き続き国が100%持ち続けることはないですねと確認したが、竹中大臣は「私たちは想定をしておりません」とのみ答弁。つまり、100%持ち続けることはないと明言することは避けたのである。

持株会社の資産の大部分は、10年以内に完全民営化されると予定されている郵便貯金銀行と簡易保険会社の株式である。この株式がいくらで売却できるかで、持株会社の資産価値が大きく左右される。逆に言うと、この2つの金融子会社の完全民営化の目途が立たない間は、持株会社の株式を民間に売却するための価格を市場が決められないことになる。5年後の株式売却を目指しているとされているが、5年後に両社が自立できるだけのビジネスモデルは現時点で示されていない。したがって、持株会社に対して国が100%出資している状態はかなり長く続くと見なければならないと思う。

本来民営化というのは、株式を民間に売却することを意味してきたはずである。政府はいつの間にか「民有民営化」という言葉を使い出した。つまり、民間出身者が経営するのが民営化であって、その場合、株式を民間が持つ場合と全く持たない場合がある。前者が「民有民営化」であり、後者が「官有民営化」であると言うのである。しかし民営化とは、民間資本を取り入れ、市場のルールとチェックに基づく経営を実現することであり、100%株式を国が持った会社をつくることは民営化とは言えないはずである。

しかも、郵政公社の平成17年度の経常利益は1.9兆円と、トヨタ自動車を凌ぐ巨大なものである。100%国が資本を持つ巨大持株会社の100%子会社が、完全に民間と競合する分野に新たに進出していくことは官業の肥大であり、日本の市場環境に大きなマイナスの影響を及ぼすのではないかとの懸念がある。だからこそ、私は質問した。

しかし小泉総理は、私との最後の国会質疑の中で郵政民営化問題については全く答弁せず、竹中大臣に任せっきりだった。総選挙の最中に私の質問に答えて、「持株会社の株式も10年後に3分の2は売却すると法律上明記されている」と誤って言った小泉総理のことだから、郵政民営化法の具体的内容はあまりご存知なかったのかもしれない。

これから10年、果たして郵貯銀行や簡保会社は資金の自主運用能力を身に付け、完全民営化に至ることが出来るのだろうか。その際、メガバンクすべてを集めた以上の資金規模を持つ巨大銀行が日本の金融にどのような影響を及ぼしていくのだろうか。民営化が成功すれば、既存の中小金融機関との競合や債券市場などで大きな影響力・支配力を持つガリバーが誕生することになる。逆に成功しなければ、脆弱な巨大銀行が金融市場の不安定化を招くことになる。私は後者、すなわち自立できない巨大銀行誕生の可能性が高いと思っている。

これでは、何のために金融庁主導でメガバンクの再編をこれまで行ってきたのかということになる。郵貯銀行が最終的に自立できなければ、金融危機時に行ったように大量の資本注入をせざるを得なくなる。再国有化である。そして、その最後の引き受け手は国内には見当たらない。巨大外資銀行になるのだろうか。民主党が主張したように、まず規模の大幅縮小を行うことが必要だといまでも確信している。

そして、国が資本の大半を持った巨大事業会社が、物流、不動産、小売、サービスなどあらゆる分野に進出したとき、一体何が起こるのだろうか。いま官から民へという小泉政権が目指してきたことと全く逆のことが起きようとしているのである。

郵政民営化の具体化がいよいよスタートする。採算の取れるビジネスモデルとして、多くの問題と不安を抱え、他方で仮にうまくいったとしても、それぞれの分野で日本国民に大きな影響を与える存在となる。しかし、もう後戻りは出来ない。民営化が成功し、かつそのときの弊害が極力取り除かれるよう、銀行・保険の規模縮小や民の分野への過大な進出を不断にチェックしていくことが、これからの我々政治家の責任であると思う。

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